「うわ、すげぇ」
入った途端、周りの景色を見て裕太はまた目を丸くした。
「すごいよね」
周助も初めに来たときは少し驚いた。そして、きっと裕太はとても驚くだろうと思った。素直な裕太はきっと自分の何倍も驚くだろう。この何日か、そんなことを考えてとても嬉しかった。
「すごい。マジで外国みてぇ」
シーに入ると、イタリアの港町の街並みをモデルにしたというホテルミラコスタが目に飛び込んでくる。一見何百もの建物がつらなっているように見えるが、実際には中でつながった一つのホテルだ。
その外壁にはふんだんにだまし絵の技法が取り入れられており、それが非現実感とリアリティのバランスを保っていた。
「なんでもあまりにも建設費をかけすぎて、請け負った建設会社は結局赤字になったらしいよ」
「あー、わかる。ものすごく凝ってるもんな」
そんなことを言いながらミラコスタの下のアーケードを抜け、メディテレーニアンハーバーに出た。
完璧に演出されたイタリアの港町の風景の対岸には中世風の宮殿があり、その奥には荒々しさを残す火山が見える。一分の隙もないほどに造り込まれた風景だった。
「綺麗だね」
「キレイっつーかすごい。なんか遊園地って感じじゃねえよな」
「まあ遊園地っていうよりテーマパークだからね」
裕太は建物の力に圧倒されているようだった。
この年になっても裕太には擦れたところがない。斜に構えてバカにしたりせずに、そのまま圧倒されてしまう。
(きっとここを作った人達も喜ぶだろうな―――いや、でも裕太が感動してるんだってわかるのは、僕だけかもしれない)
かつては誰よりも近かった兄弟だから、裕太の感情の動きが手に取るようにわかる。
他にもわかる人間はいるかもしれないが、でもきっと本当にわかるのは自分だけだ。そう思うと嬉しかった。
「電車に乗って奥まで行こうか」
「電車があるのか?」
「うん。歩くより少し早いよ」
前回来たとき、周助はアトラクションよりこの街並みに心動かされた。でも中学生同士で遊びに来たから、あまりじっくりと園内を見る暇はなかった。でも裕太とならきっとその感動を共有できるような気がする。
「電車に乗って、その後インディジョーンズって感じでいい?」
「兄貴に任せる」
「じゃあ行こう」
周助はエレクトリックレールウェイに向けて歩き始めた。
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赤字になった建設会社…の話は本当かどうかは不明ということで。
こだわりがすごいので、大変だったとかそうじゃなかったとか(笑)
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