「なんだよ」
寮に電話をかけて呼び出して貰うと、裕太が少し不機嫌な声で電話に出た。
「実はね、お父さんの会社の人からディズニーシーのチケットがまわってきたんだ。二枚あるから一緒にいかないかい?」
「ディズニーシー?」
「うん」
「俺、行ったことねぇんだよな………兄貴は行ったことあるんだっけ?」
「一回だけだけどね」
「………今度の秋休みにディズニーランドに行くことになってんだよ」
裕太の学校はミッション系なので二期制で、普通の学校が休みではない時期に休みが入る。
「そう。秋休みだとすいてそうでいいね」
もしかして、断られるんだろうか。周助は平静を保ちながら、少し身構えた。
「だからディズニーシーはなかなか行けそうにねぇんだよな………」
「面白いところも少しはわかるから、よかったら案内するよ」
裕太は迷っているようだった。多分、周助と二人だというのが気恥ずかしくて厭なのだろう。
「んー。じゃあ行く」
しかし兄と二人の気恥ずかしさより、初めてのディズニーシーの魅力の方が勝ったらしい。周助はほっとした。
「楽しみにしてるよ。いつにしようか?」
「次の日曜なら空いてる」
「じゃあそうしよう。待ち合わせは………」
周助が話しかけると、裕太が答えてくれる。待ち合わせの場所や時間を決めながら、周助は浮き立った気持ちになった。
日曜日。周助は待ち合わせ時間より少し早めに舞浜駅に着いた。
(舞浜駅で待ち合わせ、か)
裕太は家族で、自分にとっては一番近い存在のはずだ。でも共に暮らしているわけではないから、こうやってまるで他人同士のように舞浜駅で待ち合わせている。
舞浜駅で待ち合わせている人はさほど多くなく、人々は足早に改札を通り抜けて目的地に向かっていく。
周助は少しため息をついた。
実は前日に裕太が家に泊まってくれないかと密かに期待をしていたのだ。でも裕太は用事があると言って泊まってくれなかった。
多分、それは用事のせいではなく、自宅からずっと周助と二人きりでここまでくるのが気詰まりだったからなのだろう。
そんなことを考えながら人の流れを見ていると、携帯が震えた。
『わりぃ。五分ぐらい遅れる』
裕太からだった。
(ちょっと嬉しいかな)
周助はそのメールを見て、少しだけ沈んでいた気分が浮き立つのを感じた。
ここは裕太の住んでいる場所から少し遠い。裕太は今朝必死で起きて、必死でここに向かって来ているのだろう。そして時間通りにつなかなきゃいけないと焦って、たった五分の遅刻でもメールをしてきたのだ。
きっと裕太も今日を楽しみにしてくれているのだ。それがわかって周助は嬉しかった。
『焦らないでいいよ。転んだりしないでね』
嬉しくてそうメールをすると、
『なに言ってんだバカ。いま葛西臨海公園を過ぎたからすぐ着く』
すぐにそんなメールが返ってきた。
ならば、裕太は次の電車でやってくる。早く次の電車が着いて欲しいと思った。
「わりぃ」
改札口を出てきょろきょろしていた裕太に手を振ると、すぐに周助の側にやってきた。
「全然待ってないよ」
「ならいいけど。で、どっち行くんだ?」
「こっちだよ」
周助が歩き出すと裕太が後からついてきた。勝手がわからないようで、おとなしくついてくる。
どうやら裕太はまったく下調べをしていないようだ。
「歩いて行けないのか?」
「行けないこともないみたいだけど、モノレールで行くんだよ」
「へぇ」
周助が案内すると言ったから、何も調べてこなかったのだろう。頼られているようで嬉しい。
「もうすぐモノレールが来るみたいだ。急ごう」
周助が急ぐと裕太も急ぎ出す。そんなことの一つ一つが嬉しかった。
ディズニーシーはディズニーリゾートラインの駅からすぐだ。裕太と周助はリゾートラインを降り、駅のロッカーに荷物を預けてディズニーシーへ向かった。
「あのモノレール、なかなか面白かっただろう?」
「外もすごいと思ってたけど、中はもっとすげぇのな」
ディズニーリゾートラインはモノレールと言うよりどちらかというとアトラクションに近い。ミッキーの手の形をした吊り輪などを見ながら、裕太は目を丸くしていた。
裕太は言葉遣いは乱暴だしかなり照れ屋だが、ひどく素直なところがある。リゾートラインの中に展示されているぬいぐるみなどが入ったショーケースや、電車らしくない形のシートなどにいちいち素直に驚いていた。
(そういうところがかわいいんだよな…)
「んだよ」
「いや。そこで荷物のチェックがあるから、カバンを開けといた方がいいよ」
嬉しくてつい裕太の顔を見つめてしまい、周助はそれをごまかすようにそう言った。
「ああ、そういやそうだったっけ」
そして簡単なチェックを受け、ゲートを通過して、周助と裕太はディズニーシーに入った。
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舞浜〜ディズニーシー間は三人以上いる場合はタクシーの方が安くて早くて楽なのでお勧めです(一分ぐらいでつきます。でもやっぱりリゾートラインの方が楽しいですね)
佐倉は通常歩いていきます。
歩いてもリゾートライン経由でもほとんど時間に違いはありませんが、歩くとわびしい気持ちになるのでまったくお勧めできません(笑)
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