アトラクションに乗ったり、ショーを見たりしていたらあっと言う間に時間が過ぎてゆく。
「そういえばこの前さ、スクールに行く途中で犬を見たんだけど…」
初めのうちはアトラクションの待ち時間の間には、次に何を乗るかとかここの景色がどうだとかそういう話をしていたが、徐々に互いの近況などを話すようになった。
こうやって話すのは本当に久しぶりのはずなのにとても話しやすくて、気がつくと裕太は色々な話をしていた。
「どんな犬?」
「黒っていうか、ちょっと焦げ茶っていうか……」
「マロンみたいな感じ?」
裕太が少し説明しただけで、周助からすっとその名前が出てくる。
裕太は心臓が少し早く動いたのを感じた。
「マロンみたいっていうか、マロンそっくりで……しっぽはちょっと違ったけど」
「マロンは日本の犬みたいな顔だったけど、しっぽは垂れてふさふさしてたからね。多分シェパードかなんかの血が入ってたんだと思うよ」
兄は―――兄も二人で可愛がっていたあの犬のことを覚えていたのだ。
「甲斐犬っていうんだって言ってた」
「飼い犬?」
「じゃなくて山梨の…」
「甲斐犬か。いつか飼えたらいいね」
飼おうねと言った昔とは違うけれど、やはり兄はそう言った。
「そうだな」
そう返事をすると、兄はとても嬉しそうな顔をした。
食事をして壮大な夜のショーを見て、二人で一緒に花火を見た。
「大きな花火だね」
「ああ」
「きれいだね」
「そうだな」
園内には音楽が流れ、それにあわせてアラビアンコーストの宮殿の後ろに大きな花火があがった。
とてもきれいだと思いながら、ぼんやりと周助の言葉に応える。
居心地が良くて、まるで魔法にでもかかっているような不思議な感じがした。
「また…これたらいいね」
「ああ」
「またこようね」
「……ああ」
「本当?」
「今日は……楽しかったから」
二人で回っているうちに、だんだんとわだかまりがなくなっていくのがわかった。
自然に話せるようになり、周助が昔のように自分を大切にしてくれているのを感じた。
「よかった」
大きな破裂音と共に無数の小さな花火がきらめいて、花火は終わった。裕太と周助はそのまましばらくその場所に立ち止まっていた。