ゴンドラから降り、運河沿いの石畳の町並みを歩く。
「次はどこに行こうか?」
「海底二万マイル」
「じゃあ、とりあえずその隣のセンター・オブ・ジ・アースに行こうか」
周助は海底二万マイルというアトラクションがそこそこ好きだ。しかし、以前来たとき、それは菊丸や桃城達にとても評判が悪かった。
確かに動きが地味で、トリックもすぐにわかる。どこが面白いのかと言われても口では説明しづらい。
「だから海底二万マイルに行くって言ってんだろ」
「今だとまだ混んでるかもしれないし、後にしよう」
有名なアトラクションだから裕太は行きたがっているようだ。
でもせっかく裕太が楽しそうにしているのに、つまらない思いをしてほしくない。
「今日は全然混んでねぇだろ。確かあっちだよな」
しかしそう言って裕太はずんずんと歩いていってしまった。
「…なんかよくわかんなかった」
海底二万マイルの潜水艇から降りて、外に向かいながら裕太はそう言った。
「そうだね」
「でも後でもう一回乗る」
「もういいよ」
裕太が隣にいると、以前来たときは気にならなかった事が気になって仕方がなくなる。
裕太がつまらない思いをしてるんじゃないかということばかり気になって、なんだかつまらない乗り物に思えた。
「乗るとこによって見える景色が違うんだろ。なら他のとこも乗ってみねえとわかんないだろ」
裕太は少しムキになっているようだった。
周助には裕太がなんでこんなことでムキになるのかがわからなかった。
「他の席でもきっとそんなに変わらないと思うよ」
「そんなのわかんねぇじゃん」
「それよりもあっちに行こう。センター・オブ・ジ・アースはかなり面白いよ」
「でも兄貴は今のが好きなんだろ?」
「そこまで好きじゃないよ」
幻想的な海底を再現した中の造りは凝っているし、ストーリーもしっかりしていると思う。
でも乗り物に乗ってただ景色を見ているだけだし、仕掛けは子供だましだし、つまらないという気持ちもわかる。
今日は裕太に楽しい思いだけして欲しいのだ。だから裕太があまり好きではないものに時間を使いたくはない。
しかし裕太は怒ったような困ったような顔をして周助を睨んだ。
「いいじゃん、お前が好きならそれで」
「え?」
「俺の好きなもんとか、好きそうなもんとか、そんなことばっかしたって仕方がないだろ。二人で来てんだから」
もしかすると、裕太はだから海底二万マイルに乗りたいと言ったのだろうか。自分がさっきレストランで好きだと言ったから、それで乗ろうと言ったのか。
「裕太………」
周助はどう表現したら良いのかわからない感情の高まりにおそわれた。
昔だったら、こういう時に裕太を抱きしめることができたのに―――そう思う。
「早く行くぞ」
裕太は照れ隠しのように足早に歩き始めた。
「今のはやっぱ後でもう一回乗る」
歩きながら裕太は周助の方を見ずにそう言った。
「うん。そうしてくれると嬉しいよ」
多分、次に乗るときはこのアトラクションを素直に楽しむことができるだろう。
裕太とここに来て本当によかった。そう思いながら周助は裕太に追いつき、その横に並んだ。
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海底二万マイルは期待して乗る乗り物ではないです。
しかし期待しないで乗るとそこそこ楽しい。
そんな乗り物なので、混んでない時にさくっと乗るのがお勧めです。
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