自宅に戻って電源を切ったままだった携帯のメールチェックをして、不二周助はため息をついた。
メールは数通。友人からのものと―――めったにこない弟からのものだった。
昨日、周助は離れて暮らす弟に今週は帰ってくるのかとメールを出した。自分の近況も書いてみた。
しかしその返事は………
『日曜に練習試合があるから帰れない。菊丸さんあいかわらずだな』
―――たったそれだけだった。
確かに菊丸の話は書いた。菊丸が理科の実験で器具を派手に壊してしまったのだ。でもそれはただの世間話で、その話にお義理のような反応をして欲しかったわけじゃなくて、それを書くことでできれば裕太の近況を書いて貰えないかと思ったから書いただけだった。
いつもそう思って自分の近況を少し書いてメールを送るのだが、それが成功した試しはない。
たとえば近況を書きあったり、暇な時間にはどうしているのかと尋ねたり、ちょっと感動したことがあったらそれを書いて送ったり―――裕太とそんなことをしてみたいと思う。しかし、なんとなく用事がないとメールを送ってはいけないような雰囲気があって、気軽に送ることができない。
(気にしなければいいんだろうけど………)
このまま裕太と疎遠になりたくはない。
だからといって用もないのに連絡をして迷惑だと思われたくない。
周助はまたため息をついた。
遅い夕食の後、母が「そういえば………」と話を始めた。
「お父さんから電話があって、会社の方からディズニーランドの券を二枚いただけるんですって」
「いいじゃない」
姉、由美子が嬉しそうに声をあげた。
「由美子は前にミュージカルのチケットをいただいたでしょう?」
「はーい。じゃあ周助か」
友だちと行くにしても二枚というのは中途半端だ。そう周助は思った。
ディズニーランドに行くとなると五人ぐらいのグループになるだろうから、そのうちの二枚が招待券でもあまりありがたみはない。
「あ、周助はこの前展覧会の券をもらってたじゃない。やっぱり私が貰うわ」
姉は二人で券を使う当てがあるのだろう。それならば姉に譲ろうと周助は思った。
「じゃあこの券は裕太にあげましょう」
すると、それまでニコニコと二人の話を聞いていた母がそう言った。
「………」
それを聞いて周助も由美子も一瞬言葉を失った。
これまであまり考えずに、家にいる周助と由美子だけで貰ったチケットなどを分け合っていた。でも、本当は裕太にもその権利があるのだ。
一緒に暮らしていないと、やはり少しだけ家族の距離が遠い。
「そうね。裕太にあげるのがいいと思うわ。あの子ディズニーランド好きだったじゃない。喜ぶわよ」
「そうだね」
「じゃあそうしましょう」
母はニコニコと話を終えようとした。
「あ、まって。やっぱり僕が行くよ」
周助はふとあることを思いついた。
「なに、もしかして誰か誘いたい人でもいるのー? ディズニーランドの券が二枚あるんだけど………とか言ったりして。それなら仕方ないけどぉ」
由美子が楽しそうにそう言った。
「そうじゃなくて………裕太を誘おうかと思って」
ディズニーランドの券が二枚あるんだけど―――姉の言う意味とは違うが、そうやって誘えば、二人で出掛けることができる。
「あ、それいいじゃない」
「そうね。それがいいわね」
母も姉も喜んで賛成してくれた。
数日後、父の会社からチケットが送られてきた。
封筒を開けると、中にはスポンサー企業用のディズニーリゾートの共通チケットが二枚入っていた。
(裕太に電話をかけよう)
きっと裕太は喜んでくれるだろう。二人で出掛けるなんて一体いつ以来だろうか。裕太が中学に入ってから、一度もどこにも行っていないはずだ。
電話をして相談して、二人で同じ日を楽しみにして―――そうなればとても嬉しい。
(いや………でも………)
確かに裕太はディズニーランドが好きだった。家族で何回か行ったことがあるが、裕太はとてもはしゃいで、途中で疲れはてて大事な時に寝てしまったりした。
周助にとっても家族で行ったディズニーランドはとても楽しい思い出だ。
ただ………
裕太はどちらかというとジェットコースター系の乗り物、特にスペースマウンテンやビッグサンダーマウンテンが好きで、それらに連続して乗りたがった。
スペースマウンテンを五連続で乗ったりして、それはそれで面白かったけれど、もしかすると裕太は普通の遊園地とディズニーランドの区別があまりわからないタイプなのかもしれない。
音楽に合わせて人形が動いたり、乗り物に乗って物語世界を旅するような、ディズニーランドらしいアトラクションの時はちょっと退屈そうにしていた。
そして、ジェットコースターの速さやスリルだけを純粋に比較すると、普通の遊園地のものの方が面白いのだ。
せっかく二人で出掛けるのなら裕太に本当に楽しんでほしい。裕太が楽しんでくれれば自然に話も弾むだろう。
そして、もしかするとぎこちないこの距離が縮まるかもしれない。
(ディズニーシーの方がいいかな)
貰った券は共通券だから、どちらかを選ぶことが出来る。
家族で何度も行ったディズニーランドよりディズニーシーの方がいいかもしれない。確か裕太はまだ行ったことがないはずだ。
周助自身はランドよりシーの方が好きだ。もしかしたら裕太はランドの方が好きかもしれないが、せっかくなんだからジェットコースターに繰り返し乗るよりもゆっくりと園内を歩きながら裕太と話がしたい。
(うん。シーにしよう)
そして周助は裕太に電話をかけた。
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ディズニーシーはもう100回以上は確実に行ってると思います。
旅行っぽさがあるのと、生の舞台がガンガン見れるのがシーの魅力ですね♪
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