年の終わり




 今年は一年いろいろなことがあった。
 楽しいことや嬉しいことが多かった。
  
 ひどいこともした。
 本当はそれですべてが終わるはずだったのに、今年が一番良い年だったと、誰にも言えないけれど、自分で思うことさえ許されないことだろうけど、一番良い年だったと、心からそう思う。
「何ぼーっとしてんだよ」
 隣にいる半屋がいらだたしげに見上げてきた。
 今年、この人と知り合うことができた。
 本当なら、こうしてともに歩くことなど許されるはずもない人。
 それなのに今年の喜びを与えてくれた。
「半屋君、今年は……」
 そう言いかけて、少しいいよどむ。
 半屋にとって今年はどんな年だったのだろう。年明け早々に入院を強いられて、その原因である自分につきまとわれて、今はこうやって隣を歩いている。
 なぜ許してくれているのか。
 好きだと言うことはできても、好きなのかと訊くことはできない。
「半屋君、今年はどんな年だった?」
 好きなのかと訊くことはできないから、せめて、この一年を訊ねる。最悪だったと言われることはわかっているけれど。
 半屋はゆっくりと視線を向け、顔をしかめた。そしてすぐに不自然に視線を外し、ぼそりと
「まぁまぁだな」
と言った。
 表情を確かめようとすると、半屋はさらに顔をしかめる。
「ありがとう、半屋君」
「てめェに礼を言われる筋合いはねぇよ」
「そうだね」
 ありがとう。心の中でもう一度つぶやいた。



  今年はありがとうございました。来年がみなさまにとって良い年でありますように。


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