菌糸ビンについて

その5 菌糸ビンの選び方
G)容器の種類 から

By George,H


G)圧縮率

圧縮率とは、菌糸ビンの内容物であるマット(菌床)をどれ位の強さで詰め込むのか、ということになりますが、その詰め込みの強さをどのように表現すれば良いのかはよく分かりません(ご存じの方がいらっしゃいましたら教えて下さい)。キノコの専門家の方ならご存じなのかもしれませんが、私では勉強不足のためか、詰め込みの強さの指示の仕方を知らないのです。では何を話してくれるんだ?とお思いの方もいらっしゃると思います。
 確かにそうではありますが、詰め込みの強さの程度によって、幼虫にどのような影響を与えるかについて、これまでの経験から若干述べてみたいと思います。

  経験的には、圧縮率は強めにした方がいいように思います。
というのも、まず第一に、いくら強く詰め込んでみても、菌床は時間の経過とともに、いくらかは縮んでしまうからです。そして、いったん縮んだ菌床がもと通りになるはずはなく、ビンと菌床の間にできた部分があれぱあるほど、雑菌(特にトリコデルマ菌=いわゆるアオカビなど)が繁殖しやすくなるはずです。
 雑菌の存在自体が幼虫にどのような影響を与えるのかについては、ここでは議論の対象としませんが、少なくとも菌糸のもち具合には影響があるようです。また、第二に、幼虫はビンの内容物を食べることによって成長するのですから、次第に菌床は少なくなっていきます。基本的にはあまりビンの交換はしないほうが良いのですから、エサとなる菌床がたくさん詰まっているほうが良いということになります。また、最後の一本となる場合には、菌糸ビン飼育にしてもマット飼育にしても、詰まり具合が悪い場合には蛹室の出来具合も悪くなってしまい(きれいな楕円形にならないなど)、蛹の安定度が低くなるようです。

 では、詰め込めるだけ強く詰め込んでしまえば良いのかということになりますが、そう簡単に判断し切ってしまうのは難しいようです。というのも、強く詰め込んでしまいすぎると、菌床内部の空気の流入が妨げられ、その結果、酸欠になってしまうということがあるからです。また、圧縮を強くすればするほど、菌糸がビン全体にまわりきるまでに時間がかかるため、その間のビンの保管にコストがかかるといった問題もあるようです。それでも、酸欠になってしまうほどの圧縮率の菌糸ビンは少ないでしょうし、あったとしても対処の仕方はありますから、圧縮率の強いビンを使用するほうが良いと思います。

 詰め込みの強さについては、ご自分で添加剤マットを詰め込む場合や菌床をビンに詰め込む場合、さらにはご自分で菌糸ビンを作成する際などに、酸欠になるようなことのない程度にすることを注意しておけばいいと思います。なお、酸欠の場合、幼虫がビンの上部に出てきてしまうはずですから、ビンに入れて数日間は幼虫に注意を払っておくことをお勧めします。
 そして、もしそうなってしまった場合には一旦幼虫を取り出し、ビンの内容物の中心部分を底まで掘って空気が流入しやすいようにしてやると、たいていの場合には問題点は改善されるはずです。酸欠は、幼虫にとっても、菌糸にとっても最大の敵の一つですから、絶対に避けて下さい。

H)水分率

E)容器の種類(ビンとポリの違い)のところでも、容器内部の水分率が幼虫にとってどのような影響を与えるのかについて経験的なお話をさせて頂きましたが、ここではもう少し、この水分率について焦点を絞って考えてみたいと思います。
 私自身としてはこの水分率というものを重視すべき要素として見ていますので、話の内容が少し大げさになってしまうかもしれませんが、宣しくお付き合い願います。

 前にも述べたように、私のこれまでの飼育データを見ていると、どうも水分の在り方がディンプルやエクボの発生要因の一つのように思います。特に、菌糸の劣化が始まると水分が増えて行くのですが、劣化後の水分のコントロールは難しいものでもあります。コントロールのやり方としてはふた穴の数や大きさを変化させるか、思いきってフタをはずしてしまい、フィルターのみにしてしまうか、などの方法が考えられますが、そのことは内部に雑菌などを繁殖させる要因ともなりますので、この点での注意が必要です。

 尚、ディンプルやエクポができやすいのは蛹室を作り始めてからの蛹室の周辺の水分率に依存していることが多いようで、この時期のコントロールが大切であろうことを付け加えておきます。そして、いくら水分率を少なくして菌糸ビンを作ってみても、劣化後の菌床の状態は水分過多の状態になりやすいので、蛹になってから蛹室を壊して蛹を取り出し、ティッシュペーパーなどを利用して作った人工蛹室で管理する方などもいらっしゃるようです。

 確かに、人工蛹室を使うときれいな個体が出てきやすいのですが、本当にきれいな個体は蛹室から出さずに管理しておいた方が多いようでもあり、もう少しそれぞれの方法について研究してみる必要がありそうです。
 さて、では菌糸ビンを作る際の水分率は何を根拠にして決定していくことになるのでしょうか?幼虫のことを考えれば、水分は少なめにしていても死亡するなどの心配は余りありませんが、あまり水分が少ないと、キノコのほうがなかなか成長しないといったことがあり、菌糸のもちを良くすることができる程度の水分は必要であるということになります。従って、キノコが必要とする生理的な水分率を求めていけば良いということになりますが、実際には、マット10Lに対して水1Lといったような機械的なやり方ではうまく行かず、微量な調整が必要なようです。

 また、一度に大量に作る場合には水分が均等にならないことも多く、どんな菌糸ビンを使用しても、なかなか水分コントロールのうまくいっている菌糸ビンを手に入れるのは難しいのかもしれません。そこで、菌糸ビンを使用する際には事前に菌糸ビンを購入しておき、ある程度の水分コントロールを事前に施してから幼虫を入れるといった工夫が必要なのではないでしょうか。
 本来なら、ビン内部の水分率を計器などを使って計測するなどすれぱ良いのかもしれませんが、そこまでする費用などもない為、それぞれの方の経験に基づく、ベストに近い状態をつかんでもらうことになると思います。
 基本的には、水分は少なめにコントロールされている菌糸ビンを選ぶほうが良いのではないでしょうか?尚、ここまでの菌糸ビンの話の内容はオオクワガタを基準にした内容になっています。

 例えば、ここで述べている水分率は、ヒラタクワガタ系の場合には、もう少し多めの水分が必要であるといったことになってきますし、菌糸ビンではあまり上手く飼育のできない種類もあるようです。そもそも、菌糸ビンがメジャーになってクワガタの飼育に使用されるようになってから十年も経っていないことを考えれば、分からないこと、試してみたいことなどがたくさんあるのが当然なのです。そのことを踏まえてみると、菌糸ビンはかなりの成果をあげることはできていると思います。
 ただし、まだまだ完壁なものではありませんし、それだけに皆さんが頑張ってみる価値のある飼育法の一つなのではないでしょうか?ですから、毎年のテーマを決めて飼育をしていくこともまた楽しいものでしょうし、きちんとしたデータをつけていくことが思わぬ発見につながるかもしれません。

 ここまで、4回に渡って菌糸ビンを選ぶ基準について述べてきました。これまでに述べてきたことを参考に、皆様の菌糸ビンに対する知識が増え、自分の理想とする成虫をどんな形で出していきたいのかを踏まえながら、菌糸ビンの費用と性能が見合っているものを捜していってほしいと思います。菌糸ビンを販売している側は、あまりマイナス面を教えてはくれないものです。
 ですから、菌糸ビンを購入する前に、少しでも扱っている菌糸ビンがどのような理論のもとに作られているのかを考察する必要があるのです。今まで記した内容は客観性を重視したつもりですが、どうしても個人の経験と考えが反映してしまった内容になってしまってます。ですから、私の内容を鵜呑みにするのではなく、皆様が飼育の主体であることを認識した上で飼育されることを希望しつつ、締めくらさせていただきます。


PS 筆者こと、George,H は じょーじ、H と呼んで下さい。エッチなじょーじではありません。くれぐれもお間違いのないようにまたよろしかったらわたしめのホームページも覗いてやって下さい。  http://www2.tokai.or.jp/George.s.web/ 



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