菌糸ビンについて

By George,H


●何故菌糸ビン?

材割した幼虫をどのように飼育していくか?これは皆さん方が悩む間題の一つだと思います。
幼虫の飼育には、材飼育、マット飼育、菌糸ビン飼育の3つの方法がありますが、それぞれに長所、短所があるので、事情にあったやり方を考えていく必要があります。では、この菌糸ビンの長所とは何なのでしょうか?この質間に答える事こそが、なぜ菌糸ビン?という疑間に対する一つの答えになるのではないかと恩います。
菌糸ビンの長所は、何といっても手軽に大型の成虫を作出できる点にあります。先ず、幼虫を大さくしたいと思ったら、どんなことをするのが1番でしょうか?当然ながら、幼虫が効率よく栄養を吸収できるようにならないか、と考えるはずです。

このとき、材飼育では材に含まれている栄養分を、マット飼育では発酵させることによる環境の一定化を(シイタケの廃材を用いている限りは、栄養分はシイタケに持っていかれており、これを補っていくために、添加剤をマットに混入していくんだと言う説もある)菌糸ビンでも添加剤を利用しますが、この場合の添加剤は、幼虫を大きくするためというより、キノコの菌糸を成長させるための、栄養培地としての役割が大きいのです。

したがって、菌糸ビンにする場合には、マットにする場合よりも多めに添加剤を混入している方が多いようです。さて、キノコの生理作用を用いて栄養分を作らせることが、菌糸ビンの大きな特長の一つであるわけですが、ここで簡単に、栄養分を作り出すまでのプロセスを見ていくことにします。材の主成分に、セルロースとリグニンがあります。セルロースとはグルコース(単糖類の一つ。プドウ糖のこと)がβグルコシド結合によって縮重合した高分子化合物で繊維状の構造をしています。簡単にいえば、植物の細胞壁、綿、麻、木材のパルプなどの主成分のことで、セルロースが加水分解するとグルコースになります。一方、リグニンとはフェノール性成分の重合体で、フェノールオキシターゼと呼ばれる酵素によって分解されます。

キノコには主に材を白色に腐朽させる白色腐朽菌と赤褐色ないしは黒色に腐朽させる褐色腐朽菌がありますが、リグニンを分解することが可能なのは白色腐朽菌であり、カワラタケは特にこの腐朽力が強いのです。リグニンは材の心材の部分に多い為、芯の部分が堅いものも見られます。

なお、生木ではセルロースが50%、リグニンが30%ほと含まれており、このほかに、タンパク質(約20種類あるアミノ酸のいくつかが結合してつながっている巨大な分子)などが主成分となっています。さて、こうして材が分解されていくわけですが、キノコの菌糸は成長する過程で、当然細胞分裂を繰り返します。その際に、細胞核は糖などが多数結合した物質である核酸とアミノ酸から、細胞壁は組成の一つであるキチン質などで細胞分裂していき、材の分解、腐朽を進めていきます。

オオクワガタの幼虫はキノコの生理作用によって分解された栄養素を吸収していくわけです。特に、アミノ酸(タンパク質)、糖分(炭水化物)、キチン質、各種ミネラル類(主に鉄、銅、亜鉛、マンガンなど)を吸収して成長していくのです。つまり、菌糸ビンとは以上のようなキノコ(白色腐朽菌)による材の分解という生理作用を用いて、幼虫にとって有利な生育環境を整えていくことを一つの目的としています。また、菌糸ビンを用いることは雑菌の繁殖を押さえるという点でも有効なものであることも明らかなことといえるでしょう。(但し菌糸が劣化すれば、当然雑菌が繁殖しやすくなるのでその期間内)


●菌糸ビンを用いる目的

(1)材の分解をキノコの生理作用を利用して行い、幼虫の生育条件に近いものにする。このとき、材飼青では栄養を一定にすることが困難なのに対し(材を作成するにも時間ががかる)、菌糸ビンでは、一定に保ちやすく、作成時間も短めである。

(2)菌糸がビンの中の環境を支配しており、雑菌などによる悪影響を避けることができる。マット飼育が雑菌との戦いであること考えると菌糸ビンは有効だが、菌糸が劣化すれば、当然雑菌が繁殖しやすくなるため、数回のビン交換の必要が出てくる。

(3)短期間(6カ月〜1年半)で成虫までもっていくことができる。だが一方では、サイズ的に大きくなっても形のよくない成虫や死亡率、羽化不全率が高いといった間題もあり(添加剤の成分や含有量が原因?ではと考えております)、菌糸ビンが万能であるわけではない。又他の飼育法に比べコストが高い。


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