菌糸ビンについて

その4 菌糸ビンの選び方

E)容器の種類

By George,H


E)容器の種類(ビン容器とポリ容器の違い) 

 菌糸ビン飼育やマット飼育を行う場合に、当然ながら容器が必要なわけですが、その選択肢は大きく分けて二つ、ビンとポリがあります。
   では、この二種類を使用した場合にどのような違いがあるのでしょうか?数値として実証し得るだけのデータがあるわけではないので、あくまでも個人の飼育経験にてらしてビン容器とポリ容器の特徴を述べていこうと思います。
   先ずポリ容器の場合ですが、最大の長所は二点、安価である事と、軽いという事でしょう。安価であることは何より心強いですし、軽いということは更に二つの意味で重要です。
   送料がビンの場合よりも安くなる利点がある事、もう一つは幼虫を入れて管理する際に重さが軽ければ、管理は楽になります。特に温室に入れている場合、あまりに重たいと、棚網や温室が歪んでしまい、危険なことさえあります。また、ポリの場合には、割れる危険性がないことも大きな点かもしれません。
   ところがこのような長所がある一方で、いくつかの欠点がみられます。(ここで述べている欠点はあくまでも経験則に照らしての内容である事を、予めご理解願います。)第一に、ポリ容器の場合、幼虫(その大半は三齢)が容器をかじってしまえる点です。ポリ容器に傷がつくだけなのかもしれませんが、もしも幼虫が削りカスを食べるようなことがあれば、幼虫にとって余り好ましいことではないでしょう。下手をすれば、消化器官の不良によって死亡してしまうかもしれません。

   第二に、経験的には、確信的なことなのですが、ポリ容器の場合に死亡率や羽化不全率、それにディンプルやエクボなどがビン容器の場合よりも高い確率で起こるような気がするのです。死亡率や羽化不全率の場合には別の単独要因の場合や、様々な要因が重なっていることも多いのでしょうが、特にディンプルやエクボに関しては容器によってその発生率が違うようなのです。ここで、『容器によって』と述べると、語弊があるのではないかと思う方もあるかもしれませんが、現状ではこう述べても間違いではないと思います。そこで、もう少し詳しくこのことを見ていくことにします。データによる実証性の面で不足している部分もありますので、あくまでも個人的な意見として聞いて頂きたいのですが、ビン容器とポリ容器とではフタの部分の構造が異なるために、容器内の水分調整の能力に差があります。どうも、この水分量の違いが、ディンプルやエクボの発生と密接に関係し
  ているようです。その他の要因に関しての考察も必要ではありますが、私のデータを見ている限りでは、重視すべき項目の一つは水分量です。

   ところで、なぜ水分調整がビン容器とポリ容器で異なってくるのでしょうか。この答えの一つが、上記に記しましたように、フタの構造にあるのではないかと考えられるのです。というのも、両方の容器を使用したことがある方なら恐らく思い当たると思うのですが、ビン容器、ポリ容器ともに最初はフタ(ないしはフィルター)の部分に水滴が付きます。が、時間の経過と共にビン容器の場合には、水滴がなくなるのに対してポリ容器の場合には、水滴が付いたままであることが非常に多いように見受けられます。その理由として考えられるのが、フタの部分の構造です。ビン容器の場合には、フタの上部に1〜3ヶ所ほどの通気穴を開けるのに対して、ポリ容器のフタの構造はフタの構の部分に通気穴を設けている場合が多く、更にその通気穴はビン容器の場合に比べると小さい傾向が強いようです。ですから、当然の如く、ポリ容器に比べてビン容器の方が水分を調整しやすくなってくるのではないでしょうか?

   そもそもポリ容器はキノコの栽培のために、キノコの種類に合わせたポリ容器を使用しています。キノコ栽培でポリ容器を用いているのは、採算が安くて済むという面と、キノコの栽培自体は、それほど微妙な水分調整を必要としていない為からでしょう。
  ところが、私の考えでは、水分の微妙な調整が、幼虫に対して様々な影響をもたらす大きな要因の一つとして捉えていますので、ちょっとした通気穴の大きさや位置の違いが予想以上に大きく影響しているのではないか、と推測しているわけです。
   このことが、現状のビン容器とポリ容器の大きな違いの1つになっていますので、先程のように述べることもあながち間違いではないと思うのです。(独断的にて失礼)なお、ポリ容器の場合でも、フタの上部にビン容器と同様の通気穴を開ければ、この問題は解決できるのかもしれない、ということを付け加えておきます。ここまでは水分調整の違いについて述べましたが、次に、ビン容器とポリ容器の温度調節の違いに関して述べていくことにします。この温度調節という側面でも、どうもビン容器の方が優れているようです。詳しいデー夕の蓄積にはもう少し様々な側面から調査していく必要がありますが、少なくとも、次のようなことは言えそうです。それはビン容器の方がポリ容器よりも容器内の温度を調節しやすいようであるというものです。特に、いったん温度が上昇した後に温度が低くなる時、ポリ容器では温度の調節が思うようにいかずに、容器内に温度を溜め込んでしまいやすいようです。その主たる理由として、ガラスという物質とポリエチレンという物質の熱伝導性の差によるものと思われますが、同時に、先に指摘した容器内の水分の調整の差から、水分が熱を抱え込んでしまうという影響も作用しているのかもしれません。

   そこで、以上のことを総合して考えると、経済的にはポリ容器を用いていきたいところですが、幼虫自身のためには、どちらの環墳の方がよいのかを考えてみると、これまでの経験から、ビン容器の方がよいような気がしています。そして、これまでの飼育記録を顧みると、同じ菌床が詰められている菌糸ビンであっても、ポリ容器の場合よりもビン容器の場合の方が死亡率や羽化不全率、ディンプルやエクボといったものの発生率は低いようです。また、このことを実証するかのように、ポリ容器の方が過去の飼育において菌糸ビンの上部に幼虫が上がってきてしまう率が高いのです。幼虫が上がってきてしまうというのは当然幼虫にとってその環境が適していないということでしょうから、避けるべきであると考えられます。そこで、個人的にはビン容器の方をお奨めしていきたいと思うのですが、あくまでも私見であるということをご理解の上、皆様の飼育記録と照らし合わせて頂きご意見など頂きたく思います。

F)添加剤の成分とその比率

 さて、添加剤の話についてですが、菌糸ビンを用いている方ばかりでなく、マット飼育を中心にブリードを行われている方にとっても興味のあるテーマであると思います。当然ながら、私も非常に輿味はありますが、その一方で別の考えも持っています。
  別の考えについては後日触れるとして、まずは添加剤の成分から入りたいと思います。尚マットについてはバックナンバーのクワ馬鹿6月号のツリーから、
   ”発酵マット”それは生物化学、あなたの知らない世界/ BAJA
   消化と吸収−なぜマットを発酵させるのか?−/ 大外一気
  を参照して見て下さい。
   各業者が販売している菌糸ビンの添加剤の成分を単刀直入に尋ねてみたところで、ほとんどの場合は企業秘密にされてしまうと思います。ただ、いくつかの観点から、あまり添加剤として好ましくないものはあるようです。その一例として、米糠(コメヌカ)があげられます。そもそも米糠はキノコ栽培用の菌床では普通に使用されている添加剤であり、栄養価も高いのですが、これは、キノコ専用であってクワガタに使用すると死亡率が高く、奇形も出やすいようです。
   また、オオクワガタ系の幼虫の場合には糖類を混入させてもあまり意味がないようです。ここで言う糖類とは主にブドウ糖などを指すのですが、ブドウ糖とは主に菌糸の核の組成成分である核酸の成分であり、キノコを成長させるのに必要ではあっても、クワガタの幼虫自身がそれを直接に取り込むものではありません。ここで、菌糸が成長するのならよいのではないかとも考えられますが、菌糸ビンを用いることの利点はキノコが材を分解する過程でできる栄養分を利用するという点であって、キノコを成長させることが目的ではないように思うのです。また、糖類は微生物にとっても格好のエサとなってしまいますので、かえって幼虫には悪影響を与える可能性も考えられます。ただし、ヒラタクワガタ系の幼虫には糖類も有効であるとの説も間いていますので、もう少し検討が必要なのかもしれません。

   添加剤の比率についても中味と同様、企業秘密の側面が強いため、教えてもらえるという保証はありません。しかも教えてもらったところで、何が入っているのかが分からなければ、あまり意味のないことにも思えます。そこで、比率が分からなくても、このことを重視すべきではないかというポイントについて述べていきたいと思います。ただし、皆様がどのような飼育を目指しているのかといったスタンスによって、選ぶべき選択肢は異なってくると思いますので、どちらが良くて、どちらが悪いのかといった議論ではないことを念頭に置いた上で進めさせていただきます。

   皆さんはどのような成虫を目指していますか?
   国産オオクワガタを例に話しを進めていくなら、

  @とにかく限界を追い求めたい(目指せ80mmタイプ)

  A安全に、かつ、コンスタントに大型の成虫を出したい(とにかく70mmOVERタイプ)

   の2つのタイプのブリーダーがいると思うのです。
  菌糸ビンを用いて飼育をする以上、サイズへのこだわりは多かれ少なかれあると思うのですが、@とAのタイプでは選ぶべき菌糸ビンは異なってくるはずです。そこで、両タイプについて述べていきます。
   まず@のタイプですが、限界を追い求める場合には、どうしても添加剤に頼る必要がありそうに思います。事実、混入している添加剤に自信のある業者の菌糸ビンによってブリードされたオオクワガタは限り無く80mmに近づいています。そして、そのような業者の場合には添加剤へのこだわりが会話を通すことにより伝わってくるはずですから、そのような業者で扱っている菌糸ビンを使ってみるのが、このタイプを目指す方にとっては良いのではないでしょうか。ただし、知識として知っておかなくてはならないのは、そのような菌糸ビンは現状ではある程度のリスクを覚悟する必要があるということでしょう。つまり、幼虫時の死亡や羽化不全が発生しやすいということになります。さらに、経験的にはディンプルやエクボなどもできやすいように思います。ただし,大型個体ほどこれらのことが起きやすいのも事実ですので、一概に添加剤の配合率が強い菌糸ビンだけに当てはまることではないということを付け加えておきます。
   次にAのタイプの方ですが、この場合には添加剤の配合比率が低い菌糸ビン、言い換えれば、添加剤の使用は最小限に抑え、できる限り材に栄養分が残っているマットを使用している菌糸ビンを使用するのが良いように思います。この場合には、添加剤の役割は菌糸の成長によって失われたり、あるいは菌糸の成長のために必要な、最低限度の添加剤が使用されていると考えても良いと思います。そして、幼虫の成長には、マットとなっている材の栄養素をフルに活用することを重視しているともいえそうです。このような菌糸ビンの場合には、幼虫に対するリスクは少なくなる傾向があり、死亡率や羽化不全率、ディンプルやエクボの確立は少ないようです。ただし、このような菌糸ビンの場合には73mm以上のサイズが出る確立は少なくなってきますし、80mmOVERを狙うのは現状では厳しいように思います。それでも、70mmOVERサイズは意外と出るもんですから、どのタイプの菌糸ビンを選ぶのかは、皆様の判断に委ねられるのではないでしょうか?なお、このような菌糸ビンを扱っている業者の場合には、添加剤の比率は低いといったようなコメントをする傾向があることから判断が付くと思います。

   ここで、この両タイプの菌糸ビンの、それぞれの使用上で注意を払うべきだろうと思われる点などについて触れておきたいと思います。まず温度管理の観点からですが、@のタイプの場合には初齢〜三齢初期にかけては25℃前後、その後22℃前後に温度設定を行うと良いのではないでしょうか。と言うのも、エサとなる環境が高栄養なのですから、成長段階も早いはずですので、高めの温度設定を行って幼虫を活発に活動させた方がより大きく成長していくはずだからです。さらに、その後、温度を下げるのはできるだけ幼虫の期間を長くして、より大きく成長させる意味合いがあります。
   また、Aのタイプの場合ですが、初齢〜三齢初期にかけては21℃前後、その後は18℃前後で幼虫をジワリジワリと大きくさせ、踊室を作る気配がある場合には24℃前後に設定すると良いのではないでしょうか。最初から低温で管理するのも手ですが、幼虫を無事に大きくして、若齢幼虫の死亡率を減らすには、上記のような温度設定の方が良いように思いました。(私見の経験則です)
なお、このタイプの場合に、やや低めの温度設定にするのは、いくら菌糸ビンを使用しているとはいえ、より自然に近  い栄養素の量でブリードしていくわけですから、ゆっくりと栄養分を幼虫に取り入れさせる必要があり、それ故に幼虫期間を長くさせるためにも、積算温度を抑えていく必要があるわけです。


 それでは今回はこれくらいで...............................次回は「G)圧縮率」から述べていこうと思います。

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