「あの手紙、アタシが書いたの。」

 感極まって彼女がそう告げた途端、・・・僕は頭を抱えてその場にしゃがみこんだ。

「またか・・・・・・。」

 僕はとある重大な事実を、正確に、且つ誤解の無いように言葉を選んで彼女に伝え、-------そして案の定、これで十二発目となる女の子達のビンタを喰らって地面に「どうっ」と倒れたのである------。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・痛い(T_T)。






"Who done it ?!"

〜あるいは「モテモテ主人公君争奪 大サバイバルゲーム大会実施の顛末」〜








 ------やっとホッペタの腫れが引いてきた頃、僕はひどく情けない気持ちに陥った。
例の手紙をたまたま受け取り、高校三年生にとっての一年間という貴重な時間と莫大なアルバイト代を使って探し当てた差出人が、実は十二人いたと言うのが今回のオチだ。
しかも、彼女たちは全員口をそろえて「自分が書いたの。」とウルウルした瞳で言い張るし・・・。

 まぁ、今更悔やんでも仕方無い。全ては僕の不甲斐なさが招いた結果だ。
・・・今思えば、どうしてもっと早くに「あの手紙、キミが書いたの?」の一言が言えなかったのだろうか。
そうすれば、十二人の女の子達とずるずると関係を続けることも無く、ましてやその全員とねんごろになってしまうこともなかっただろうに・・・。<<(役得??)

 僕は寝ていたベッドから立ち上がり、・・・すると「ピンポーン」と、家のチャイムが訪問者のいることを告げた。
窓から玄関先を見るためには、・・・玄関まで行くしかないんだよなー、この家って。<<(死角になってるって素直に言えっての)

 重い足を引きずり、階段を下って「はい、どちらさま??」と、僕が玄関の扉を開けたその時!!

「ごめんなさい・・・。」って、え? ほのか??
「ホッペタ大丈夫?!!」夏穂が言う。
「痛かったでしょう? えみりゅんがさすってあげるりゅん。」・・・言わずもがな(笑)
「あっ、それアタシが・・・。」これは明日香だ。
「いーえ、幼なじみの私が一番なの!!」と、主導権を握ろうとする妙子
「そんなの関係ないじゃない!!」ああっ、晶まで。
「いーからこっちに向けて見せてみなって。」千恵に首を180゜回される。うがごがぎぐ。
「あっ、すごいコトになっちゃってる・・・。」え゛、るりかっ、そ、そんなにひどいの?
「ご、ゴメンナサイ・・・。」ビビって引いてる真奈美。おっ、おいおいっ?!!
「・・・フッ。」・・・なんか言ってくれよっ、優っ?!!
「こうなったら切腹してお詫びを。」わわっ、若菜っ、ちょーっと待ったぁ!!

「ちょっとちょっとみんなぁー!!」

 最後の美由紀の声で、みんな「はっ」と我に返った。

「今日はそーゆーコトしにきた訳じゃないでしょー? ちゃんと事情を説明してあげなくちゃ!!」

 ・・・・・・事情??

 僕はきっと、バカのようにその場に立ちすくんでいたに違いない。
いや、それよりも、改めて冷静になってみると結構スゴイことになっていた。
なぜなら北は札幌、南は長崎からはるばるやってきたであろう女の子達が、よりにもよって東京の僕の家の玄関前で一堂に会し、突然お詫びを入れるわケンカになりかけるわビビって泣き出すわ鳥さんは呼ぶわ救急車は来るわサイレンは鳴るわ犬は逃げるわ近所のオバさん連中は集まり出すわで、・・・あれ?? 今何か違うものが混じってたよーな・・・大騒ぎになっていた。

「と、とにかく一度上がってよ。」
・・・・・・あまりの急な出来事に心臓が驚いたのか、僕はそう言って倒れ込んだらしい。
コレワキット、ワルイユメニチガイナイ・・・。(ぱたっ)


「・・・つまり、どゆこと??」
頭の上に「?」の記号をいくつも回しながら、僕は居間に集まった女の子達をソファの上から見回して言った。

「つまりね。」美由紀が仕切ることになったらしい。腰に手を当てて仁王立ちの美由紀を見ながら、僕は次の言葉を待った。
「結局、アナタが悪いんじゃないってコトになったの。」

「は?」

「アナタは去年の春休みに投函されていたあの手紙を見て、差出人を探していただけだったんでしょ?」

 僕はうんうんと頷くしかなかった。確かに、僕は変な下心で彼女達に近づいた訳ではない。気になった手紙が放っておけなかっただけだ。・・・まぁ最終的には、全員を散らし←(×) ・・・もとい、「切なさを炸裂させた」のだが。

「実は、真奈美さんが一番最初に気がついてくれたの。『あの人は「またか」って言ってたんですよね』って。」

「えーと・・・、うん、まぁ。」

「その言葉に気づいた真奈美さんがものすごく頑張って私たち全員の住所を調べてくれてね。それでやっと事実が判明したの。」

「ふーん。で、なんなの、その『事実』って。」

「実はね、・・・・・・言いにくいことなんだけど、どうやら私たちの中に・・・・・・。」

「ああっ、まだるっこしいなぁ!!」千恵がうららーっと叫ばんばかりの勢いで立ち上がった。
「つまり、この中の誰かが自分と同じ内容の手紙を見つけて、郵便受けから捨てちまったんじゃねぇかって言ってるのさ!! 早い話、自分だけ抜け駆けしようとしやがったんだ。」

その一言でみんな怒りを思い出したのか、全員がお互いを敵意のこもった目で睨んでいた。

「率直に聞くわ。アナタが受け取った手紙は一通だけだったのよね??」今度は晶が詰め寄る。
「その時の手紙、今も持ってる??」



 全員がにじり寄ってきた。



 僕は異様な圧迫感を感じたが、・・・しかし正直に言わねばなるまい。

「えっと、・・・あの手紙は・・・。」

「「「「「「「「「「「「手紙は??」」」」」」」」」」」」・・・・・・十二人でハモられると結構コワイ。

「・・・最初、イタズラだと思って捨てちゃったんだ。」





 どどうっ、と全員がなだれ落ちる。
 どこからか金ダライが降ってきて千恵の頭を「ぐわんっ」と直撃した。
ぱったりと動かなくなる千恵。・・・・・・・・・おいおい。この家は八時になると全員が集合しちゃったりするのか??

「あっ、あのねぇ!!」夏穂が怒る。
「乙女の切ない気持ちをしたためた手紙を見て『イタズラっぽい』ってだけで捨てちゃうの?!!」

「じゃ、なんで名前を書かなかったんだよ。」

 憤懣やるかたなしといった風情の全員が、僕の一言で「ぴたっ」と止まった。

「だ、だってねぇ・・・。」夏穂の目が泳いでいる。

「気がついてくれるって思ったんだもん。」これまた明日香が視線を逸らす。

「でもちょっと考えてみれば、アナタは全国を転々としていたのですからね。こういった場合もあり得るということを最初から失念していたのですから、こればかりは確かに私達の落ち度でしたわ。」若菜がくくる。

「ダーリンの言ってた『お友達はたくさんいるよ』って言葉は、確かにウソじゃなかったりゅん。ダーリンは正直な人りゅん。」ちょっとだけフォローを入れたえみる。ううっ。いいコだなぁ・・・。

「そ・こ・で。」美由紀が本題に入る。
「こうなったらもう、『誰がいつアナタの家に行ったか』なんて不毛な質問はやめることにして。」

 ・・・確かに、この状況ではもう誰がいつだって構わないだろう。
それに、誰かがウソをついてもそれは誰にも分からない。「そうだっけ??」と、トボケられたらその時点で終わりだ。





「アナタに選んで欲しいの。」





ぎく。





「誰が一番・・・」





ぎくぎくっ。





「・・・強いのか。」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は??

「アナタを想う気持ちは誰が一番強いのかを、アナタに見極めてもらいたいの。今日はそのことを相談に来たのよ。」

「・・・それ、知らんかったんとってんちんとんしゃん・・・。」
思わずS.E.Tのギャグが出るぐらいに、僕は今の言葉の意味をつかみかねていた。
そりゃそうだろう。女の子に「誰が一番強いか」と訊かれて即答でもしようものなら、それはそれでコワイ世界が開けそうだ。

「私たちは見ても分かる通り、体格も性格もバラバラでしょう? だから、ありきたりな勝負じゃ簡単に優劣が決まってしまって、全員が納得できないのよ。ポーカー然り、殴り合い然り・・・。」

 確かにポーカーなら晶の大勝ちが目に見えているし、・・・な、殴り合いは千恵の独壇場だろうからな(滝汗)。
僕の目の前を、まるで何かのゲームのオープニングデモのようなカンジで血しぶきをあげながらふっとんでゆく十一人の姿が、一瞬浮かんですぐに消えた。

「だから、この際アナタに・・・いわば私たちの『決闘』の方法を考えて欲しいの。全員にハンデが無くて思いっきり戦えて、しかも負けた人が納得いくような方法を!!」

「!!」

「お願い、ばかばかしいってコトは百も承知よ。でもここにいる全員、一人残らずアナタにとっての一番になりたいの!!」







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・じぃーんんんんんんんん(残響音含む)・・・・・・。






 そ、そんな強力なセリフは今まで聞いたことがない。
正に「熊をも一撃」って表現がピッタリだよ。





 女の子にここまで言わせたとあっちゃあ漢(をとこ)の名折れだ。僕はしばし考えを巡らせ、・・・・・・そこでとある手段に行き着いた。

「・・・分かった。それは『まだこの中の誰もやったことのない方法』であればいい訳だね?」

「そーゆー言い方にもなりますわね。」若菜が頷く。

「じゃあ。」

「「「「「「「「「「「「じゃあ??」」」」」」」」」」」」 ・・・だから、それコワイって?!!

『サバイバルゲーム』で勝負ってのはどう?」

「サバイバル、・・・なに??」るりかが興味津々といった面もちで聞く。

「サバイバルって『生き残る』って・・・意味ですよね。」真奈美がもうダメだという顔をした。

「ありがてぇ。アタシのことを第一に考えてくれたんだな?」
パチンっと両手で拳を鳴らしながら、千恵が嬉々として立ち上がった。
・・・・・・が、すぐに足下にあった金ダライで妙子に殴られ、またもや動かなくなった。とうとう死んだか?

「この人が話すと、ややこしくなるから嫌い。」・・・おいおい妙子。目が覚めたときコワイぞ。

「じゃあ今から説明するね。『サバイバルゲーム』って言うのは「BB弾」っていうプラスチックの弾丸を使った・・・・・・。」






 それからの小一時間。

 僕は全員にその内容とルール、なぜこの方法を選んだか、どういう具合に体力差が無いのかを説明した。
 サバイバルゲームとは、そこそこの体力と平常心、そして危機的状況に陥った時にこそその人間の真価が問われ、また本性も露わになるという「究極の大人の遊び」であることを得々と語り、最後に用意するものをリストアップした。

 「じゃあみんな。その日までに銃の扱いは習熟しておくようにね。無い人は僕の銃を貸してあげるけど。」

 晶や若菜は自分で買ってくるだろうし、男の兄弟がいる家になら多分エアガンぐらいはあるだろうと踏んでいた。なにぶん、やはり高い買い物なのだ。銃本体と、電動ガンならバッテリーと充電器。それにBDU(Battle Dress Uniform = 「戦闘服」)だってサイズや好みだってあるものの、ひとそろいさせるには万単位での出費を強いられる。貸して済むならそれに越したことはない。

 しかし意外なことに、彼女たちは全員が「自分で買う」ことを選んだ。確かに、自分が使いやすい銃にするならば、早速ゲットして手元に置き、少しでも早く慣れておいた方がいい。時間もあまり無いのだし。

 こうして、なんだか妙なノリで突発的に始まったサバゲーの打ち合わせは、
「期日は一ヶ月後の今日、場所は、公平を期すために今は詳細不明とし、当日僕の家に集合してから一斉に出発すること。」
と決まってお開きとなった。

次回はいよいよ本戦だ。頑張れみんな、負けるなみんな。
もしこの計画が失敗に終わったら、僕はなんのためらいもなくヒンドゥー教に改宗するぞっ(笑)。


To Be Continued...





(おまけ)

「そーだ、ダーリン!!」 えみるが突然思いついたようにこう言った。

「せっかくだから、えみりゅん達にチームの名前をつけてよー。」

「チームの名前?」

「うん!! カッコイイ名前がいいなぁ。」

・・・・・・そうだなぁ。・・・・・・んっ、そうだ!!

「じゃあ、"Day of Lovely Ladies"ってコトで"DoLLs"(ドールズ)ってのはどう??」

「あ、それカッコイイ!!」夏穂がそう叫んだ。

「私も意義はありませんわ。」若菜も気に入ってくれたのか。うんうん。

「じゃ、これでいいかな?? えみる。」

「うん。ダーリンってセンスいいねー。ますます好きになっちゃったりゅん!!」

「そ、そうかな。」

「フッ。なかなかやるね。ボクはてっきり"Day of Lonely Ladies"にするのかと思ったよ。」

ぎくっ。

・・・・・・。

・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・。

「あーっ、その間はなんだぁー?!」ち、千恵っ、頼むからくび、首っ、首が絞まってるって、はずしてくれっ!! は・・・・・・・・・・・・・

(つぴーーーーー・・・・・・。)