「カシュッ」
ごくごくごくごく・・・、ぷふーっ。
店長ありがとう。すごく美味しい缶コーヒーでした。
でも、でもですね、よーく冷やそうという気持ちのあまり、これをフリーザー室に入れて置いたのはなにかの間違いですよね?
飲みきるまでに中身を溶かし溶かししていたせいで、あれから更に30分は経ってしまいましたよ、ええ、本当に。
まぁ、何はともあれ少し落ち着いた。うまい具合に陽の光を遮る木陰も見つかったし、何より涼しいベンチも確保したし・・・。
僕は何だか惚けてしまい、何をするでもなく人っこ一人いない公園でしばらくぼけっとしていた。太陽はいますます強く輝き、都会で生きながらえている蝉がけたたましく鳴いている。連日つづく猛暑のせいで、僕はセミそのものが岩に染み入ってみたら面白いだろーなー、などと莫迦げたことを考えていた。
と。
突然僕の頭上から「ガサッ」という音がして、僕の心臓は寿命が尽きるまで続けていてしかるべき不随意筋運動を一瞬停止しかけた。今のいままでこの公園の敷地内には、僕と蝉以外の生物は存在しないと思っていたからだ。
僕は驚きのあまり、そのまま姿勢を硬直させた。
「・・・ふっ、ふっ。」
・・・ネコか??
少し恐怖心の和らいだ僕が、恐る恐るそちらの方向へ振り向こうとすると、
「ふっ、ふえええええええーん、だれかたすけてぇ〜・・・。」
な、何だ?! 新手の冗談か?! それともどこかに隠しカメラが・・・。
いやそんな訳無いだろう、一体なにがどうしたんだ?
僕は泣き声のする方へ首を回した。
「ありゃ。」
「あっ、そこのおにーちゃん、たすけてぇ、こわいよお。」
僕が見たもの。
それは、木登りをしたはいいものの降りられなくなって困惑のあまり泣き出した5〜6才ぐらいの女の子が、木の枝にしっかりと縋りついたまま動けなくなっている様子だった。
「大丈夫かい?」
するとその女の子はくりくりとよく動く綺麗な瞳で僕を一瞥すると、次に激しく非難するかのような口調になってこう言った。
「だいじょーぶじゃないよ、だから『たすけて』っていってるのっ!!」
・・・そりゃまた・・・ごもっともなお話でした・・・。