今回は秋田弁上級編。さ行でまとめてみた。
まずは「さ」と「そ」。
非ネイティブで、いきなり「
そうさねばね」と言われて、すぐ意味が分かる人は多くないと思う。秋田生活が長くないと辛いかもしれない。
ゆっくり考えて分解するとわかる。
「
そう」「
さねば」「
ね」である。
「
そう」はそのまま。
「
さねば」の「さ」は「する」の未然形、「ね」は「ない」、「ば」は仮定の意味の助詞。
「
ね」は、やはり「ない」。
早い話が、「
そう-しなければ-ならない」である。
「
そう」の部分は、「掃除」でも「決闘」でも、サ変動詞で置き換え可能。
問題なのは「ば」が欠落することが少なくない、ということである。「
そうさねね」となる。こうなるともっとわかりにくかろう。
サ変動詞に限らず、「行かなければならない」は「
行がねね」、「食わなければならない」が「
かねね」となる。
なお、感嘆の感情を人に伝える場合の「行かないねぇ」「食わないねぇ」も同じ形になるので要注意。前後の文脈でわかるとは思うが。
ついでに言えば、確認するときの「行かないね?」「食わないね?」は「
行がねな?」「
かねな?」である。
この 2 つの違いについては、例えば何かの実験をしているシーンを思い浮かべて欲しい。
あなたは同僚と二人で実験をしているのだが、うまくいかず、揃って途方にくれている。この場合は「
行がねなー」である。
あなたは教授で、生徒の実験を見舞っているのだが、生徒の思惑とは異なりうまくいかず、あなたはちょっと失望している (イライラしていてもよい)、という場合は「
行がねね」である。
簡単には、「
行がねな」は「行かないねぇ」、「
行がねね」は「行かないじゃない」とでも言えようか。
「ば」が「あ」になる「
そうさねぁね」というパターンもある。
「
さってば」は「何かと言うと」
「
さってば逃げるごどばしだものな、この童だば (何かと言えば、逃げる事ばっかりだもんな、この子供は)」というように使う。
「
てば」は「〜って言えば」だと思う。「
さ」は、ひょっとして「左様」の「さ」だろうか。
「
しょし」が「恥ずかしい」の意味であることを知っている人もいると思う。ただ、山形方面
で「
おしょしなんす」と言えば「ありがとう」の意味だそうだから、間違えないように。「
しょし」は「笑止」が元ではないかと言われている。
ちょっと似ているが「
しょわしね」というのは「せわしい」ということだ。国語辞典にも「せわ
しない【忙しない】」として載っているから、これの転訛だろう。
更に似ているが、津軽で「
しゃしね!」と言われたら、それは「やかましい!」と言われて
いるのだから黙った方がよい。ひょっとしたら、「
しょわしね」と同じルーツなのかもしれない。
す―はあまりいいのが思いつかないのだが、「
すっけ」はどうだろうか。これは「酸っぱい」という意味。
秋田弁では、このように形容詞の語尾が「け」になるものがある。他には「軽い」が「
軽っけ」、「小さい」が「
ちっちゃけ」などというのもある。
じゃ「甘っけ」とか「重っけ」と言うか、というとそんなことはない。非常に限られたケースのようである。
「
しゃっけ」は
以前も取り上げたが、これは「冷やこい」という標準語形があって、もともとカ行で活用するので、この 2 つとはちょっと毛色が違う。
「
軽っけ」については、その人なりに共通語化させたつもりの「軽っこい」というのを聞いた
ことがある。どう言ったって秋田弁なのだが。
でも「
ちっちゃこい」は言うのだなぁ。
「丸っこい」あたりなら標準語でも言うかもしれないが、「丸っけ」という形はあまり聞かない。
「ねぇ」に相当する「
せぇ」という語尾がある。
「そうしたらねぇ」が「
したっけせぇ」となる。勿論、「
したっけねぇ」とも言うのだが。これはちょっと不思議な語である。
あんまり若い人は使わないようだ。
小ネタの寄せ集めと言われればそれまでだが、今回、取り上げた秋田弁はちょっと難しい。難しいというよりは、秋田弁の話をしようとしてもとっさには出てこない、ネイティブでも「そういえば」と思わず膝を打つような表現ばかりである。
これが駆使できるようになったら、秋田弁免許皆伝と言ってもいいかもしれない。
では、秋田弁マイスターを目指して精進して欲しい。