Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第22夜

春来たりなば冬遠からじ



 旧暦では、1〜3 月が春で、以降 3 ヶ月毎に夏秋冬である。だから黄金週間なんぞは、実は真夏の盛りというわけだ。事実、立夏は GW 末期にやってくる。
 これが、ニュースでいうところの「暦の上では」という奴で、列島の両端、特に冬が長くて苛々鬱々している北日本の住人の神経を逆なでしてくれるのである。何せ、こっちではもうすぐが解け始めるかなぁと思ってる頃に、はるか南の方ではビヤガーデンが オープンするのだから。スキーが嫌いでビールの好きな俺などは「ふざけるなぁ」と思うのだが、別に誰かが冗談でやっているわけではないので始末に悪い。
 しかしまぁ、暖房の効いた部屋で飲むビールもまたいものだが。
 だから、の話をする。

 童謡にもあるので有名な俚言だが、「氷」は「しが」という。
 簡単に分かるかと思ったが、意外に語源の調べがつかない。
 凍らせた豆腐を「凍み豆腐」ということから、「し」と「氷」の関連、というのが一つ。
「氷」のことを「」と言ったそうなので、「ひ」が「し」になった、というのが一つ。
 というわけで、仮説のみ。
 それというのも、「しが」を俺が使わないからなのだが。
 なんとなく、「しが」は池等に張った氷のことを指すような気がする。冷蔵庫で作ったものは「しが」とは言わない。
 大辞林 *1 によれば、古くは「こおり」が水面に張ったもの、「ひ」が固まりを指したそうだから、「ひ」が「し」になった、という線は弱くなるが。
たろんぺ」のことは以前にも述べた。

「寒い」は「さび」となる。「さぶい」はあまり聞かない。
 標準語でも「かむる」と「かぶる」があるし、津軽で行われる、眠気を払う祭りは「ねぶた」。マ行とハ行の変化はよく見られる現象のようだ。鼻が詰まっているとマ行の音はバ行になってしまうから、音韻的に似ているのかもしれない。
 あ、の話をしてしまった。

「冷たい」。  これ、どこまでが秋田弁か分からなくて辞書を調べてしまった。
 まず、秋田では「はっけ」と言う。
 あるいは「しゃっけ」とも。
 実は、この「しゃっけ」を思い出すまで大騒ぎだったのだが。
しゃっけ」に対応する共通語は「ひゃっこい」。これは「冷やこい」の口語形である。
「ひゃっこい」から「はっこい」「はっけ」まではひとっ飛びだ。
「冷やこい」「ひゃっこい」はきちんと辞書にも載っている。従って、「はっけ」「しゃっけ」が秋田弁である。
 東京在住の頃でも、意図せずに冷たいものに触れてしまった場合など、必ず「はっけ」と叫んでしまったものだ。とっさに「冷たい」などと翻訳できるものではない。

 雨でもいいが、雪が降った後にやや暖かくなると、ズボンの裾後方などに泥の点がつくことがある。これは「すっぱね」と呼ばれる。
 語源もへったくれもない。すっぱね」としか呼べないではないか。
はねあげる」という言い方もあるにはあるが、首都圏の人が考えるものとは、アクセントが全く違う。
 余談だが、「すっぱね」を避けるには、内股で歩くといいそうだ。というのは、右足の踵が跳ね上げた水滴が左足に、左の踵から右へ、という関係だからだ。踵が外を向いていると回避できる理屈だ。ゆっくり歩いてみると分かる。*2

 雪といえば、横手市の「かまくら」。
 これ、実は、なぜ「かまくら」と呼ばれるのか、諸説紛紛で定説がなかったりする。

 東北地方に関する大いなる誤解の一つに、「夏は涼しい」というのがある。
 確かに、都会特有の異様な熱気はない。遥かに過ごしやすいとは言えるのだが、真夏日 (最高気温が 30 度を越える日) はちゃんとあるのだ。盛りには何日も続いたりして、かなり寝苦しい。
 海水浴が出来ない、と思ってる人も多いので、この機会に是非、認識を改めて欲しい。日本広しといえども、夏に泳げて冬にスキーが出来る地域はそうあるものではない。まして、どっちにも車で 30 分という場所は大変に限られる。
 いいだろ



注1:
 『大辞林』初版 (三省堂、1988 年)
 最近、この辞書が登場することが多いが、机との位置関係が変わったからで他意はない。ただ、「こおり」と「ひ」の対比については、他の辞書には載ってなかった。(
)

注2:
 NHK 総合「ためしてガッテン」より。(
)



音声サンプル(.WAV)

さび(12KB)
はっけ(12KB)
すっぱね(12KB)
はねあげる(13KB)



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