「冬物語」

    目 次

1. はじめに
2. キャストとスタッフ
3. ストーリー
4. 「冬物語」の魅力とその舞台
5. 感 想

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1. はじめに
 友人の息子高橋広司君が出るので、平 幹二朗主演・演出の「冬物語」を見に行きました。今年(2005年)の1月から全国を回り、6月は東京とその近郊で公演し、6月末に千秋楽を迎えます。東京では新宿の紀伊国屋サザンシアターで公演があり、6月6日の初日に行きました。

2. キャストとスタッフ
[キャスト]
リオンティーズ(シチリア王)/時                     平 幹二朗
カミロー(シチリアの貴族)/貴族                     勝部 演之
アンティゴナス(シチリアの貴族)/紳士                 有馬 光貴
クリオミニーズ(シチリアの貴族)/召使い/ロバ             高橋 広司
ハーマイオニ(リオンティーズの妃/ジプシー女             前田美波里
バーディタ(シチリアの王女)/マミリアス(シチリアの王子)/淑女   小林さやか
[スタッフ]
作     W・シェイクスピア
訳     小田島雄志
演出    平 幹二朗

企画・製作 幹の会

3. ストーリー
 シチリア王リオンティーズとボヘミア王ポリクシニーズは幼い頃からの無二の親友であった。彼らはお互いの国を行き来し、親交をあたためてきた。そして今、リオンティーズの宮殿にポリクシニーズが滞在し、9ケ月が過ぎようとしていた。これ以上国を空けてはいられないというポリクシニーズをリオンティーズは強引に引き留めようとする。
 なかなか応じないポリクシニーズに業を煮やした王は、王妃のハーマイオニに説得を頼む。はじめは固辞するポリクシニーズだったが、ハーマイオニの熱意に動かされ、ついに逗留を決める。しかし、喜ぶはずのリオンティーズの内に突然暗雲が立ちこめる。ポリクシニーズとハーマイオニが顔を寄せあって話し合う姿は、まるで恋人同士のようにみえたのだ。「あのむつまじさは異常だ。二人はもしかしてこの9ケ月の間に愛をはぐくんでいたに違いない。ハーマイオニは臨月の身体−もしかして彼の子を宿したのでは?…」リオンティーズの内に沸き起こった疑念は二人への嫉妬へと発展し、恐ろしい決断を実行に移すことになる……。そして16年後、奇蹟的な結末が……。
(出典 「冬物語」のプログラム)

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4. 「冬物語」の魅力とその舞台
 シェイクスピア晩年の戯曲『冬物語』は、『ペリクリーズ』『シンベリン』『テンペスト』とともに、「ロマンス劇」と総称される作品群の1つである。
 これらのロマンス劇に共通するのは、離れ離れになっていた家族や親族が長い歳月を経て幸せな再会と和解を果たすという物語だ。一見荒唐無稽にも見える奇抜なストーリー展開が多く、魔法、神託といった超自然的な趣向も登場する。
 離散していた親族が不幸な対立と放浪の果てに再会し、和解するという筋立てには、人間と社会の明暗をつぶさに見てきた晩年のシェイクスピアの祈りにも似た願望が込められている、と見ることもできるだろう。引き裂かれ、対立しあう家族・親族を民族や国家にまで拡大してみれば、これらのロマンス劇は、おとぎ話風の外見とは裏腹に、今も世界各地で絶えない国家間の戦乱や民族紛争にもリアルにつながるのだ。
 『冬物語』は、前半と後半とでは劇の雰囲気がまるで異なる。シチリアを舞台とする前半は暗く重苦しい悲劇調だが、劇が16年後、ボヘミアに移ると、一転して晴れやかで陽気な喜劇的舞台となる。前半で描かれるのは、妻と親友の仲を疑うシチリア王リオンティーズの、理不尽で突発的な嫉妬がもたらす無残な悲劇の数々だ。劇の後半では、今度はボヘミア王ポリクシニーズがやはり似たような誤りを犯す。王子と羊飼いの娘バーデイタ(実はリオンティーズとハーマイオニの娘)の恋を知って逆上し、若い2人のシチリアへの逃避行を招いてしまうのだ。国を治める父親たち(支配者たち)の愚行は、現代の私たちから見ても、思い当たることが多い。
 こうして舞台は再びシチリアに戻る。そして大詰め、一同が見守る中でハーマイオニの石像が動き出す有名なクライマックスがやってくる。劇の設定としては、王妃ハーマイオニは16年前に死んだことになつている。だが舞台上には、ハーマイオニそっくりの等身大の彫像がある。その彫像が動き出し、ハーマイオニは実は生きていたことが分かる。
 この場面の劇的効果は驚くべきものだ。むろん私たち観客は、ハーマイオニ役の女優が石像に扮していることを察している。にもかかわらず、いざ石像が自動人形のように動き出し、その肌に触れたリオンティーズが「おお、あたたかい!」と歓喜の叫びを上げる時、私たちの心も驚きと喜びに満たされる。取りかえしのつかない過ちを何とか元に戻したいという、私たち誰しもが心の底で願いながら、しかし現実には決してかなえられない奇跡が、今ここに実現するからだ。
 しかも、この「奇跡」を支えているのは、女優が扮する石像が動き出して生ま身の人間になるという、実に単純でありながら絶大な効果を発揮する演劇的虚構である。この場面を見るたびに、私はシェイクスピアの天才的手腕に舌をまく。
 ハーマイオニの彫像は、普通は観客の方を向いた立像の形を取るが、2001年に平幹二朗が演出した「幹の会」の公演では、前田美波里扮するハーマイオニ像は坐像になつていた。これまで私はさまざまな『冬物語』を観てきたが、坐像のハーマイオニはこの舞台以外、観たことがない。白いベールをまとい、顔をやや下手に向けた像である。座ることで像には大地との一体感が生まれる。しかも、動き出すときは、ゆつくりと立ち上がる動作が加わるので、観客の驚きはさらに増える。

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 その点でも特異だったのは、1994年に来日した英国ロイヤル・シェイクスピア劇団(RSC)の『冬物語』である(銀座セゾン劇場=現・ル テアトル銀座)。当時のRSCの芸術監督エイドリアン・ノーブルは、ハーマイオニ像をあえて後ろ向きの立像としたのだ。後ろ向きなのでハーマイオニの顔は見えないが、動き出した像にはつと息をのむ周りの登場人物たちの表情がはつきりと見てとれた。驚く人々の反応に焦点を合わせた演出である。
 『冬物語』の翻訳は、日本では1918年(大正7年)に『冬の夜ばなし』という題名で坪内逍遥訳が出たのが最初である。ただし戦前は、翻訳上演は行われなかったようだ。第二次大戦後は、近代劇場が1955年に、坪内訳、加藤長治演出で初演。その流れをくむ近代座も69年に上演した。
 この作品を上演面でクローズアップしたのは、1970年に行われたRSCの初来日公演である(日生劇場)。気鋭の芸術監督トレバー・ナンが演出した『冬物語』が、斬新な現代的舞台作りで日本の観客を驚かせた。
 名女優ジュディ・デンチがハーマイオニとバーディタの母娘2役を演じ分ける趣向が鮮やかだった。ボヘミアの祭りの場面には、ロック音楽に乗って歌い、踊る長髪のヒッピーたちも登場した。この刺激的な舞台を通して日本の演劇人たちは、シェイクスピア劇は古典劇的なスタイルにとらわれず、自由に解釈し、演出しても構わないことを実感したのだ。
 それ以降、日本でも新しい演出によるシェイクスピア劇の舞台が急増した。そのきっかけを作った点でも、『冬物語』は忘れがたい作品である。
  扇田昭彦(演劇評論家)

5. 感 想
 今回の公演では、平幹二朗は別として、ハーマイオニ役の前田美波里が魅力的です。そのスタイル抜群の彼女は、踊りもうまいのでジプシー女との二役は、群を抜いていたと思います。
 高橋広司君は、例によって少しおどけた役が合っていました。
 私も家内も今回のようなオーソドックスな芝居の方が、好みに合っているようです。

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[Last Updated 7/31/2005]