信越本線の分断と解体

◆1997年の長野新幹線開業と引き替えに碓氷峠は「廃線」に、軽井沢-篠ノ井間
 はJRから経営分離されて「しなの鉄道」になりました。

◆2015年の北陸新幹線開業と引き替えに、長野以北の信越本線は、JRから経営
 分離されて、長野-妙高高原間は、「しなの鉄道」(北しなの線)に、
 妙高高原-直江津間は、「えちごトキめき鉄道」に分割されました。

◆高崎-新潟間の信越本線は廃線による分断と経営分離による解体で残っている
 のは、高崎-横川間、篠ノ井-長野間、直江津-新潟間のみになりました。

 

信越本線は群馬県の高崎駅を起点とし、長野駅など経由して新潟駅に至る鉄道路線でした。信州と越州を結ぶから信越本線という名称です。全線開業は1907(明治40)年で、表日本と裏日本を結ぶ重要な幹線の一つでした。蒸気機関車の時代には、上野発新潟行きの普通列車もありました。EF62の時代にも柏崎行きや直江津行きの長距離の普通列車がありました。

1997年(平成9年)、長野新幹線(北陸新幹線)が高崎駅から長野駅まで開業したときに、新幹線開業と引き替えに碓氷峠越えの「横川-軽井沢間」が廃止されて信越本線は分断されました。並行在来線の「軽井沢-篠ノ井間」もJR東日本から経営分離され、第三セクターの「しなの鉄道」に経営移管されました。

2015年(平成27年)3月の北陸新幹線の金沢延伸開業によって、並行在来線の「長野-直江津間」が経営分離されました。「長野-妙高高原間」は、「しなの鉄道北しなの線」、「妙高高原-直江津間」は、「えちごトキめき鉄道妙高はねうまライン」となり、JR東日本から経営が分離されました。

こうして、100余年の歴史ある信越本線は、継ぎ接ぎだらけとなり、「高崎~横川間(29.7km)」、「篠ノ井~長野間(9.3km)」、「直江津~新潟間(136.3km)」の3区間にのみが信越本線という名称で存続することになりました。

平成2年12月24日の「政府・与党申し合わせ」で、新幹線開業時に並行在来線をJRから経営分離する原則が決められました。経営分離とは、県毎に設立する第三セクターに在来線の経営を押し付けることです。特急料金収入の無くなる在来線は赤字路線に転落します。赤字分は自治体が補填するか運賃値上げで対応せざるを得ません。経費がかかりすぎて県が引き受けられない碓氷峠区間は廃線になり代替バス輸送になりました。この政府・与党申し合わせに基づいて信越本線の分断と解体が行われたのです。







並行在来線の経営分離とは地域住民に負担を強いるおかしな制度

並行在来線を分割して県毎の第三セクターに経営させるというのは摩訶不思議な制度です。今、世の中では、会社でも地方自治体でも零細で弱いところは生き残る手段として合併を推進しています。合併が大規模になるほど経営基盤が強くなります。ところが在来線の鉄道経営では、その逆を推進しているのです。鉄道経営は、本来はできるだけ広範囲にわたって経営し、輸送密度の高いところと低いところで収支のバランスをとって均一運賃で運行すべきものです。しかし、並行在来線の経営分離では、路線を県単位に分割してしまうので、経営は零細で弱体になり、輸送密度の低い県では慢性的な赤字になり経営が困難になっています。そのため、経営移管前の運賃での運行は不可能であり、赤字を補うために大幅な運賃値上げが必要です。しなの鉄道の例では、経営分離前のJR経営の時代と比較して、普通運賃は1.24 倍、通学定期は1.61 倍、通勤定期は 1.49倍に上昇しています。経営分離区間が比較的輸送密度が高いとされてい たしなの鉄道でもこの有様です。輸送密度が低く財政基盤の弱い県ほど大幅な運賃値上げが必要であり赤字補填で県民の負担が増えるという逆進性が強い状況となっています。
更におかしなことに、並行在来線でも比較的輸送密度が高く特急も残っている儲かる路線はJR経営のまま存続しているのです。小間切れになった信越本線の分断路線図は日本の在来線経営政策の不合理性を象徴しています。


並行在来線経営分離のメリットとデメリット

▲メリット
・利用者や自治体にとっては、メリットは何もない。
・JRにとっては、在来線に経費を回す必要が無くなり高収益になる。

▼デメリット
・JRにとっては、デメリットは何も無い。
・廃線でバス輸送になった区間では、運賃増大、時間的ロスの増大。
・運賃や定期券の大幅値上げによる負担増。
・赤字になった場合は自治体が税金から補填。
・運行本数の減少により時間的ロスの増大。
・県を跨いで別会社間になるので初乗り運賃加算による負担増。
・三セクでは保線体制の弱体化により降雪時等の遅れの増大。
・三セク区間は青春18切符が使えず、限られた費用での旅が出来なくなる。



平成2年12月24日の「政府・与党申し合わせ」は、JRへの忖度 
JRの利益を検証し、実情に合わせた見直しを求む

何度も書いてますが、平成2年12月24日の「政府・与党申し合わせ」で、新幹線開業時に並行在来線をJRから経営分離する原則が決められました。経営分離の理由は、新幹線と在来線の両方を経営させたのでは二重の赤字になりJRの経営が危なくなるという危惧からです。

では、本当にJRの経営は厳しいのでしょうか?
2017年3月期決算では、JR東日本、JR東海、JR西日本の三社を合わせた営業利益は一兆円を超えてます。純利益でも7600億円を超えております。二重の赤字どころか、高額の新幹線料金と在来線の経営分離で二重の儲けになっているのです。

JR三社の各サイトで決算報告書を確認してみましょう。碓氷峠が廃線になった1997年を含む毎年の決算で利益を見て下さい。

◆JR東日本のサイトで1997年まで遡って各年の決算を見ることが出来ます。
http://www.jreast.co.jp/investor/financial/


◆JR東海のサイトで1997年まで遡って各年の決算を見ることが出来ます。
http://company.jr-central.co.jp/ir/brief-announcement/


◆JR西日本のサイトで2002年まで遡って各年の決算を見ることが出来ます。
https://www.westjr.co.jp/company/ir/library/earnings/


JR東日本の決算報告を例に採れば、この20年間の各年毎の純利益は、219億~2779億円で、赤字に陥るような年は全くありません。整備新幹線の経営赤字で国鉄の二の舞になるというのは全くの杞憂かデタラメで、実態は大儲けをしている超優良企業なのです。

整備新幹線が伸びて行く全国各地で並行在来線が滅びてバス輸送になったり、利用者負担が激増したりしてしまわないよう、平成2年12月24日の整備新幹線の取り扱いについての政府・与党申し合わせの『建設着工する区間の並行在来線は、開業時にJRの経営から分離することを認可前に確認する』という規定の撤廃を要望します。
既に経営分離してしまった区間については、JRへの買い戻し、若しくは新幹線開通前の特急料金収入に見合う金額の拠出金を検討するべきです。






在来線の経営分離による利用者の負担増とJRの決算報告の状況を見ていると下記のフレーズを思い出してしまいます。
右肩上がりの成長が無理になると、自国民を収奪の対象にするようになる。貧者(在来線利用者)から吸い上げたものを富裕層(JR)に付け替えて、あたかも成長をしているかのような幻想を見せているだけです。







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バックグラウンドの写真; 関東と信州を結んでいた特急あさま号