鉄路復活への道



【過去の検証】
 碓氷峠の鉄路復活について、いくつかの案が語られてきましたが、廃線後21年の歳月が過ぎても、未だに鉄路復活も鉄路再生も実現しておりません。

過去に語られた主な案としては、
@ 保存鉄道構想
A 観光鉄道構想
B 軽井沢へのパークアンドライド構想
などがありました。



何れも、鉄路復活に繋がる案ですが、22年間の歳月を経ても実現しなかった理由を考えてみましょう。

【案1】 保存鉄道構想  
  高崎経済大学の西野寿章先生が提唱されていました。碓氷峠の廃線跡に「行政」+「市民」で「保存鉄道」を立ち上げて「鉄路」を「保存」するための鉄道としての運行を目指す。市町村レベルでは、地域振興策と捉え、交通政策とは切り離して考える。
 最終段階は、西横川(鉄道文化むら西)−しなの鉄道軽井沢 長期的には公共交通化
路線保存鉄道として峠の線路を運営、維持する。将来的には、市民運動から官に引き継ぎ鉄道事業としての完全復活を目指す。

 ※1998年9月18日 松井田町文化会館での西野先生記念講演:
  『碓氷峠の鉄路再考』必要性と復活への視点
 ※1999年7月 軽井沢町での西野先生講演のレジュメ
  横川・軽井沢間 鉄道復活への視点
【実現できなかった理由】
碓氷峠は勾配が急すぎて保存鉄道として使用できる車両がEF63と古いモーターカーに限られてしまう。EF63を動かすためには費用がかかりすぎて民間のNPOのレベルでは実現はほぼ不可能です。鉄道文化村でEF63の展示運転(体験運転)を運行していますが、これを軽井沢まで延伸するのは費用的に不可能。人的問題としては、碓氷峠ファンは多いが、NPOに参加して汗を流そうという人は殆ど居ない。



【案2】 碓氷峠観光鉄道構想
 碓氷峠交流記念財団の初代理事長櫻井正一氏が構想した案。財団法人「碓氷峠交流記念財団」が2006年9月の臨時理事会で、2000年施行の改正鉄道事業法に基づく「特定目的鉄道」として国土交通省関東運輸局に許可申請を行うことを決めた。しかし、2006年に松井田町は安中市と合併。合併後の選挙で当選した安中市の岡田市長は構想に賛成せず櫻井理事長が辞任して碓氷線の「観光鉄道化」は頓挫しました。
 ※観光鉄道が揉めている当時の記事
【実現できなかった理由】
 夢がある計画でしたが、計画自体に無理があり。新造機関車調達や線路の安全性確保のための費用が無い。トロッコ列車レベルのスピードでは軽井沢までの往復に時間がかかりすぎて営利事業として成り立たない。安中市長が待ったを掛けたのは理解できる。



【案3】 軽井沢へのパークアンドライド構想
 軽井沢の夏の混雑、旧軽地区の駐車場不足、四季を通じたアウトレットショッピングモール周辺の交通渋滞。軽井沢の町中から高速インターまでの往き帰りの渋滞等々軽井沢の交通渋滞は有名です。年間の観光客数は、2009年の時点で7600万人、2019年では8700万人です。あまりにも渋滞が酷すぎて観光公害だとまで言われています。軽井沢町も、これではイカンと気がついて、しなの鉄道で小諸までをパークアンドライドの範囲として提唱しています。
 ※軽井沢交通快適化対策(パーク&レールライド)
【実現できなかった理由】
 軽井沢町の道路渋滞を緩和できる有効な手段であると考えられるが、碓氷峠の鉄道再開は軽井沢町と安中市だけで何とか出来るような問題ではありません。軽井沢町もしなの鉄道を使ったパークアンドライドを推奨しており、ニーズがあることは確かであり、今後に繋がる構想です。




【廃線後22年間での技術の進歩を試算に反映すべし】

 碓氷峠の鉄道を存続させるためには、年間10億円の赤字になるという理由でJR東日本は碓氷峠を廃線にしました。JRが試算した年間10億円の赤字という金額について、今日改めて試算したらどのようになるでしょうか?

 10億円の赤字の明細については公開されていませんが、当時の補助機関車EF63を使用する運行形態での試算だと推測します。

 当時、群馬県の試算では、補助機関車を使用しない登山電車型の車両を使用して、年間4億円の赤字、初期投資に150億円が必要と言われてました。この当時でも年間赤字はJR試算より6億円少なくなっています。

 今日の技術をもってすれば、補助機関車無しで碓氷峠を往来できる蓄電池駆動車両は作製可能でしょう。蓄電池電車であれば峠の区間に架線も変電設備も要りません。回生エネルギーを利用すれば電気料金もEF63の時代より格段に安くなります。

 このような車両を使用する条件で赤字試算をやり直してみるべきです。乗客数も当時の見積では、1日あたりの乗客数170人で算出しているものと思われる。今日のように軽井沢に年間870万人もの観光客が訪れることを想定していない。観光客の在来線利用を推測して赤字試算をやっていただきたい。

 黒字化になる見込みは困難であったとしても、赤字が圧縮できて、例えば2億円くらいの赤字であれば碓氷峠に鉄道を再開すべきである。運賃収入では赤字になったとしても地域経済に及ぼす影響は大きく、利用者の利便性も大いに向上するので経済的効果も大きいことを鑑みるべきである。

【鉄道事業としての完全復活を目指す道程】

 西野先生の保存鉄道構想は実現しなかったが、形を変えてその指針は活きている。2018年度より碓氷峠に新たな動きが起こった。
安中市観光機構のメンバーが廃線跡の線路の草刈りを始めて、10月に廃線ウオークを実現させた。それとは全く別に有志の市民グループも市の許可を受けてボランティアで放置されていた上り線の草刈りを始めて、上り線も廃線ウオークに使用できるようになった。

 安中市観光機構は、次のステップとして4人乗りの電動アシスト式レールバイクの導入を計画している。有志の市民グループも別の視点から、急な勾配に対応出来る軌道自転車の試作実験を進めている。

 このような形で「行政」+「DMO」+「市民」が連携して碓氷峠の線路を維持していくことが出来れば、鉄道事業としての完全復活も夢ではなく現実味を帯びてくる。



【軽井沢のオーバーツーリズムへの提言】

  昨年度の実績で軽井沢には870万人もの観光客が押し寄せている。道路の渋滞は凄まじく最早観光公害になり地元の人には迷惑、観光客には軽井沢の品位を貶めている。

 対策として、しなの鉄道を使ったパークアンドライドが提唱されているが効果は薄いようである。県境を挟んで峠を越えてパークアンドライドが出来れば効果は大であり、碓氷峠の鉄道再開は、観光客の分散にも役に立つはずである。

 旧軽地区の車の混雑も酷いので、軽井沢駅から旧軽地区まで路面電車があると良い。横川から峠を登って旧軽地区まで行ける路面電車があっても良い。路面電車は道路の立体交差を越えるために80パーミルくらいの登坂性能を有しているので碓氷峠も登れるはずである。蓄電池式の路面電車も製作可能と思われる。






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