9/29 sat
大阪城ホール

 98年の厚生年金大のライブは、私の中では今までのベストアクト。当然、今回のライブにも期待は高まる。が、しかし、少し不安もあった。実のところ、私は『キッドA』に馴染めないでいたから。当然、悪いCDでもないし、嫌いではないのだけど、なんというか、聴いていて気持ちよくない。暗く救いようがないという部分では『OKコンピューター』にも共通するけど、そこには感情と同化して共振し、浄化される痛みや苦しみが明確にあった。例えそれが、自分では認めたくない嫌味で惨めな部分でも。しかし、『キッドA』ではそれが形付けられていず、あやふやなまま放りだされている。それが私にはトムの中で未消化の様々な感情が、バンドとしてさらに昇華しきれず、放り出された音に聞こえてくるのだ。ましてや、エレクトリックにコネクトしきれない古い自分がいたりもするし。『アムニージアック』でようやく音の形状化に繋がるものの、この2つのアルバムが主流となるライブはどうなのか?正直、自分の期待が高いだけに、それがハズレる怖さがあった。

 が、そんな一個人の小さな不安など、開演前のオーディエンスの盛り上がりが一気に吹き飛ばす。アリーナではミニウェーブが起こり、外国人オーディエンス(私が今まで観たライブで一番多かった)の声援が飛び交う。前座のクリニックにはちょっと可哀想だったけど、私たちは明らかにレディオヘッドを渇望していた。

 そんな中、いよいよメンバー登場。アリーナ8列目のほぼ正面というナイスポジションのため、私の頭は興奮で真っ白。トムは白のシャツにネクタイ、ジーパンに白いスニーカーというなんとも言えないファッションなのだが、恐ろしくカッコイイ。やっぱり“ロックはルックス(佇まい)”だ。(でも、シャツの長袖の部分はまくり上げては、下りてくるをくり返し。ネクタイにいたっては、3曲目で外した。このスタイルに意味はあったのか?(笑))

 1曲目「National Anthem」の重いドラムが心臓を揺らし、トムの第一声が会場に響いたとき、このライブが素晴らしいものになることを確信した。恐ろしくクリアな演奏と音響。まっすぐオーディエンスを見つめ、そして確実に届くトムの声。その音は、正真正銘の人力ロックバンドが出す音だった。アレンジにもよると思うが、それ以上に彼等の手から出される音は、紛れもなく生身の人間の生々しく攻撃的なロックの音。CDで聴くものとはまったく別モノの生命体へと進化している。エレクトリックなんてクソ食らえだ。目の前のバンドの音には何も勝てない!(あ、でもエレクトリックも好きなのいっぱいあります。ごめんなさい。)すでに私の胸はいっぱいで溢れんばかり。

 

 そして「No Suprises」。個人的にすごく思い入れのあるこの曲を、目の前でトムが唄う。完璧に、そして限りなく優しく・・・。音楽によって、人は浄化され癒されると聞かされても、イマイチ信用できないでいたけど、この「No Suprises」はキラキラとしたメロディが私を被い包み、心の中の塊をジワジワととかしていった。涙が溢れて止まらない。実は、私は今回の3公演で必ず泣いている泣き虫なのだが、今の求める気持ちに一番リンクしたこの時の泣きが一番だった。恥ずかしいくらいの号泣。そして、「今なら、死んでもいい」と本気で思えるほど幸せな瞬間でもあった。

 前回の来日では、歌詞以外の言葉をトムやメンバーからほとんど聞けることはなかったけど、今回はリラックスしてるのかメンバーはよく話していた。エドは声がかかると必ず、その方向に向かって手を振ってくれたし。(もちろん私も声を掛け、笑顔で手を振りかえしてもらった(笑))トムも、オーディエンスからの「Just!」の声に「Justはやらないよ〜」と笑顔で答える。どういったやりとりがあったのかわからないが、笑顔で「Small this Men」と(多分)自分のことを言っていた。なんて、トムらしい言葉。ささいな事だけど、いたく感動する出来事だった。

 この日はスペシャルなことが他にもあった、凶暴なほどのシャープな音が交差し、トムダンスも炸裂した「Idioteque」の後、トムはキーボードに向かい息を切らしながらこう唄った「It's the end of the world as we know it (知っての通りこれが世界の終わり)」、そうR.E.Mの「世界の終わる日」! 2コーラスほどを軽く唄い、悪戯っ子のように笑うトム。これが、テロに対するトムのメッセージかどうかは判らない。でも、気分良いから思わず唄っちゃった的に笑うトムを見て、日本の平和をしみじみと感じる。そして「Everything In Its Right Place」。〜すべてがあるところにある〜と唄うトム。そう、きっと彼等も私達も今、“あるべきところ”にいる。この大きな曲に包んまれて、本編は終了した。

 ネットや雑誌のレビューを読むと、大阪の初日はオーディエンスの反応や演奏に少し固さがみられたそうだが、だからこそのピーンと張り詰めた空気に圧倒され胸しめつけられた。トゥ−マッチなほどのエモーションの洪水がどうしようもない高揚感に繋がる。大阪の初日はそんな印象を持った。

 この日、2回目のアンコールが終わりメンバーが引き上げて行く時、トムは何回も客席の方に振り返った。その時にトムの見せた、この世のものと思えないキレイな笑顔。この笑顔を間近で感じられた奇跡の夜。今回の公演の中で(ライブの出来とか、オーディエンスのノリなんか関係ない)、間違いなく私の中ではスペシャルだ。  text by 浦山



 アンコールのラストの曲を終えて割れんばかりの拍手の中を去る間際に見せたトム・ヨークの笑顔を忘れることはないと思う。その笑顔はライブを全力でやりきった満足感とそれに精一杯答えた観客に私達に向けられた無邪気な優しい表情だった。その笑顔を見たとき、ああ私達はトムに愛されているんだなあ、そして私達もトムを、レディオヘッドを、彼らの音楽を、ライブをとってもとっても愛している。なんて幸せなんだろうと泣きそうになった。横には話さなくても同じよう思っている友達もいる。(彼女はもうライブ中から泣いていた)トム、日本に大阪に来てくれてほんとうにありがとう。生きていてよかった! text by 矢野

セットリスト

1.National Anthem
2.Morning Bell
3.My Iron Lung
4.Karma Police
5.Knives Out
6.Optimistic
7.Exit Music
8.No Surprises
9.Dollars + Cents
10.Airbag
11.Street Spirit
12.I Might Be Wrong
13.Pyramid Song
14.Paranoid Android
15.Idioteque
16.Everything In Its Right Place
<アンコール1>
17.Like Spinning Plates
18.Talk Show Host
19.You And Whose Army
20.Lucky
<アンコール2>
21.Fake Plastic Trees
22.How To Disappear Completely


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