Primal Scream


 

 2000.2.19.sat.
東京ベイNKホール
text by 竹内知司:BLUNSTONE RECORDS主宰

 

従来のファンの期待を全く裏切る事なく、現在進行形のトレンドを取り入れたロックアルバム『Xtrmntr』を完成させたPrimal Screamがアルバム後のワールドツアーの出発地点に選んだのは、世界で最もPrimalに優しい国、日本であった。東京とはいっても、実は千葉県でとっても交通の便が悪いベイNKホールに行くのは億劫だが、5,000人以上が収容出来てスタンディングが可能な唯一な場所なので、武道館クラスまでに成長したPrimalには致し方ない事であろう。

1曲目はいきなり、"Swastika Eyes"。満員のお客はのっけから前へ前への大盛り上がりだ。事前にケヴィン・シールズも来る、との情報は聞いていたので、ギター三人には驚かなかったが、あれ、ケヴィンは何処なの?もしやあのデブ?変なギター音を出しているから、やっぱりケヴィンだった。ああ・・・。しかし、このトリプルギター編成、2曲目の"Shoot Speed/Kill Light"以外に何か意味があるのだろうか?ボビーがケヴィンを沢山の観客の前に連れ出して、やつのやる気を焚き付ける為なのか?と思ったら、どうやら曲ごとに誰か一人を休ませる為の様だった(笑)。

しかし、ボビーはかつてなくやる気満々だ。あのカマキリダンスはなく、嬉しそうに疲れたジャミロクワイの様な踊りをしている。唄もしっかりとしている。もう薬はすっぱり切れたのか?そしてマニ。みんな入れ代わりに休みに下がったりする中、一人でずーっとニコニコベースを弾いている。圧巻は"Blood Money"。けっしてテクニカルとは言えないが、その存在感で鳴らす様なぶっといベースラインは、彼が90年代を代表するベーシストの一人だと言う事を示していた。

 ライブはアルバム同様、完璧なエンターテイメント・ロックライブだった。当然、最新作からのナンバーが中心だが、今回のツアー内容には合っていない、"Rocks"とか"Movin`on Up"とかもしっかりと入れて(やっぱり、これが一番盛り上がった)、最後はMC5 "Kick Out The Jams"で締める、サービス満点のライブだった。特にHigher Than The Sun"のファンクバージョンが最高だった。長過ぎもせず、短すぎもせず、盛り上がりをしっかりと考えた選曲も計算しつくして出した最大公約数の様だった(例えば、"Blood Money"や"Shoot Speed/Kill Light"の様な曲を延々やらずに、スパッと終わらせる辺りが)。

 最後の感想としては、これもアルバムと同じなのだが、Primalは良心的なロックバンドとなり、ボビーはすっかりポップスターになったんだな、という事。今年のFUJI ROCKにも来るらしいが、これからも彼らはこの日の様なしっかりと楽しませてくれるライブを何処でも見せてくれるだろう。でも、何か凄い事があるかもれないから、何があっても観に行きたい!と思わせる様な存在では無くなってしまったんだな、と思いつつ、駅までのシャトルバスに乗込みました。


2000.2.15.THU
ZEPP Osaka
text by 浦山


「完璧なロックショウだった」なんて書くと誤解を受けそうだな。だけど、現実から切り取られた次の世界で鳴り響き、音の意志力でエンターテイトし昇華するライヴは、楽しくって、気持ちがよくって、完璧に酔えた。ロック然とした佇まいに、古き良き時代のロックマジックを見た気分でもあり、それが今の音の在り方を象ってるようにも思えた。
 「怒りや苛立ちを、攻撃的に疾走させる」音って、最近のデジタル系アーティストさんはお得意で良質のモノがたくさんでているんだけど、どこか本人と音とがリンクしてない、音遊び的なものが多いように思えて、今一つはまり込めない居心地の悪さを感じることも多い。それはそれで「かっこいい音が出てるなら良し」とは思うんだけど・・・「日常を反影し、自己満足・自己表現としてのロックであって欲しい」な〜んて思ってる石頭系音楽ファンとしては、「もっとさらけだすモンあんだろ」て、イチャモンつけたくなったりするんだな(笑)。まぁ、日頃「ROCKはルックス(佇まい)!」を唱える単純ミーハーだし(←関係ないか)。と脇道に逸れたけど・・・、このライヴには「怒りや苛立ちをリアリティーをもって疾走させる」音があり、体現しているアーティストがいた。なんだか久しぶりに、「かっこいい!」と素直に言えるモノに出会った気がする。

 1月に出た新譜『Xtrmntr』で、ハイテンションで完成度高い2000年型パンクを形成して見せたプライマルズ。ロックの原形を取り込み消化して自分達の形に再構成するのは、彼らの真骨頂であり、得意技ではあるんだけど。精密に計算され自己分析されたエモーションとしての怒りを音にしたこのアルバムは、この期の(彼らの)絶頂を示す傑作。前作『VANISHING POINT』で私は、イケそうでイケない中途半端さをなんとなく感じていたんだけど、今作でそのモヤも突き抜けた。「ライヴは絶対すごいものになる!」と確信し、その日が近づくにつれ期待が高まる。
 そして、期待は裏切られなかった。

 1曲目“swastika eyes”から、張りつめた緊張と攻撃的な音が響く。そして、そのスピードとハイテンションは最後まで失速せず、走り抜けていった。その音にこたえ、脳みそ飛び散るほど踊り跳び狂うオーディエンスたち。冷静な感覚もどこか行き、サングラスをかけた(踊れないボーカル)ボビーが拳をあげるだけで、音圧が増してくるような錯角さえおこってくる(笑)。
 ライヴ前まで『Xtrmntr』が主流となる、このライヴにはいらないんじゃないか?と思っていた、“MOVING'ON UP”や“ROCKS”も、攻撃性を保ちつつ(アーティストとオーディエンスが)一体となり、明るい光につつまれて暖かかった。今時のライヴでは敬遠されがちな手拍子やコール&レスポンスも、新古をこえて共振している。手を振るオーディエンス達の笑顔に、「そうかぁ、怒ってても、混沌としてても、楽しむってことを忘れてはいけないんだな」なんて改めて思う。
 アンコール時(だったと思うけど)、マニが「大阪ナンバーイチ(←微妙な日本語の使い方間違いがカワイイ!)」「大阪はマンチェスターみたいなノリだ」というような事を言ってたけど、私には(誰もが言う)お世辞とかじゃなく、本物の言葉に聞こえた。2回のアンコールを含む1時間40分。アーティストもオーディエンスも幸せな時間を過ごせたんじゃないかな、ホント。

 音は進化し、アーティストは変化する。それをまたもや、この日の彼らは体現してくれた。

 そして私は、電車の隣に座ったカップルが「どっかに連れて行かれたみたい。まだフワフワしてる〜。シアワセ〜♪」と高揚して話してるのを、「そうそう」と聞きながら、幸せな気分で激寒の中帰ったのでした。

 


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