NINE INCH NAILS

2000.1.15.WED
大阪城ホール


 

 「ROCKは、まだまだ救われる」思考回路をブッ飛ばされ、全身の力を感じない無重力の大阪城ホールのなかで、私のアタマの中に浮んできた言葉がこれだった。別にいままで「ロックは死んだ」なんて思ってなかったし、「ロックに救ってもらいたい」と思ってたわけでもない。けど、“hurt”が海風に消える砂の城のように美しく跡形もなくフェードアウトし、「終わったんだろうか?」「そうかぁ・・・終わってしまったんだ」と自問しているとき、ROCKの懐の深さ、可能性の大きさを啓示し、潔く消たショウを思い起こそうとする度に、この言葉が沸きあがってくるのである。

 白状すると、実は開始直前まで、勝手に「観念的で閉鎖的なライヴ」を想像していた。そして、それがトレントの存在場所の位置なら、オーディエンス置き去り気味のそれでも良いと思っていた。(←しかし思い出してみたら、事前にビデオで観ていたライヴはそんなモノでは無かったんだけど。)でも多分それは、私のこのライヴに対する期待が大き過ぎたからだと思う。万が一、「期待していたライヴ」が見れなかったときの言い訳を、最初に用意しておいたのだ。そして、そんな私のちっちゃな小細工などブッ飛ばす巨大なモンスター(←音)は、あの場所にいた全ての人を、身体の力が抜け思考が止まり幽玄離脱したかのような宙の世界、巨大な「無」のな中に連れていったのである。

 「無」の中で生きずく生命体。それを、ライヴの間ずっと感じていた。中盤の演出で、ステージ全体に霞をかけたようなスクリーンに、数々のモノクロ映像が映しだされる。その映像は、水泡や波を淡々と無機質に流してるだけなのだが、なぜか強く感じる生命力。それはスクリーンの後ろで演奏されている曲にも言える。“la mer”等の『THE FRAGILE』に収録されているインストたち。私はこのライヴを聴くまで、これら曲の真の魅力に気づいていなかったように思う。美しい曲の上っ面だけを見ていたようだ。そして血流のRGBカラー映像がスクリーンに映しだされたとき、言葉にできない感動が突き抜けた。カァーッと熱くなり身体中の血が堰を切って流れ出す感覚。そしてその時、私の中で失いかけていた「自分への自信」が、再び浮いてきたのだ。(←なんだかこう書くと、くっさいショウみたいで恐縮だですが。)

 すべてを失った暗闇でまず感じるのは、自分の生命力だ。そこで自問自答を繰り返して、確認する。「まだ、生きている」と。今回のライヴで私は、(意外にも)この「生命力」を強く感じたのだ。あの大きな大阪城ホールで、邪魔な椅子席で、席はアリーナ後ろでトレントなんか小指くらいにしか見えないのに・・・私はただ、ただ、感動して泣いていた。“the day the world went away”この曲を目の前で聴けたしあわせ。絶対忘れないと思う。

 しかし、やはり座席指定は不粋でしょう。檻に入れられたサルみたいで不快。アーティストにもオーディエンスにも失礼です。
text by 浦山


 今回のライヴを見て初めて気づいたのだが、NINでの所謂ボーカルは、ほとんど加工されてない“トレント・レズナーの声”として鳴っている。「そんな音は一体どうやって鳴らしてるんですか」とか言いたくなるようなサウンドが構築されてる印象に反してだ。

 ギター、ベース、ドラム、キーボードの5人編成で演奏されたものはバンド・ダイナミズムが溢れるものであった。しかもフロント3人の立ち姿が往年のへヴィーメタル・ショウちゅう雰囲気さえもあって、レコードから想起するNIN像とは全くかけ離れていた。

 トレント・レズナーはステージを忙しなく動き回り、センターではモニターに足をかけちゃったりもして、そして何度もステージを降り前列のファンと触れあっていた。他のアーティストでも見掛ける光景だが、トレントのそれを見ると他の者がお約束な演出だと思える。それくらいに何度も繰り返しちゃうのよトレントは。嬉しいのね、ファンが喜んでいるのが。

 いかに苦心して「今までに鳴らされていない音」を創造するにしても、きっと彼はメロディーを歌う自身の声を加工する事は出来ないのだろう。声が、最もストレートに彼の全てを表しているのだから。Text by 佐藤賢隆


 しかしいいライブだったなあ。終わってから一度座って立ち上がろうとしたら少しヨロメイた。今まで少なくても50本以上のライブを見てきた。その中でも、ベスト2には入るだろう。ホントに「今世紀最後のカリスマ」かもしれない。ライブの前日までCMやっていたのはこの凄いライブをみんなに見てもらうためなんだろうかと勘ぐったほど。

 『THE FRAGILE』が好きなのでライブに行くことに決めたけど、2枚目までの犬が腐っていくビデオ・クリップや、ライブ中斧でバンドのメンバーの楽器壊したりするという話を聞いていて、逆に普通に演奏して終わるのではと予想していたくらい。が、始まってしばらくすると、どんどんライブに引きずり込まれていくのがわかった。気がついたら叫んでいたし、突然自分の中でいろんな感情が吹き出してきた。本当は凄く疲れているし、いろんなことがたまりに溜まっている。でもそんな自分を騙し騙し毎日を送っていたりすることを、強力に思い出した。
 トレントが唄い、叫び、質のいいハードなバンドの音がそれを支える。そこまでは普通のライブだけど、曲の構成やライティング、そしてスクリーンの美しい映像が終わってトレントが出てくる演出、ことごとく予想を裏切られる展開にすっかり夢中になっていた。曲の始まりによく使われるギシギシ唸る機械音にも快感になっていた。

 彼の音楽は重く暗くハードな音楽だ。その音は何かに怒り全てを拒絶しいるかのようでもある。少し前までは衝動のままに感情を吐き出すようなビデオを作りライブをやっていたけれど、今はただ吐き出すだけでなく建設的なものにしようとしている。ライブが終わって思い浮んだ言葉は「まだまだ行けるな」だった。それはNINに対してでもあり自分に対してもだったりする。なぜそう思ったのかはわからないけど消耗しながらも(見る人に体力・気力要求するライブ!!)元気になっしまった。それにしても“   ”をステージの真ん中で独りピアノで弾くトレントはとても孤独で泣けた。ホントは誰より人と判り合いたいのかもしれない。だからこそ音楽をやり続けていくんだろう。ライブ中で一番私が良かった瞬間だった。text by 矢野

 


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