酸素足りなさ過ぎ!
新譜とともに、見聞きする情報ではやたらと評判のいい今回のケミカル。私が体験した今までのショウはすべてハズレなかったけど、今回はさらに凄いの?じゃぁ、気合い入れて踊らなきゃ!とT-シャツに首タオルでフロアにでるが、ガーン…踊るスペースがない!
前日のライブが即日完売だったのは知っていたけど、今日も通勤ラッシュ状態の満員御礼。踊る場所を探してさまよい、なんとか後方に小さいスペースを見つけたと同時に客電が落ちる。良かった、なんとか間に合ったみたい。
オイ・オイコールの中、手を上げながらトムとエドが登場。彼等のショウはロックライブのようだと形容されるけど、それは外に向けてエネルギーを発散する(したくなる)音の構成をキッチリと見せてくれるからだと思う。この開演の盛り上がりにも観客の「今回も一緒に昇華させてくれよ!」という興奮が込められているように感じた。
上部に設置してあった丸い円盤のようなものがゆっくりと降りはじめると、数千の目がくぎ付けになり、さぁ何がはじまるの?と輝きはじめる。この円盤は回転して丸いスクリーンとなる仕掛けで、私自身はこの演出を知っていたのだけど、想像以上の迫力と美しさに口を開けて見入ってしまう。こういう演出は、日常とこれからはじまるショウとを切り離すキッカケを与えてくれ、これから異次元のショウへと旅立つワクワク感を高めてくれる。スぺーシーな音との相乗効果で、下で機材をいじってるトムとエドは円盤を操縦している宇宙飛行士ようにも見え、回転したスクリーンに銀河を走っているような流星の映像が移し出された中"Come With Us"が流れるオープニングは、さながら「ケミカル的2002年宇宙の旅へようこそ!」ってな感じだろうか。
そして私たちを乗せたケミカル号は、期待通り上昇気流に乗り、新しく美しい桃源郷を見せてくれた。"Music : Responce"から"block rockin' beats"のリリカルな流れはパァーっと目の前を開かせ、今まで何度も何度も聴いてきたおなじみのビートを新鮮なキラメキで聴かせる。スクリーンに映し出される映像と音楽がシンクロして生まれるグルーヴは、ビートのダイナミズムを充分に堪能させ、意識は完璧なナチュラルトリップへ。かなり精密で計算された構成なんだろうけど、それに反応する身体は「楽しいから踊っちゃえー」という単純すぎる欲望だけで頭を振りながら踊り狂う。
そしてスクリーンが暖色で光輝き、"Star Guitar"が舞い降りてくると盛り上がりは最高点に到着した。このとき、全員が手を上に広げたんじゃないのかなぁ。落ちてくる音の粒を拾い集めるように無数の手が伸び、その腕の中に歓喜の鐘が鳴るように響きわたる雄大で優しい音。単純だけど、唯々「キレイ…」と思った。圧倒される美しさに魅せられて、それを素直に受け入れる気持ちよさのなんとも言えない歓びってない?ただ受け入れるしかない大自然のパワーにふれたときの感動。ちょっとそんな官能を味わった気がする。
それにしても暑い。汗が身体にへばりつき、酸素はどんどん薄くなる。窮屈なスペースで息苦しく踊ってると、まるで水面に顔をだす魚のような気分。耐えられずに1回外にでようと足を踏みだしたとき、"Hey Boy Hey Girl"が鳴り響く。熱狂の歓声と野太いビートが外に向かった意識を再びフロアに戻す。気流に乗ると、その流れから降りるのはなかなか困難らしい。こうなったら最後まで「Here we go!」だ!観客もそう思ったか(?)、頭から湯気を出しながらさらに踊り狂っている。私たちは赤い靴をはかされているのかもしれないな、このまま鳴りつづければ朝まで踊り明かしそうだもの。
そして、いくつもの動く目が映し出されるスクリーンと"The Private PsychedelicReel"が共鳴する厳かなラストが訪れ、客電の明るさとともに現実に戻された。
猛烈なビートに一気に乗せられスペースワールドを突き抜けたショウは、壮大なオープニングと厳かなエンディングを起承転結でつなげ、1本の映画の中で宇宙旅行をを疑似体験したかのような達成感があった。たかが音楽、されど音楽。音楽に乗ればどこへだって行ける、たとえ異次元へだって…。大袈裟だけど、すごくポジティブなメッセージを感じたショウだった。
text by 浦山
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