MUTATIONS 

BECK

 

フジ・ロックにおけるベックのステージをどれくらいの人が今でも覚えているだろうか? まあ、あの場にいた人なら多くが確実に覚えているはずだ。フジロックに来ているというだけでもう興奮しきってしまい、半分くらい意識がどこかへ行ってしまっていた僕でも多少のことは覚えている。いきなり"ルーザー"のリフが鳴り出し思わず走り出したこと、"ホエア・イッツ・アット"で馬鹿みたいに飛び跳ねたこと、そして何よりベックという才能の無限大の可能性を体全体で感じたことを。そんな夏の思い出もあっという間におわり、多くの人が『オディレイ』に続く次なる音を心待ちにしていたであろうそんなさ中に届けられたのがこのアルバムである。ほとんどの曲がギターやピアノ主体のものばかり。『オディレイ』を思わせるわずかな電子音が入りつつも、耳に届くのはあくまでもベックの歌声である。すごく人間味のあるアルバムだ。本人も語っているようにこれは『オディレイ』に続くような位置づけでは決してないかもしれない。むしろたまっていた曲をどうにかしようと、スタジオに入ってバンドとともにわいわいやったのだろう。 全然いいと思う。僕としては天才ベックの歌い手ベックとしての一面が覗けたし、なんかベックも楽しそうだし、それだけでOKだ。
                              Text by 近藤
いやな予感が当たってしまった。というのが正直な感想。フジフェスのBECKは確かに良かったけれど途中で演奏していた2,3曲がちょと違う気がしたから。これが新曲かい、ダルくないかと。あまりにもマイワールド。趣味性が強すぎて高揚感に欠ける。アカン。今回のアルバムに全編に漂う遊園地のメーリーゴーランドに乗ってぐるぐる回っているような感覚は2nd『オディレイ』にもあったけれど2ndでは途中で飛びおりて突如、現実に、リスナーに向かって爆走してくる。それが3rd『ミューティションズ』では無い。乗りっぱなしなのだ。(辛うじてこちらを見て手を振ってるぐらいだ。)決して曲は悪くないしBECK流のボサノバやフレンチ・ポップス?も聞けて独特でこの人やっぱり変わってるな、おもしろいなと思わす所も随所に出てくる。文句つけながら結局聞いてしまう気もするが、このまま宇宙の果てまで飛んで行く危険性ありありで心配だ。1st『メローゴールド』が大好きな私は軟弱男が全身全霊で絞り出す゛ファッキュー゛をベックに望む。(その方がかっこいいんで。) Text by 矢野
アフターオディレイを期待してた人には、ちょっと違うと感じるアルバムなのではないだろうか?事実私も、フジロックでなんとなく察してはいたものの、初めてこれを聞いた時はちょっと拍子抜けした。今更フォークやられてもなぁ…って。“機械ちゃかちゃか、ノイズだらだら演るのがBECK”なんてことは思ってないけど、「これは時代にリンクしてるのか?」「ボサノバなんて出てこられてもさっぱりピンと来んぞっ」「そんなんBECKじゃなくても、誰でも出せる音やん」なんて、意地悪な見方をしたりもした。『ミューテイションズ=突然変異』ってうアルバムタイトルも“如何にも”な感じだし。しかし、「今回は有機的なモノを作りたかった」とインタビューで言ってように、BECKの生声を主とした構成は、聞いてて安心できるし、暖かい気分になれたりもする。(BECKでそんな気分になれることに、違和感を覚えるのはこっち側の勝手な要望か?)以外と上手い唄もじっくりと届いて来て、溢れんばかりの才能を感じずにはいられない。見た目の割に、肉々しい声も良いし、歌詞センスもOKだ。そう!全てOKな筈なのだ。しかし、しかし…なのだ。そこらのヘンなニイちゃん=BECK。そのニイちゃんがチープに吐き出す物体=音。そんな音を何時の間にか期待しすぎていたのだろうか?私が、彼のミューテイションズに付いて行けてないのか?良いんだけどね、けっこう聴いてるンだけどね、でもね、でもね、それだけ。それ以上でも、以下でもないんだな。このアルバムは「過去2作とは全然違うモノ」と本人も言ってるので、次作もこのアルバムと“全然違うモノ”を出してくれることを期待します。(私的には“前に作った曲を新たに録り直した”って行為がなんとなく許せないんだけどね。バカにされてるみていでさ。)     Text by 浦山


 

homemenu