愛二郎作品

過去の愛二郎作品

2011・10・5 心に積もっていく すれ違う感覚 瓦礫のように 意味の無い 不定形の 塊のままに 心に積もっていく 2011・10・2 平凡な日曜 時計が回るだけの日曜 じっとしている日曜 方眼紙の日曜が終わる 2011・9・28 夕暮れの交差点で 静かな風に出会う 風船のように 風に誘われて ふわっと浮いた 夕陽の街は 人も自動車も 音を失って 幻か現実かの 区別もつかない 2011・9・22 こころの中に 青い硝子の器 愛しさと哀しみを 容れている器 壊れないように こころの中に そっと並べている 青い硝子の器 今日も輝いている 青い硝子の器 2011・9・19 片目が見えない犬 餌を食べ 尻尾を振り 両目が見えていたときと 何も変わらない 何もかも 受け入れて 生きていく 動物たちは 人間より 賢いのかもしれない 2011・9・4 雨台風は 日本列島の胴体を ゆっくり北に 這い上っていった 大地に海に 有り余る 水のプレゼントをして 2011・8・24 褪せていく 綻んでいる それでも 役立つことがあるだろう 一日が終り また明日がやってくる 2011・8・11 流れているのは 僕だろうか 雲だろうか ほてる体に 擦りぬける風 流れているのは 僕だろうか 快感だろうか 僕は微笑んでいる 初めて風に 触れた日のように 2011・7・21 僕が眠り 僕が夢を見て 夢が僕を連れて行く 僕が知らない僕 その僕が僕の手を引く どこに連れて行くのか ドキドキしていると 目が覚めて 夢の僕は僕の手を離す 2011・7・10 同じ日が続き 同じ僕がくるくると回り 僕から僕が出られない


2011・5・18
「ある時間」
心の中の
波の無い海
水平線まで
波の無い海
一枚の写真のような
真夜中の
公園の遊具に
朝は来るのだろうか

2011・4・4
「呟き」
樹は呟く
「人間はなんて忙しんだ」
人間は呟く
「樹はいつも同じで退屈しないのだろうか」

2011・3・16
「支える」
近づかなければ
支えることは出来ない

2011・3・4
「心も」
弾むボール
流れる水
樹の根
逆らわず
そのまま
時間を描く
そのように
心も
そのように
2011・3・1
「とりあえず」
「とりあえず」を
あちこちに転がして
歩いてきた
「とりあえず」を
いつのまにか忘れて
歩いてきた
何が何か解らず
歩いてきた

2011・2・23
「幸せ」
明日待つように
窓辺に
ゆるやかに
座っている
すべてがあるがまま
カーテンだけが揺れている

2011・2・18
「歪み」
歪んでいる水面に
すべては映っている
歪んだことに慣れて
歪みにも気づかず
泣いている
笑っている

2011・2・8
「いろいろの僕」
昨日は海を見ていた
今日は電車に乗っている
いつだったか買った本を
読んでいる
駅に着いたら
君の待つロータリーの先の
小さな喫茶店に歩いていくだろう
そのときそのときの
いろいろの僕を集めて
僕という果実がふくらんでいく

2011・2・1
「声の無い言葉」
窓を開けると
ひやりと二月の風
神の眼差しは
枯れた草に
冬樹の枝先に
広く注がれている
それは春の始まり
希望と愛を溶け込ませた
ガラスの輝き
生まれるものを
静かに告げる
声の無い言葉

2011・1・25
「アメーバー運動」
水の中で
アメーバー運動をしている
アメーバーたち
地球上で
アメーバー運動をしている
人間たち
そして消えていく
アメーバーたち
人間たち

2011・1・21
「ギシギシ」
ギシギシと進む
それでいいじゃないか
快走しなくても
ギシギシと進めば
それでいいじゃないか

2011・1・19
「化学反応」
ビーカーに入れた
二種類の溶液を混ぜると
化学反応を起こし
熱を発して
透明な溶液は
ピンク色になる

2010・12・17
「歩幅」
いつのまにか
歩幅を忘れて
僕たちは暮らしている
そして
疲れている

2010・11・24
「遠い日のことを」」
遠い日のことを
語らずに
秋の花をつけている
遠い日のことを
語らずに
秋の風に揺れている
遠い日のことを
語らずに
はらはらと落ちて
遠い日のことを
語らずに
朽ちていくだろう
まるで
何も存在しなかったように
まるで
何の営みもなかったように

2010・11・16
「約束」
美しい約束なのに
いつも夕暮れの空
誰かの手を離れた
風船が樹の枝にかかり
窮屈そうに揺れている

2010・11・9
「母の夢」
夢の中に生きている時と同じ母がいた
自分より子供たちを想う母がいた
そんな母に
夢の中の僕も優しく語っていた
そして静かに目が覚めた

2010・11・8
「見えないものたち」
見えない指
見えない息
見えない頬
見えない耳
僕の心に
柔らかく重なっていく
見えないものたち

2010・10・21
「青い生き物」
机の上に
並んで立っている
ガラスの象と
ガラスのキリン
動かないけれど
その人と僕を結ぶ
青い生き物

2010・9・10
「ある一日」
ワープロで
文字を書くように
一日が過ぎていく
書かれた内容に
心を動かされることなく
それでも
文章が紙を埋めて
一日が過ぎていく

2010・9・13
「真昼の街」
路地から光へ
光から路地へ
猫のように
真昼の街は
誰も無関心で
自由に汗が流れる
点滅信号で走り
地下駅に降りる
改札口の駅員も
作り物のように
立って動かない
地下に吹く風になり
僕は
走り来る電車に
吸い込まれる

2010・9・12
「共振」
共振すれば良いのに
共振しない心
ゆっくりと
動いているだけの
ジグザク模様

2010・9・11
「樹のように」
樹のように
いつも
樹のように
そう心がけても
人間は人間
心が揺れて
台風の跡のよう

2010・9・10
「蟻人間」
高槻の真昼の
繁華街を
蟻人間になって
くるくるくると

2010・9・9
「土竜男」
土竜男の
時計の針に
乗ってきた

2010・9・8
「はめ絵」
一日を
はめ絵のように
埋めていく

2010・9・7
「蟻が進む」
蟻が進む
枯葉のトンネル
石ころの隙間
草の緑から緑へ
ざらざらの樹の幹を
人間の靴先を
蟻が進む
踏まれることもなく
啄ばまれることもなく
蟻が進む
一人の人間のように
蟻が進む

2010・9・6
「流れる」
流れる
押されて流れるのでなく
流れそのものになり
流れる
時間が流れるように
流れるとも知らず
流れている

2010・9・5
「水だった」
大阪の街を
電車から電車に
乗り換えて
九月なのに
焼ける陽射しを受けて
歩いた歩いた歩いた
帰宅してから思った
大阪の街で
僕は水だった
真っ直ぐに
流れる水だった

2010・9・4
「バトンタッチ」
人間から人間へ
バトンタッチで孤独
人間から人間へ
バトンタッチで孤独
孤独が流れていく

2010・9・3
「光と陰」
光と陰
光と陰
生きている限り
光と陰
光と陰

2010・9・2
「一頁の出逢い」
本の一頁の中で
恋人と過ごす
風にページは繰られて
僕たちの出逢いは
未知のまま
本に埋もれていく

2010・9・1
「老いる」
消えていくものがあり
見えてくるものがある
老いるとは
悪いことばかりではない
風が見え人の心が見え
透明な哀しみと
手を繋ぎ合うこともできる

2010・8・31
「要約すれば」
要約すれば
深夜の真っ直ぐな道を
生まれてから今日まで
独りで歩いている

2010・8・30
「果てしない空白」
美術館を巡り
絵葉書を買い
ランチを食べ
真昼の残暑に
僕たちは
べつべつに戻る
僕たちの時間は
打ち水をしても
すぐカラカラになる
舗装路に消されてしまい
街を占拠している
猛暑の果てしない空白

2010・8・29
「石筍」
愛の言葉を信じない
僕の愛は
君の愛は
過ぎた時間の中に
石筍になっていく

2010・8・28
「幸せな洗濯物」
残暑の続き
ギラギラの青空
幸せそうなのは
カラカラに乾いて
揺れている
洗濯物だけ

2010・8・27
「夕焼け空」
誰とも会わずに
過ぎた今日
日曜日の校庭で
独りで遊んだ
子供のように
夕焼け空を見ている

2010・8・26
「結ばれるひととき」
冷酒ゆるりと
遠くを語り
近くを語り
僕たちの
満ち足りた
時間が過ぎる
少し溶け合う
酔いに揺らぐ
そんなひとときに
僕たちは結ばれている

2010・8・25
「野良犬」
野良犬は
どこまでも
いつまでも
自由で孤独
今日は
西に向かって
ひょろひょろと
歩いている

2010・8・24
「繭の向こうの恋人」
繭の向こうに
恋人がいる
笑っているの
泣いているの
繭の中で
もくもくと
僕の恋が煙っている

2010・8・23
「コップの水」
海風に向かって歩き
海風に押されて帰る
単純な散歩道のような
今日の一日
若い日なら
耐えられない一日を
コップの水を飲むように
暮らしている

2010・8・22
「夕焼け色」
側にいても
離れていても
気遣う気持ちは
変わらない
夕焼け色が広がる

2010・8・21
「永遠」
離れていても
側に感じるなら
恋人よ
僕たちは
永遠だろう

2010・8・20
「秋」
厳しい暑さだから
ことんと
淋しさの深い
秋になるのだろう

2010・8・19
「愛」
愛なんて言葉は信じない
指と指輪
池と魚
風と鳥
愛は対の中に
滲み込んでいる

2010・8・18
「万華鏡」
万華鏡が回る回る
記憶する間もなく
万華鏡が回る回る
僕達の心のように
万華鏡が回る回る

2010・8・17
「波になる」
波に向かうと
波は打ちつける
波に乗って
波に任せて
波そのものになって

2010・8・16
「秋の蚊」
秋の蚊は
特攻隊のように
やってくる

2010・8・15
「羽の折れた鳥」
羽の折れた鳥は
細い脚で
走り続ける
風を忘れ
雲を忘れて
慣れない大地を
走り続ける

2010・8・14
「乾いた命」
夏の強い西日の道を
自転車で走る
乾き切った風景の中を
僕が進んでいく
僕の心も
この風景のようだ
乾いたものの中を
乾いた僕が動き
乾いた命を感じている

2010・8・13
「遠い恋」
読み終えた本のように
遠い恋も
心の本箱に
静かに眠っている

2010・8・12
「老いたある日」
誰だか憶えてなくて
ごめんなさい
私を訪ねて来てくれたのに
どうぞどうぞ
お入り下さい
とても懐かしいのに
誰だか憶えてなくて
ごめんなさい

2010・8・11
「ふるさとの樹」
ふるさとの樹は
風に揺れ
雨に濡れ
光り輝く
夢の中でも
眼を閉じても
ふるさとの樹は
風に揺れ
雨に濡れ
光輝く
僕たちの
ふるさとを離れた旅は
いつまで続くのだろう
ふるさとの樹は
風に揺れ
雨に濡れ
光り輝く
ふるさとの樹の時間は
止まったまま
僕と旅をしている

2010・8・10
「ひとりぼっち」
太陽はひとりぼっち
月もひとりぼっち
草も樹も
犬も猫も
ひとりぼっち
君も僕も
ひとりぼっち
みんなみんな
ひとりぼっちと知らない
ひとりぼっち

2010・8・9
「散っていく」
ゆめゆめゆめ
生きていることは
みんなゆめ
みんな笑って
散っていく
新しい風が吹いて
みんな笑って
散っていく

2010・8・8
「受話器の重さ」
「癌だった」と友からの電話
何も言えなかった
 
あの時の
受話器の重さだけ
まだはっきりと
手に残っている

2010・8・7
「人間たちは」
魚たちは
海の青を
踊るように
曲線直線を描く
人間たちは
どうだろう
動物たちは
風の草原を
美しい瞳で
渡っていく
人間たちは
どうだろう
鳥たちは
空の高みで
弧を描き
樹から樹へ
一直線
人間たちは
どうだろう
人間たちは
どうだろう

2010・8・6
「さようなら」
駅のプラットホームで
空に浮かぶ雲に言う
「さようなら」
人々の行き交う地下街で
擦れ違う笑い声に言う
「さようなら」
輝く紅葉の並木道で
吹き過ぎる風に言う
「さようなら」
「さようなら」のひと言を
告げたかった貴方は
もうこの世にはいないから
独り言のように
秋の中で呟いている
「さようなら」

2010・8・5
「この世」
風と煙のように
この世は
動いていく

2010・8・4
「蔓草」
瞬間を信じて
蔓草は
どこまでも
伸びていく

2010・8・3
「矛盾」
確かなものを
欲しいと思う
確かなものの
無い世界に
生きているのに

2010・8・2
「未練」
流れている時間の中に
流れないものがある

2010・8・1
「未完の数式」
数式は続く
どこまでも
どこまでも
刻々と
新しい条件が加わり
数式は続く
どこまでも
どこまでも
終わりのない
僕たちの命
未完の数式

2010・7・31
「植物になっていく」
ふっと自由になり
ふっと力が抜けて
動物から
植物になっていく

2010・7・30
「恐れるもの」
何かを恐れている
何を恐れているのだ
恐れるものを浮かべて
恐れるものを見ている
方向が逆なのだ
恐れるものがあり
恐れるのならいい
何もないのに
恐れるものを浮かべて
恐れるものを見ている

2010・7・29
「欲しい階段」
僕の欲しいのは
階段
目の前に
きっちりとある
苔の生えた石段
魅力的なものに
僕を導く
雰囲気に包まれた
階段
確かに
僕を高めてくれる
階段

2010・7・28
「心」
人のために
自分のしていることは
自分の望んでいること
心は動きという具体で
語り続けている

2010・7・27
「浮遊」
真夜中につつまれて
アメーバーになっていく
深夜スーパーは
熱帯魚の水槽
ふわふわとふわふわと
僕は浮いている
ビニール袋の夜食を
持って浮いている命
真夜中につつまれて
アメーバーになっていく

2010・7・26
「会話」
話しながら
減っていく
お好み焼きと
生ビール
店を出ると
猛暑の街

2010・7・25
「水母」
時間は水のように
流れていくのでなく
絵具を塗り重ねた
グラデーションのように
過ぎるものなんですね
そのグラデーションに
浮かんでいると
水母になれるだろうか

2010・7・24
「井の中の蛙」
井の中の蛙
何も知らない
気楽な蛙
静かに話すのが良い
静かに読むのが良い
池に憧れ
湖に憧れ
海に憧れ
ただそれだけで良い
井の中に戻ろう
小さな幸せを
じっくりと味わえば良い
井の中の蛙
何も知らない
気楽な蛙

2010・7・23
「させられては」
見させられては
聞かせられては
動かされては
考えさせられては
感じさせられては
いけないいけない
デリート・デリート
いつも白紙の自分でいたい

2010・7・22
「甘い甘い人間」
声や言葉や指先の
淡白色に包まれて
うごめいている
まどろんでいる
甘い甘い人間

2010・7・21
「初期運命」
無色透明に
この世に生まれ
刷り込まれ
彫られ削られ
人間は
肉食獣になり
草食獣になり
野を彷徨うことになる

2010・7・20
「透明なダンス」
舗道
階段
交差点
自動ドア
どこでも
いつでも
無音の曲に乗って
君と僕の
透明なダンス

2010・7・19
「銀の器」
銀の器は
あなたの白い微笑みで
零れそうになるほど
満たされている

2010・7・18
「葉っぱの上に」
豊かな時間になるように
ただそれだけを思い
一枚の葉っぱの上に
乗っかっている

2010・7・17
「見えない形」
持ち寄った数字を
並べていく
パズルを解くように
並べていく

2010・7・16
「蟻の一日」
蟻の一日が終わり
あるものが消えて
別のものが現れた

2010・7・15
「直線」
ボールペンは
笑顔に向かって
直線を引いている

2010・7・14
「トンビ」
東の風に
羽を拡げているトンビ
今日はハッピーバースデイ

2010・7・13
「文字を生む一日」
風吹けば揺れる
あたりまえの
一日が過ぎていく
昨日と一年前と
何も変わらない
一日が過ぎていく
文字を生み出す
白紙のような
一日が過ぎていく

2010・7・12
「無色の人」
前も隣も後ろも僕も
知らない同士の
無色の人たち
ブロイラーの鳥のように
昼ランチを食べている

2010・7・11
「途切れ途切れの夢」
映画のシーンのように
憶えている
途切れ途切れの夢
繋ごうとすると
哀しみの雫が落ちてくる
途切れ途切れの夢
僕の心から消えない
永遠に繋ぐことのできない
途切れ途切れの夢

2010・7・10
「兄弟姉妹」
種子が撒布される
どこで芽を出し
どこで育つか解らない
兄弟姉妹は離れ離れに
違う土地で
それぞれの命の系譜を
作っていく

2010・7・9
「大切なもの」
失わないと
大切なものが判らない
賢明な人間なのに
どうしてなんだろう

2010・7・8
「欠伸」
空を塗る潰す
灰色の雲
動かない
重い緑の樹木
部屋の隅の
音を立てない扇風機に
踊っている
レースカーテン
予定のない僕は
欠伸ばかりしている

2010・7・7
「好きという言葉」
好きだとは
言わない
まるで
貯金箱に入れるように
好きという言葉を
胸の中に貯めている

2010・7・6
「夢の中」
夢の中でなら
逢っても良いですね
夢の中で逢うように
今日もあなたと
逢っている

2010・7・5
「靴」
目覚めたまま駅に向かい
いくつかのほっとに触れて
帰宅する靴
玄関に脱ぎすてられた
そのままの形で
転がっている靴
2010・7・4
「丸い一日」
つるつるの
丸い一日
過ぎていく

2010・7・3
「雨の日の樹」
雨の日の樹は
葉先に雫を光らせ
微動もしないで
立っている
雨の日の樹は
何を考えて
立っているのだろう

2010・7・2
「あなたを見ている」
梅雨空を見ている
あなたを見ている
写真の世界に
僕だけが入り込んだように
僕の心を乱すものはなく
梅雨空を見ている
あなたを見ている

2010・7・1
「梅雨の樹」
梅雨空の下で
樹もだるそう
ごろんと横に
なりたいようだ
硬い幹と枝に
仕方無しに
立ち続けている
2010・6・30
「アメーバー」
突起を出して
移動していく
アメーバー
何に向かっているのだろう

2010・6・29
「家庭菜園」
家庭菜園の
トマト
きゅうり
ナス
忘れていたことを
思い出させるように
庭の片隅で色づいている

2010・6.28
「人間」
蒸し暑い
梅雨の午後に
すべてのものは
蒸し暑いままに
過ごしている
僕は除湿をかけて
畳の上に
転がっている

2010・6・27
「人間という命」
薄いもので
包まれた命
いつか
割れて乾いて
消えていく命
しゃぼん玉でなく
人間という命

2010・6・26
「老夫婦」
庭の草木の話
病気の話
昔の話
子や孫の話
子育てを終えて
仕事を辞めて
老夫婦の話は
単調な一日の
繰り返し

2010・6・25
「双六ゲーム」
バスに乗ってから
忘れ物に気づく
バスを降りて
またバスに乗り
バスを降りて
またバスに乗り
振り出しに戻る
双六ゲームをしている

2010・6・24
「流動」
無数の万華鏡
迷路に満たされた
変幻の水溶液の流動
無限の関係の中から
迷路から抜けて
零れ落ちるもの
新しい関係体として
絡まり弾け出て
排出され吸収され
どこまでも
どこまでも
流動から流動へ

2010・6・23
「愛しきもの」
慣れてしまい
自分の世界になり
見えなくなる
そしてある日
その愛しさに
気づかされる

2010・6・22
「泥」
泥池の底で
泥池の魚が動くと
舞い上がる泥
泥池の魚は
泥池しか知らず
這い泳いでいる

2010・6・21
「究極」
食べて
眠る
食べて
眠る
それだけで
良いのかもしれない

2010・6・20
「瘡蓋U」
瘡蓋はいずれ取れるだろう
顔を洗い
牛乳を飲み
散歩を続けるだけ
瘡蓋はいずれ取れるだろう

2010・6・19
「瘡蓋T」
瘡蓋がめくれる
痛みもなく
瘡蓋がめくれる
からからに乾いて
瘡蓋がめくれる

2010・6・18
「心の風」
ぼんやりと窓の外を見る
何も浮かばない心に
中性の心に
ふっと風が吹く
窓の樹は揺れていない
僕の心に
ふっと風が吹く
ふっと懐かしくなる

2010・6・17
「川と海」
川は流れる
清水の川も
泥水の川も
汚水の川も
流れながら
沈殿させて
流れる
流れる
流れる
清水のまま
泥水のまま
汚れたまま
海に注いでいく
海はどんな川も
受け入れて
平然と波を打ち寄せている

2010・6・16
「砂の夢」
海底の砂に
潜っている
波を思い
空を思い
海底の砂に
潜っている
何も変わらない
何も変えたくない
ただ夢を見ていたい

2010・6・15
「蹲る」
右手を引く力
左手を引く力
真っ直ぐ落ちる
梅雨の雨粒を
ぼんやりと見ている
右手を引く力
左手を引く力
虫かごの虫のように
暗い隅に
蹲っている

2010・6・14
「小さな祭り」
小さな祭り
午後の街の
端っこの
日常みたいな
小さな祭り

2010・6・13
「深呼吸」
深呼吸をして
深呼吸をして
深呼吸をして
話す
歪まないよう
深呼吸をして
深呼吸をして
深呼吸をして
話す

2010・6・12
「ふたつの世界」
石の下で
虫たちが騒いでいる
僕は窓から
昼寝をしている
木々の緑を見ている

2010・6・11
「愛しさ」
ひとりぼっちの胸に
マッチのように
愛しさが燃える

2010・6・10
「燃える」
静かに燃えるものを
食べる人間
その人間は
どのように
燃えているのだろう

2010・6・9
「証」
蛇は進む
何も変えないで
草原を
樹の枝を
石の上を
しかし
砂には
蛇の砂紋
水には
蛇の波紋
証だけは
どこかに現れ
消すことが出来ない

2010・6・8
「樹になっていく」
樹になっていく
蠢いたものたち
鋭い視線たち
その記憶に
憧れを残しながら
運命のままに
樹になっていく

2010・6・7
「帽子」
壁に掛けられた帽子
私の一日を知っている帽子
疲れたのか
動かない帽子
汗のあとのある帽子

2010・6・6
「生きる」
果樹のように
実をつけて
実を奪われて
生き続けている

2010・6・5
「ひねくれ」
取りついたひねくれに
夜の街を歩かされている

2010・6・4
「数珠の命」
哀しみを融かしたい
いくつもの口
いくつもの孤独
マッチの火の
ひと時を繋ぎ合わせた
数珠の命
ここあそこで
昨日も今日も明日も
いくつもの口
いくつもの孤独

2010・6・3
「落書きと白壁」
落書きをされた
白い壁
そのまま
雨に打たれ
風を受けて
崩れていく
落書きも
色褪せ
読めなくなって
崩れていく
ひとつとなって
崩れていく

2010・6・2
「純粋の運命」
流れの中で
石が砕けていく
樹が朽ちていく
誰も触れはしない
純粋の運命として
石が砕けていく
樹が朽ちていく

2010・6・1
「トンネル」
砂浜にトンネル
左右から
手で掘る
真ん中で
男と女の手の触れて
トンネルは完成

2010・5・31
「無題」
風船が萎んで
月曜日の一日に
部屋の隅に
くっついている

2010・5・30
「変わらない風景」
鳥取砂丘で
蟻になっていく
原色の人間たち
5万年続く
変わらない風景

2010・5・29
「JR時刻表」
緩んだまま
始まり
緩んだまま
終った
僕の一日の
緩んだままに
花びらのように
浮いていた
JR style='font-family:"MS ゴシック";mso-bidi-font-family:"MS ゴシック"'>時刻表

2010・5・28
「待つ」
待っていた
いつも
待っていた
一日を
待っていた
365日を
待っていた
65年を
待っているだろう
一生を

2010・5・27
「くねる」
ゼリーの中に
浮いている
生き物らしく
くねっている
半透明の中で
意味も無く
くねっている

2010・5・26
「人生という戦場」
偵察部隊を解散し
奇襲部隊を編成だ
人生という戦場は
奇襲奇襲の連続だ

2010・5・25
「日付印」
日付印を押す
昨日も
今日も
明日も
生きている証の
日付印を押す
大量生産の機械のように
来る日も来る日も
日付印を押す

2010・5・24
「風になる」
君と僕は
風になる
並木道を
ビルの谷間を
雑踏の中を
高架下を
陸橋を
新緑の樹の間を
君と僕は
風になる
夕焼けの坂道へ
鋭角の街角へ
今日という思い出へ
君と僕は
風になる

2010・5・23
「生きている」
夢の中で
一度死んだことがある
その夢から目覚めて
食べて飲んで
まだ生きている

2010・5・22
「巻き戻し」
テープを
巻き戻し
巻き戻し
同じ歌を聴く
片恋のテープも
擦り切れるまで
巻き戻し
巻き戻し

2010・5・21
「卵の殻」
卵の殻のように
何も残らない
そんな日が過ぎていく

2010・5・20
「不思議とも思わず」
雨が降る
不思議とも思わず
雨を見ている
風が吹く
不思議とも思わず
風を見ている
地上のすべては
ただ
雨に濡れ
風に揺れ

2010・5・19
「人間とは」
自分の指の一本が動かない
それは大変だと思ったり
それぐらいと思ったり
人間とは不思議なものだ

2010・5・18
「砂の城」
時間をかけた
砂の城が崩れる
人間が崩れる
波に雨に打たれて
砂の城が崩れる
人間が崩れる

2010・5・17
「ポンコツ車」
ポンコツ車が走る
夢を乗せて
おどおどを乗せて
どこまで続く道なのか
走るしか知らず
昨日も今日も
おそらく明日も
ポンコツ車が走る

2010・5・16
「ある夕暮れ」
フェンスの空き地に
咲いている月見草
この世の哀しみのように
湧き上がる夕闇に
素直に埋もれて
咲いている月見草
ペダルを踏みながら
振り返ると
透明な夕焼け空は
遠い風を抱いて
何も語らず手を振っている

2010・5・15
「ケセラセラ」
現在なんて要らない
過去があれば生きられる
美化されていく過去があれば
この世はバラ色
現在なんて要らない
手の中には
バラ色の過去があるだけ
ケセラセラがあるだけ

2010・5・14
「あかんぼ」
母の名札の保育器で眠る
まだ名前の無いあかんぼ
何処に居るのも
流れる時も気づかず
動かせば動く手足を動かし
声が出るままに泣き
小さな秘密を作り始めている

2010・5・13
「明日の旅」
思い出せば
いつも一人旅
明日もまた
歩き始めよう
いつものように

2010・5・12
「テスト」
犬から猫に
猫から蝸牛に
蝸牛から石に
進化しているのか
退化しているのか
誰にも解らない

2010・5・11
「軸」
軸はどこに
僕が回転している
軸はどこに
軸が動けば
僕の回転は乱れる
そして
僕は揺れ続ける

2010・5・10
「徘徊」
野良犬のように
徘徊している
それでいいじゃないかと
徘徊している
予定変更
予定変更の連続
スローモーションの
パチンコ玉
人間的でないことも許し
野良犬のように
徘徊している

2010・5・9
「転がり始める」
転がり始める
決まった坂を
決まったように
転がり始める
いつまでも
同じ形の僕
いつまでも
同じ形の坂
転がり始める
決まった坂を
決まったように
転がり始める

2010・5・8
「期待する一日」
長編小説の
数ページしか
読まなかった
24時間が過ぎていく
価値が無い奴だと
呟いて過ぎていく
いつも期待する
一日が過ぎていく

2010・5・07
「平和な月日」
映画フィルムの
無数の連続の
コマのように
平和な月日は
過ぎてゆく

2010・5・06
「空へ伸びる樹の根」
土の中から
空へ伸びる樹の根
炎のように
猛禽の爪のように
何が欲しいのだ
何を掴もうとするのか
祈りのように
怒りのように
言葉を溶かして
言葉を砕いて
荒波の形に
土の中から
空へ伸びる樹の根

2010・5・05
「子供の日」
子供の日に
子供の心を包む大人の心
輪郭を鮮明にして
子供の心を包む大人の心

2010・5・04
「老いと呼ぶ道」
青春のこころのままに歩き
気がつくと
苔の生えた暗い常緑樹の道
人たちは老いと呼ぶ道
分かれ道も無く
だらだらとどこまでも
どこに辿り着くか解らない道
ただだらだらの道

2010・5・03
「トンボの目」
立つ場所によって
見えるものが違う
麓から見るか
山頂から見るか
異なって見えるけれど
同一のものもある
近いので見えることも
離れるから見えることも
トンボの目になって
明日と今日を見てみよう

2010・5・02
「洗脳」
生きがいとなり
視野狭窄となり
自己暗示にかかり
判断が出来なくなり
みんな幸せに生きている

2010・5・01
「少女歌劇」
どこにでもある
新緑の街から
おむすびころりんと
落ちてしまった
少女歌劇の舞台
異次元の時が流れる
漫画の世界から
人波に押されて
辿り着く駅前の居酒屋
生ビールをぐっと空け
帰り着くこの世

2010・4・30
「光の出逢いと別れ」
彗星の軌跡に
僕たちは紛れ込んで
ゆるやかに回りながら
キラキラと出逢う
やがて弾き出され
手に光を満たして
ゆるやかに回りながら
キラキラと別れていく

2010・4・29
「太鼓腹」
ひとりの人から
次の人へと
温いちょっとが流れ出し
僕たちは笑いながら
少し太っていく
さよならを言うとき
ぼくたちの影は
幸せな太鼓腹になっている

2010・4・28
「命の時計」
命は出合いと消滅を
繰り返し繰り返し
時の流を創っていく
砂時計のような
命の時計になって
時を刻んでいく

2010・4・27
「性」
遠い昔
僕たちを支配した
厳しい季節を
僕たちは忘れていく
蛇も蜥蜴も
蝶も蜻蛉も
自然を失った都会から
消えていった
いつか
厳しい季節と直面し
自然の無い街で
僕たちも
きえていくのだろう

2010・4・26
「生きている」
部屋の中の
すべてのものに
人の呼吸や汗
人の命に包まれ
僕は生きている
獣や魚の命
草木の命を食べて
僕は生きている
ぬくぬくと笑いながら
僕は生きている

2010・4・25
「都会と人間」
都会は自動販売機
人間は冷たい坩堝

2010・4・24
「切り株の根」
切り株の根は
何が起こったかも知らず
猛禽類の爪のように
大地を掴んだまま
眠り朽ちていく

2010・4・23
「複合汚染」
萎みゆく花の悲
割れた壷の虚無
両目のない達磨
老いたシジホス
複合汚染の中で
光に触れようと
伸ばされた両手
明日のない指先

2010・4・22
「根腐れの樹」
幹がぐらついても
根腐れの樹は
人間のように
立っている
空に近づけない
風を愛せない
雲を眺めた日を
忘れていく
確かな靴音の
硬質な時間が揺すり
病葉を落とし
斜めになっていく
根腐れの樹
根腐れの樹は
人間のように
立っている
倒れるまで
人間のように
立っている

2010・4・21
「潜水艦」
海底から
浮上する潜水艦
静寂を深くして
斜めに進む
流線型の影
秘密と企みを積んで
海底から
浮上する潜水艦
「三角の影」
心の奥に
三角の影
錐体の青い影
章乳石のような
心の奥に
三角の影

2010・4・19
「知らない街」
知らない街で
風になる
西に東に
風になる
公園の盛りを過ぎた桜
惰性で吹き上げる噴水
園外保育の子どもたち
高架下のうどん屋
黒尽くめの女
排気ガスの跨線橋
路地裏の立ち飲み屋
僕と言う風の中を
流れていく
知らない街
知らない人たち

2010・4・18
「海の鳥山の鳥」
海を飛ぶ鳥
波の寄せる方へ
水平線に飛ぶ鳥
山を飛ぶ鳥
風吹く方へ
峰から峰を飛ぶ鳥
思い出を抱きながら
飛んでいく
海の鳥山の鳥

2010・4・17
「足りないもの」
足りないものを
足りないままに
一日は過ぎてゆく
足りないものを
足りないままに
僕たちは酔っていく

2010・4・16
「ロッククライミング」
朝から夜まで
ロッククライミング
どこまでも
そそり立つ岩
昨日も今日も
どこまでも
そそり立つ岩
終わりの無い
ロッククライミング

2010・4・15
「形になっていくもの」
呼べば答えて
ふたりの間に
生まれるもの
次から次に
生まれるもの
目に見えないけれど
形になっていくもの
君を君にして
僕を僕にして
目に見えないけれど
形になっていくもの

2010・4・14
「羽を持たない僕たち」
鶴の恩返しの鶴は
自分の羽で
布を織った
羽を持たない
僕たちは
何から何を
作るのだろう
何を作るのだろう

2010・4・13
「降り続ける雨」
虫も獣も
人間もいない
どこにいったのだろう
樹と草と
土の道と
海と砂浜と・・・
黙り続けるものに
降り続ける雨
終わりの無いように
降り続ける雨

2010・4・12
「ある風景画」
雲が流れて
樹の葉の揺れて
風を語る
時を語る
高原の道を
歩いていた
ひとりの男も消えて
いつまでも
いつまでも
雲が流れて
樹の葉の揺れて

2010・4・11
「花から花へ」
ミツバチは
花から花へ
生かされるままに
花から花へ
吹く風を
風とも知らず
花から花へ

2010・4・10
「大きな樹の影」
義母の85歳の誕生日
電話をすると
「こんなに大きくなってしまった」と
膝が曲がり背が曲がり
小さくなっていく義母
でもその影は
大きな大きな樹の影
鳥が歌い虫の鳴く
大きな大きな樹の影

2010・4・9
「花いかだ」
僕たちは
花いかだ
流れていく
流れていく
花いかだ
黙っているの
笑っているの
この世に浮かび
寄り添って
流れるだけの
花いかだ

2010・4・8
「桜の産院」
産院の窓を開けると
満開の桜で眩しい公園
赤ん坊の頬にも
淡い光が差し
柔らかな手足を
明日に向かって
動かしている

2010・4・7
「遺跡」
色あせて
冷たくなって
遠い都の遺跡
転がる白い柱
誰も歩かない石畳
海だけが変わらすに
波だっている
人の心にも
そんな遺跡がある
忘れ去れないまま
崩れゆくままにしている
遠い遺跡がある

2010・4・6
「ブレーキばかり」
ブレーキばかり
どのペダルも
ブレーキばかり
踏んでいるのは
ブレーキばかり

2010・4・5
「熟年夫婦」
鉢が小さくなった
とっくり椰子を
大きな鉢に植え替える
それだけで過ぎる
熟年夫婦の春の午後

2010・4・4
「昼桜の丘」
坂を上っていく
明日を願うように
交差点のボタンを押し
陸橋を渡り
北へ北へ北へ
雲ひとつ無い空に
ふわっと浮かびそうな
昼桜の丘へ
坂を上っていく

2010・4・3
「酔っていく」
眼帯をかけて
飲み歩く夜
肩に触れる手
握り合う指先
終らないでと
願うように
酔っていく
どうでもなれと
酔っていく

2010・4・2
「見えない注射」
見えない眼に注射
見えない眼に
見えない注射針
見えない注射液

2010・4・1
「静かなエープリールフール」
昨年の初め
癌という診断
それから2回目の
エープリールフール
静かな
エープリールフール

2010・3・31
「水と命」
はるか遠くに降った雨は
途方も無い流れになり
定めのままに溢れ崩れ
力のある限り広がっていく
熱い砂漠に滲み込み
乾いた広大な荒地を潤し
どこまでもどこまでも
茶褐色の世界に
眩しい緑の蘇り
命という命は立ち上がり
狂おしく生の歓喜を歌う
自然には悲劇も喜劇もない
大きな力の導くままに
命という命は燃える
燃え尽きるまで
消え尽きるまで燃える

2010・3・30
「僕の影」
僕の影は
陽炎のように
春の風に流されて
野を走る子どものように
どこに行くか解らない

2010・3・29
「ある残像」
伝書鳩が二羽
ひとつの箱から
それぞれの方向に
放たれ消えて
無意味に残る
八分咲きの桜と
春寒の青空

2010・3・28
「春の二相」
光と影のように
どうしょうもなくあるもの
語らないものと語るもの
水面に浮かび来る泡粒は
水底の熱い命の証だけれど
春の沼は物音ひとつ立てない
春の一日を
話している僕たちと
黙っている僕たちと

2010・3・27
「ある一日」
春寒の一日が終る
時計と行進した一日が終る

2010・3・26
「花冷えの夜に」
花冷えの夜に
震えているのは
人恋しさの指
花冷えの夜に
飲み干していく
外つ国の酒
花冷えの夜に
積み重ねていく
微笑みと囁き
花冷えの夜に
僕の手から落ちる
虹色のびー球

2010・3・25
「時計の針」
今日は
虚しく
規則正しく
動いている
時計の針
時計の針は
僕を映す
鏡のようだ

2010・3・24
「小さな陸橋」
小さな陸橋を
行きも戻りも
笑って歩いている
雨の日も晴れの日も
子どものような僕たち
いつもいつまでも

2010・3・23
「孫の声」
鳥の囀の中を
走ってくる孫
孫の声も
空に明るく響いている

2010・3・22
「孤独な魚」
友達の電話に
パクっと
食いついている
孤独な魚

2010・3・21
「過剰防衛」
美しい言葉で
過剰防衛することがある
その中にあるものは
弱いものでないのに
美しい言葉で
過剰防衛することがある
なぜだろう

2010・3・20
「透明な鎖」
透明な鎖を引き摺る
円を描いて引き摺る
陽炎のように
音を立てない
透明な鎖を引き摺る

2010・3・19
「空洞」
中心から空洞になる
何もかも忘れる
虹が消えていくように
こころは透き通って
限りなく淋しくなることを
引き止めるものはない
どこまでもどこまでも
中心から空洞になる

2010・3・18
「鳥になる」
長い夜が明ける
ひとつの呪縛から
哀しく放たれて
東雲の空に飛び立つ
孤独な鳥になる
軽過ぎる羽ばたきに
戸惑いながら
見えない真昼に向かって
真っ直ぐ飛ぶ
孤独な鳥になる

2010・3・17
「永遠へ消える祈り」
繁華街に溶け込めず
ぽつんと立っている寺
時間から取り残された境内
タイムトラベルのような
喧騒から静寂の時空で
並んで祈っている
祈りは透明な竜になり
絡み合いながら
午後の空に無音で昇り
永遠へ消えていく
語られない言葉のまま
永遠へ消えていく
そして僕たちは
夕風の街に戻って行く
どうしょうもないものを
忘れさせてくれる街へ
四角い箱の中の時間に

2010・3・16
「街という海」
海底の岩で揺れている海草
街の雑踏で揺れている僕
海の魚になり
身をくねらせたり
岩陰にじっとしたり
心の揺れのままに
僕は街を泳いでいく

2010・3・15
「春の雨」
サンルームの植物を
庭に運び出す
冬を越した葉や枝は
点滴を受ける病人のように
春の雨を静かに受けている

2010・3・14
「プリン」
春めいた坂道の
ケーキ屋で買うプりン
自転車の前カゴで
揺れているプリン

2010・3・13
「ぷかりぷかり」
小説とこの世の間で
ぷかりぷかりと浮いている
何処へ流れるのか
ぷかりぷかりと浮いている

2010・3・12
「動く」
動く動く
人のために
自分のために
動く動く

2010・3・11
「僕と影」
本当の僕が影になり
ひょろひょろと
偽者の僕を追いかけている

2010・3・10
「春の蝸牛」
蝸牛は
いつまでも
眠っていたい
春になっても
雨が降っても
蝸牛は
いつまでも
眠っていたい
夢の中から
出たくなくて
蝸牛は
いつまでも
眠っていたい

2010・3・9
「プレオープンパーティー」
春の冷たい雨の夜に
ぼっと明かりを灯した
プレオープンパーティーの店
背を丸めて入れば
声と声 笑顔と笑顔の
スクランブ交差点
淡く暖かい丸い
繭の中のような世界

2010・3・8
「生きる」
遠くを見ようと
背伸びはしない
汗を落とした道を
振り返りはしない
ゲームセンターの
ロードレースをするように
ハンドルを切り
ブレーキを踏み
アクセルを踏むだけ
どこまでも
いつまでも
今此処を
切り抜けていくだけ

2010・3・7
「力を失い」
力を失い
両手から
落ちていくすべて
力を失い
左右に揺れて
崩れていくすべて
力を失い
画家のキャンバスで
色褪せていくすべて
力を失い
束縛から解かれ
自由になっていくすべて

2010・3・6
「同じ」
魚も鳥も虫も獣も
生きているものが繰り返す
吸って吐いて吸って吐いて
食べて出して飲んで出して
生き方も形も違うけれど
吸って吐いて吸って吐いて
食べて出して飲んで出して
みんな同じことをしている

2010・3・5
「虫」
葉っぱを食べる虫
食べつくすと
枯れると知らず
食べつくす虫
死んでいく虫

2010・3・4
「変わらないもの」
小ぬか雨の渓谷
石と石の間を
流れる続ける水
斜面の樹木は
叫びを封じて
佇んでいる
雨も変わらない
石も変わらない
水も変わらない
樹木も変わらない
渓谷の見える露天風呂で
変わらないものたちを
眺めている

2010・3・3
「棒」
その棒を外せば
僕は転がるだろう
転がって何処へ行くだろう
何処への不安で
その棒に
僕はしがみついている

2010・3・2
「独りという影」
生まれた時から
独りだったけれど
母がいたから
独りを知らなかった
独りを知ったのは
僕が旅に出て
母と別れてから
それはきっと
二度目の僕の誕生
母が永久の旅に出て
独りのまま
生きて老いた
独りは淡くなり
濃くなり
影のように
僕から離れようとしない

2010・3・1
「空気の抜けた風船」
終った映画の
その後を
知りたいように
心に積もっていく
君に尋ねたいこと
そんな僕の周りで
草は萌え
落葉樹は芽吹き
春の海には
チリ地震の津波
二層に分かれた
ドレッシング
枝先で動かない
カタツムリ
誰もいない公園の
シーソー
そして僕は
遠い温もりを感じながら
とろんとしている
空気の抜けた風船

2010・2・28
「春」
雨の音
風の音
芽の出る音
花の咲く音
君の足音
君の声

2010・2・27
「心の中の地震」
心の中にも
地震が起きたことがある
裂けて割れて
倒れて崩れて
叫んで泣いて
恨んで怒って
澱みの濁りを
消していく
流水のように
流れ続けた月日に
色褪せるすべて
そして
消し忘れたテレビのように
今の僕の心の中にある
遠い遠い地震の記憶

2010・2・26
「春の放心」
春の雨の中に
時計のように
みんな蹲っている
遠い他人の視線で
放心の視線で
変わりゆくすべてを
受け入れている

2010・2・25
「人間と動物」
人間たちは
数分のドラマに
四年という歳月を
掛けている
動物たちは
一生を掛けて
命を守り
命を捨てている

2010・2・24
「退院」
病院を出て
階段を下りて
僕のいるべき暮らしに
戻っていく
長い長い穴を抜けた
明るさの眩暈
目覚めると
自分の部屋だった
安堵と戸惑い
家具屋の店主は
テレビを見ている
自動車修理工場の
ジェット水の音
自販機の小銭を集める
駅前の駄菓子屋
何も変わらない
街の暮らしに
散歩を終えたように
僕は戻っていく

2010・2・23
「無色の時間」
話したい一杯
でも
何も話せない
無色の時間に
座っているだけ
見つめているだけ
無色の時間に
流れるものがある
きっときっと
言葉より確かなもの
きっときっときっと

2010・2・22
「ゆらゆらとひらひら」
ゆらゆらと
ひらひらと
海の生き物
独りぼっちの僕に
ゆらゆらと
ひらひらと
触れる指先
淋しい夜更けに
ゆらゆらと
ひらひらと
僕は柔らかな眠りに

2010・2・21
「妥協しない炎」
冬でもなく
春でもない
中間色の季節に
心を焼き焦がす
妥協などしない
炎が競り上がる

2010・2・20
「がんじがらめ」
がんじがらめ
自分で自分を
自分の紐で
縛っている
愛されている
ニコニコ笑う
乳児のように
がんじがらめ
自分で自分を
自分の紐で
縛っている

2010・2・19
「命になっていくもの」
永遠の流れの底に
沈殿していくもの
いくつもの星
いくつもの月
いくつもの風
いくつもの光
いくつもの出逢い
いくつもの微笑
いくつもの言葉
永遠の流れの底に
沈殿していくもの
ただひとつの
命になっていくもの

2010・2・18
「二月の恋人」
揺れる光を
遠い窓越しに見ながら
冷たくなるばかりの
指先で描いている
二月の恋人
心の中で踊る恋人
届きそうで
届かない心の奥で
踊り続ける恋人
暖かくて寒い
二月の恋人

2010・2・17
「今日という一日」
画用紙に
小さな丸を描いて
終った
今日という一日

2010・2・16
「直線の時間」
時が流れる
護岸工事をされた
川のように
時が流れる
点と点を結ぶ
何も生まれない
直線のような
時が流れる
君の温さの無い
時が流れる

2010・2・15
「待っている」
二月の暗い曇り空を見ながら
待っている
古い映画の中に入り込んだように
待っている
熱い缶コーヒーをポケットに
待っている
モノクロからカラーに変わる瞬間を
待っている
君を待っている

2010・2・14
「寝つけない想い」
深い夜にひとり
寝つけない想いを
あやしている
涙を流しながら
眠る子のような
想いを
じっと抱いている

2010・2・13
「あなたへの想い」
缶の中の
オイルのように
揺れながら
渦巻きながら
濃縮されていく
あなたへの想い

2010・2・12
「もっと」
もっと
もっと
もっと
僕の心に
春の芽のように
もっと
もっと
もっと

2010・2・11
「ジグソーパズル」
春寒の一日の
退屈しのぎのジグソーパズル
温いハートのピース
見つからぬままに
夜になる

2010・2・10
「青い硝子の器」
青い硝子の器で
君と逢っている
話す言葉は
ゆっくり
器を満たしていく
午後のひとときは
まぼろしなのか

2010・2・9
「奪いたい」
水が奪うように
奪いたい
山崩れを起こし
田畑を埋め
悩みも迷いも
奪う力として
水が奪うように
奪いたい

2010・2・8
「微かな存在」
冬の原っぱに
ただぼんやりと
立っている
硝子のような
氷柱のような
微かな存在として
立っている

2010・2・7
「明日へ帰る」
ガラスの向こうの
あなたが消えている
微笑みでなく
甘い声でなく
そこにあるのは
雪催いの雲と
寒い春を包む夕闇と
独りで明日へ帰る
子供の僕の影だけ

2010・2・6
「記憶」
忘れかけた人から
記憶を揺する電話
攪拌された一瞬は
揺れながら薄れて
また
心の底に沈殿する

2010・2・5
「白い四角い迷路」
白い四角い迷路に
入っていく
出口は海だろうか
それとも
冬野だろうか
それとも
ビルの街だろうか
誰も知らない
白い四角い迷路を
僕ひとりが歩いている

2010・2・4
「ある一日」
軸足を挫いたまま
一日を歩いて
一日は終ろうとしている
早足に行き交う
街の人たちと擦れ違い
いくつもの影に追い越され
僕は僕の道を帰っていく

2010・2・3
「新しい旅立ち」
冬のような
春のような
明るい道を
駅に向かって
歩いている
途中下車した街で
見つけた
ミラクルストーンを握り
新しい旅立ちへ
歩いている

2010・2・2
「炎」
両手で包む
肌色の炎
揺れないように
消えないように
しっかりと
両手で包む

2010・2・1
「憧れ」
好きなのは
海に注ぐ川
そんな川に
僕はなりたい

2010・1・31
「無理」
捻じ曲げる
塗りつぶす
叩き割る
蹴り飛ばす
押さえ込む
無理はしないことだね

2010・1・30
「新しい呼吸」
海の深くを泳いでいるのに
ふっと浮上しそうになる
海面のキラキラに
心を乱されそうになる
冷たさと暗さの
海の底で
新しい呼吸を探している

2010・1・29
「ミミズ」
ミミズのように
泥の中で眠る
もう動かない
もう囁かない
ミミズのように
泥の中で眠る

2010・1・28
「窓ガラスの向こうの世界」
風に揺れるものを
見ている
波に漂うものを
見ている
風に触れていない
波に触れていない
すべて
窓ガラスの向こうの世界
僕たちは真実を知らない

2010・1・27
「斜めの道」
斜めの道を
斜めに進む
正方形に慣れた僕を
斜めの道は
導いてくれる
もうすぐ僕は着くだろう
冬なのに暖かい海に

2010・1・26
「地形のまま」
地形のまま
流れていく
地形のまま
流れる川は美しい

2010・1・25
「小さな虫」
小さな虫は
小さく生きて
小さく死んでいく
それで良いんだね

2010・1・24
「天使と雪女」
男の心にいる
天使と雪女は
何処から来たのだろう
男はいつも
耳をすましている
生まれた時から
そうであったように
男はいつも
見詰めている
生まれた時から
そうであったように
消えたようにみえても
背景のように
男の心にいいる
天使と雪女
天使と雪女

2010・1・23
「喜び」
手を伸ばせば
触れないけれど
感じる温み
心がほころんで
視線は柔らか
黙っている唇は
少し開いて
歌い始めそう

2010・1・22
「ある風景」
静かな建物の
白い壁面に
冬の光と
葉を落とした
落葉樹の影
枝先は
突き刺さるよう
今日の私の
心にもある
同じような風景

2010・1・21
「悩みU」
一日を
さらさらと流れても
油のような悩みは
消えることはない

2010・1・20
「悩みT」
狭い山道で
対向車に合うように
悩みがやって来る
カーブの先から
やって来る

2010・1・19
「枯葉が重なり
腐葉土となり
言葉が重なり
愛の香になる」
愛は樹のよう
雑草に埋もれて
気づかない
小さな芽と細い根
光を受けて
雨を受けて
大きな喜びに枝を揺らし
深い哀しみに根を下ろし
ゆるぎなき樹になる
ゆるぎなき樹は
言葉を失った人のように
静かに見ている
静かに聴いている
流れゆくものを

2010・1・18
「冬の別れ」
泣き止んだ子供のように
今日という一日を残し
改札口への階段を下り
コンコースを通り抜け
君の微笑みから離れて行く
冬の夕暮れに向かって
小さな交差点を渡り
たそがれの影と擦れ違い
君の微笑みから離れて行く
冬の流れが落ちていくように
どうしょうもない力のままに
君の微笑みから離れて行く

2010・1・17
「果てしない流れ」
果てしない流れに
浮いている
花いかだのように
集まり崩れ
崩れ集まっている
果てしない流れに
人間のすべては
押しつぶされて
存在しないゼロに
希釈されてしまう
果てしない流れに
無と空白は生まれ
どこまでも
どこまでも
広がっていく

2010・1・16
「ふたつの時間」
生きているから
時間は早く
時間は遅く
僕たちの中で進む
生きているから
秒針は短針を
短針は長針を
裏切らない
生きているから
二つの時間に
優しく淡く
包まれている僕たち

2010・1・15
「独りに」
別れると
すっと
寒さが入ってくる
そして
青白い陸橋を
独りに向かって
歩いていく

2010・1・14
「宝石の人間たち」
無数の光を受けて
輝いている人間たち
光を放つものを知らず
輝いている人間たち
無数の宝石の人間たち

2010・1・13
「幻の風景」
森を抜けて
海に出た
君の白い手を
握りしめた
動くものは波だけ
その波を見続けていた
君の白い手を
握りしめて

2010・1・12
「どこまでも」
冬の深夜の道を
阿弥陀籤を引くように
歩いていく
酔った女と男
どこまでもどこまでも
終わりが無いのを
楽しむように
どこまでもどこまでも

2010・1・11
「静物」
置いたままに
そこにあるものたち
そのままで
待っているものたち
時計だけが動いている
逆らうように動いている

2010・1・10
「落葉樹の枝」
落葉樹の枝を見ている
どのような必然で
枝は伸びるのだろう
重なる枝
内向きの枝
張り出す枝
細い枝
太い枝
人間のように
個性のある枝ばかり
光を求める枝ばかり

2010・1・9
「犬のように」
掘って行けば
ここから
出られるだろうか
道具も何も無く
犬のように
穴を掘っている

2010・1・8
「逆」
逆にするだけで
すべてが変わることがある
簡単なことだけれど
それが出来ないから
人間なのかもしれない

2010・1・7
「蹲っていた獣」
眼を開けて
体を解いて
動き始める
蹲っていた獣
冬の野へ
雪の崖へ
枯れ木の山へ
突き刺す風へ
乾いた音へ
春の遠い淡色へ
眼を開けて
体を解いて
動き始める
蹲っていた獣
それから先は
誰も知らない
ひとつの
物語の始まり

2010・1・6
「地下街」
午後八時の地下街を
競争するように
行き交う人たち
人の利用しない階段では
もう蹲り眠る人がいる
いつまでも明るい照明の店
人間たちのざわめき
新しい年が始まっても
地下街は変わらない顔をしている

2010・1・5
「ひとつのルール」
決断させたものは
ひとつのルールだった
自由を奪う代わりに
魂を保証するという
ひとつのルールだった

2010・1・4
「季節外れの台風」
僕の心に
季節外れの
台風が来た
僕の心から
季節外れの
台風は去った
そして
僕はひとり
台風の去った
海を見ている
海を見ている

2010・1・3
「冬の海を渡る鳥」
鳴くこともなく
冬の海を渡る鳥
不確かなものを信じて
一直線に飛んでいく鳥
凍りついた水平線の
その向こうに
何があるのだろう
寒風に羽ばたくことを
使命とするように
鳴くこともなく
冬の海を渡る鳥

2010・1・2
「年賀状」
忘れそうな
遥かな人と
一枚の年賀状だけで
繋がっている

2010・1・1
「見知らぬ街」
家を捨て
見知らぬ街を行く
初めての
並木道に石段
初めての
声と微笑
初めての
潮騒と水平線
家を捨て
見知らぬ街を行く
新しい僕に
いつかきっと
会えるだろうと

2009・12・31
「忘れない」
霧の中で見た獣を
忘れない
獣の赤い眼を
忘れない
至近距離の一瞬を
忘れない
霧が晴れた今も
獣の赤い眼を
忘れない

2009・12・30
「冬樹」
冬樹は
人間の
裸の心
必然と
矛盾と
哀しみ
素裸で
青空へ
青空へ

2009・12・29
「我慢」
幼いときから
我慢しなさいと
教えられた
それが正しいことなのか
今も解らない

2009・12・28
「僕の人生」
この世を
舞台として
生きていたのだろうか
この世を
この世として
生きなければ
僕の人生は
仮のまま終ってしまう

2009・12・27
「ひとつの約束」
一年の終わりに
ひとつの約束
終止符のような
淡い芽のような
ひとつの約束

2009・12・26
「夫婦」
一本の落葉樹に
夫婦はなっていく

2009・12・25
「プレゼント」
静かに
ラッピングしている
僕の愛を

2009・12・24
「願望」
瞬間ボンドでくっつけたい
あなたの心を

2009・12・23
「雪の日の幻想」
雪が降り
雪に包まれ
温くなる
声を聴くと
先の尖った
犬の耳
あなたへ走る
何も見えない
何も見ないで
一直線に
雪が降り
雪に包まれ
温くなる

2009・12・22
「磁石」
磁石のように
駅前で逢った
磁石のように
駅前で別れた
夜がどんどん深くなり
眠りに落ちる磁石
磁石が眠りに落ちても
いつまでもいつまでも
夜更けの部屋に
想いは漂っていた

2009・12・21
「淡い匂い」
明日は淡い匂い
今日はざらざら
昨日は固まり
繰り返し
繰り返し
65年の繰り返し
石ころのようになっても
明日を見る目は変わらない
淡い匂いに向かって歩く

2009・12・20
「寒波の部屋で」
猫になっていく
輪郭が暈けていく
丸く丸く丸く
起きているのか
眠っているのか
手も足もすべて
輪郭が暈けていく

2009・12・19
「寒波」
足の先からやって来た寒波
今は臍のあたりを通過中
そして
頭のてっぺんから抜けて
どこに行くのだろう

2009・12・18
「あなた」
もぐら叩きのもぐらのように
僕の心に現れるあなた

2009・12・17
「深い闇」
自分が愛せないものなど
何の価値も無いという思想
そこから深い闇が始まる

2009・12・16
「北に」
踏み切りを
走り去る電車のように
すべては
色彩も音も温みも失い
過ぎ去っていく
そして北に北にと
僕だけが歩いて行く

2009・12・15
「小さな旅」
流れる車窓の風景と
蛸弁当と缶ビールから
始まった小さな旅
自分から自分を
解き放つための
海への小さな旅
65年の温い歪みを
トントンと叩いて
直すような小さな旅
うたた寝のような
小さな旅から戻り
ぼんやりとしている

2009・12・14
「関係性」
新しさの中に
浮いているものは
触手を伸ばし
新しさを食べていく
やがて
新しさは消え
浮いているものは
肥大して
鼾をかいて
眠り始める

2009・12・13
「冬の蛍」
あちらで光り
こちらで光り
あなたもぼくも
冬の蛍になっている

2009・12・12
「ひとつの旅」
ひとつの旅から戻った
ひとつの旅から
何が生まれると言うのだ
ひとつの旅から戻った
そして
裸の落葉樹のように
立っている
ひとつの旅から戻った
しかし
旅をしたのでなく
獣のように包まって
眠っていただけなのかも
ひとつの旅から戻った
世の中も何も変わっていない
春になると
また平凡な芽を吹き
葉っぱで身を覆うだけだろう

2009・12・11
「抱き合おう」
もう何も話さずに
抱き合おう
体温がひとつになるのを
胎児のように感じよう
そして
10年20年30年
ただ月日だけが過ぎる
それでも良いじゃないか
もう何も話さずに
抱き合おう

2009・12・10
「ある状態」」
形を求めても
輪郭が出来ない
そのままに浮かび
逆らうこともせず
風に流されている

2009・12・9
「球体」
上下左右から見ても
何も変わっていない
ただの球体
手を離せば転がり
コロコロと転がり
何も変わっていない
でも
影が歪んでいる
影が凍えている

2009・12・8
「踏切」
踏切が降りて
人生は変わっていく
ガタガタと
電車が通過して
踏切が開いて
人の心は変わっていく

2009・12・7
「海の浮遊物」
絆を切っていくと
海の浮遊物になる
波任せに
いつまでも
どこまでも
終わりのない
海の浮遊物になる

2009・12・6
「犬」
誰かが帰ってきたのか
ドアが開かないのに
犬の耳が動き
尻尾を振っている

2009・12・5
「僕たちの人生」
真夜中に目覚めて
ふっと思い出す人たち
出会ったけれど
もう永遠に
出会えない人たち
たとえ会っても
分からないだろう
数珠のように
出会いと別れで出来ている
僕たちの人生

2009・12・4
「風船」
風船の空気が抜けた
萎んで地に落ちた
もう
風船でない風船

2009・12・3
「素足の鬼」
素足で鬼は走っていく
鬼は恋をしているらしい
石ころ道を
素足で鬼は走っていく

2009・12・2
「誕生日」
誕生日の姉に電話する
姉は留守
電話に出たのは義兄
誕生祝のプレゼントを
近所の友人宅に
受け取りにいっているとのこと
毎年来る誕生日を
憶えてくれている人がいる
それが一番素晴らしい
誕生日のプレゼントなんだろう

2009・12・1
「白衣」
白衣を着る
僕を捨てる白衣を
二重人格になるための
白衣を着る

2009・11・30
「恋の坂」
白い雲を眺めながら
僕は坂を上っていく
あなたへ続く坂を
その坂を名づけるなら
恋の坂だろうか
なだらかな坂
草の生えた坂
心の中に真っ直ぐに
延びていく坂

2009・11・29
「宇宙の時計」
無限の彼方に中心を持つ
円の中で動き続ける
透明な針
地球上の天変地異など
宇宙の時計は無関係に
優しく冷たく美しく
回り続ける
僕は宇宙の時計を忘れて
君の鼓動を聴いている
ゆっくりの時も
はやい時も
リズムを持って動いている
君の鼓動を
そんな君のリズムの中で
僕の朝日は輝き
夕焼けに染まり
汗をかいたり
涙を流したりしている

2009・11・28
「踊っておいで」
踊っておいで
遠くから見ているから
踊っておいで
何もかも忘れていいよ
踊っておいで
祭りの夜はもう明ける

2009・11・27
「手」
人の手は
言葉のよう
その心のよう
五本の指は
囁い歌い泣き
五本の指は
触れ撫で包む
孤独な手
満たされた手
泣いている手
微笑んでいる手
人の手は
言葉のよう
その心のよう
君の手に触れたい
君の手を包みたい

2009・11・26
「冬の落日」
冬の落日のつくる
光と陰は
寄り添い
慰め合っている
紅葉した樹木は
古い絵のように
落日の中に
無口に佇んでいる
冬の落日は
過ぎ行く今を
胸深く
包み込み抱きしめ
溶かそうとしている

2009・11・25
「時計とカレンダーの間で」」
時計の針は
階段を上り下りして
一日を終えようとしている
カレンダーは痩せ細り
すきま風に揺れている
時計とカレンダーの間で
僕は終わりが無いと
思っているように
のんびりと詩を書いている
2009・11・24
「初冬の道」
飼い主に捨てられた
犬のように
初冬の道を行く
気楽で重たい自由から
逃げたくても逃げられず
ひょこひょこと歩き続ける
伏し目がちに周囲を見上げ
諦めそうで諦めもせず
飼い主に捨てられた
犬のように
初冬の道を行く

2009・11・23
「約束へ」
約束へ這い登る
約束へ飛び込む
約束へ潜水する
約束へ灯を消す
約束へまどろむ
約束へ目覚める
約束へ風を切る
約束へ消え去る

2009・11・22
「とりとめのなく」
雲間から射す淡い光
紅葉を散らして消える風
夕暮れに灯り始める店の看板
声と影の揺れる駅前通り
目を閉じると浮かぶ微笑み
指先から流れ去った甘い記憶
新しい出逢いに色褪せてゆく写真
振り出しには戻れない秒針
孤独だから毀したいほどの抱擁
終りそうで終らない一瞬の長い旅

2009・11・21
「川が流れる」
川が流れる
いつも
花を浮かべ
新緑を映し
散る紅葉を受け
冬の魚を包み
春夏秋冬の移ろいを
川が流れる
いつも
わたしの胸に
あなたという
川が流れる
いつも

2009・11・20
「紅葉並木」
風に流されるように
紅葉並木を歩いている
誰も知らないところ
何も知らないところ
繋ぎとめるもののない
自由で頼りない時空の
紅葉並木を歩いている
野良犬のように
風に流されるように

2009・11・19
「煌びやかな廃墟」
紅葉は散っていく
風のある日も
風のない日も
樹木は冬樹となり
空を淋しく広くする
自然の長い営みは
矛盾も調和に変え
人間の思考の愚かさを
浮き上がらせる
そんな自然のメッセージを
現代人は忘れ無視して
矛盾に矛盾を積み重ねて
煌びやかな廃墟を造っている

2009・11・18
「掘っていく」
掘っていく
根っ子まで
根っ子の先の先まで
僕が僕でなくなるまで
掘っていく

2009・11・17
「男の過去」
春夏秋冬
春夏秋冬
女の気づかぬままに
男は変わってゆく
あきらめを深め
哀しみを鎮めて
男の過去は
やがて体温を失い
獣のように
冬の野の
黒い塊となるだろう

2009・11・16
「車の旅」
曲がりくねった道は
何処に続くのか
ヘッドライトを頼りに
右に左にハンドルを切る
行く着くところまで
アクセルを踏み続ける
春の草原に出るのか
荒れ果てた廃墟に出るのか
ただ
行く着くところまで
アクセルを踏み続ける

2009・11・15
「ひとりの旅」
光の当たる山あり
深い陰の続く谷あり
繰り返し繰り返しを
僕たちは歩いていく
いつもひとりで
笑ったり泣いたり
鳥の鳴く声を聴き
魚の走る影を見て
ひとりを癒されても
気がつけばまたひとり
光の当たる山あり
深い陰の続く谷あり
繰り返し繰り返しを
僕たちは歩いていく

2009・11・14
「滑り落ちる」
滑り落ちてゆく
掴まるもののなく
滑り落ちてゆく
蟻地獄の蟻のように
どうしょうもない孤独に

2009・11・13
「季節の絵筆」
病院の周囲の樹木も
色づき始めた
銀杏の黄
桜の夕焼け色
櫨の赤
プラタナスの黄と緑
欅の茶色
常緑樹の緑
冬という季節の絵筆は
すべての色を溶かし
静かなグラデーションの
世界を創り出している

2009・11・12
「ボールとんとん」
ボールとんとん
どこでも
いつでも
ボールとんとん
何処へ弾んで
何処へ転んで
ボールとんとん
追いかけて
尻餅ついて
ボールとんとん
眠たくなって
手の中へ

2009・11・11
「棕櫚の樹」
庭にあった
一本の棕櫚の樹
気づかない間に
屋根を越して
空に伸びていた樹
ひとの心にも
どんどん伸びていく
棕櫚の樹がある
風にゆれて
いつもカサカサと
音を立てている

2009・11・10
「木枯らしの夜」
木枯らしを歩き
指先が痛んだよ
思い出せば
そんな夜ばかりだった
石の陰で
息を吹きかけて
また歩いたよ
もうすぐ
木枯らしは止むだろう
目を閉じると
山間に確かな灯が見える

2009・11・9
「誇り」
もう何も悔いは無い
これまでもそうだった
同じ道を
同じように
進むだけ
汚れなかった
汚さなかった
そのことを誇りとして
同じ道を
同じように
進むだけ

2009・11・8
「キラキラ眼の鳥」
自由に飛んでらっしゃい
キラキラ眼の鳥よ
華麗な羽を広げて
地上のことは忘れて
空という空へ
高く高く高く
自由に飛んでらっしゃい
キラキラ眼の鳥よ

2009・11・7
「ひび割れ」
ひび割れたところから
水が零れ始めた
もうどうしょうもない
ただ立ち尽くすだけ

2009・11・6
「浮いている魚」
夜の海に浮いている魚
ただ浮いている魚
夢を見ている訳でも
目的を失った訳でもなく
何かを待つ訳でもなく
夜の海に浮いている魚
ただ浮いている魚

2009・11・5
「晩秋の夕暮れ」
晩秋の夕暮れ
道行く人の
輪郭は淡くなり
夢の中の人物のよう
夕陽の落ちたところから
風が吹いて
夜を深めていく
黒絵具を混ぜたように
常緑樹の緑も
落葉樹の紅葉も
色彩を失い
人間の存在も
あやふやに消えそうに
晩秋の夕暮れに漂っている

2009・11・4
「ラムネ玉」
快晴の空の下を
転がっていく
ラムネ玉
どこに転がっていくのか
ラムネ玉も空の青も
知りはしない
光を弾きながら
転がっていく
ラムネ玉

2009・11・3
「始まり」
夢も希望も
形にならない
彫らなければ
浮き上がらない
仏のように
ゆっくりと
手で探りながら
闇を進んでゆく
そこから
すべてが始まる

2009・11・2
「人間」
病気になって学んだことは
人間は慣れる生き物だということ
どんな辛いことにも慣れて
どんな幸せも忘れてしまう
人間は雑草と水に
似ているのかもしれない

2009・11・1
「暗い雨」
紅葉を濡らし
冬の訪れを知らせる
長くて暗い雨
音という音を奪って
大地に落ちてゆく雨
家並みも人間たちも
灰色の静寂に
息を殺して蹲っている
長くて暗い雨は
何もかも無視をして
ただ降り続けている

2009・10・31
「ハロウィーン」
夜になり
闇の深さを選び
ぞくぞくと集まる
妖怪変化たち
日常は日常に残し
妖気を求めて
ぞくぞくと集まる
黒装束の悪魔たち
一年に一度の夜を
非日常で満たすため
ぞくぞくと集まる
人間たちの影たち

2009・10・30
「悲哀」
永遠の中の
同じ時間に
無限の中の
同じ地球に
住んでいる
無限永遠の中の
ひとつの点に
住んでいるのに
争い殺し合い
騙し合い裏切り
人間たちは
何と愚かなのか
何と哀しいものなのか

2009・10・29
「誰も居ない舞台」
過ぎ去ったものは過ぎ去ったもの
もう舞台には誰も居ない
明日から新しい劇が演じられ
またいつか舞台には誰も居なくなる
落ち葉が降り積もるように
人のドラマも繰り返されて埋もれる
新しい涙が零れ新しい笑いが溢れ
そしてたちまち過ぎ去ってしまう
誰も居ない舞台に
静かに雪が舞い花が散っていく

2009・10・28
「小さな冒険」
午後の斜めの光を受けて
見知らぬ街の見知らぬ道を
当ても無く歩いて行く
いくつもの家の構え
誰も居ない公園
置き忘れられた神社
バスの来ない停留所
なかなか青にならない信号
初めて訪れる僕を
街は珍しそうに見つめ
人懐っこく声を掛けてくる
そして最後は
マジックのように
双六のように
僕を驚かせて
スタート地点に戻してしまう

2009・10・27
「海の真実」
海の真実は海の底
暗い冷たい海の底
動かないで見つめている
深海魚だけが知っている
どこまでも蒼い海の真実

2009・10・26
「迷い」
どんどん捨てると
どんどん軽くなり
浮き上がってしまう
どんどん集めると
どんどん重くなり
ぺしゃんこになる
捨てようか集めようか
迷っているんだね

2009・10・25
「宝物」
子供の宝物は
砂浜の石や貝殻
ある日歩いていて
足元に見つけ
箱にしまった宝物
そのまま時が過ぎ
いつの間にか
大人になって
永遠に忘れてしまう
本当の宝物

2009・10・24
「波」
引いては寄せる波は
別れたら
すぐ逢いたくなる
恋人たちのよう
夕暮れの海で
波が哀しく
音を立てている

2009・10・23
「午後の道」
秋の影を踏んで
病葉の散らばる歩道を
歩いていく
ひとりぼっちなのに
淋しくもなく
ロボットのように
秋の影を踏んで
歩いていく
柔らかな弧を描いて
どこにでもある
ありふれた午後の道を
初めてなのに
初めてでないような道を
歩いていく

2009・10・22
「晩秋」
建物の陰が濃くなり
常緑樹のくすんだ緑を残して
落葉樹はそれぞれの薄紅葉色
一羽のカラスが曲線を描いて
斜めに消えて行く静かな午後
ぼんやりとしている心には
亡くなった父母や別れた友の
生き生きとした顔が浮かぶ
晩秋の午後の光は
過ぎ去ったものを
ふっと浮き上がらせる
哀しい光なのだろう

2009・10・21
「リンリンちちち」
校舎の陰の草むらで
小さく小さく
虫が鳴いている
リンリンちちち
リンリンちちち
来ては過ぎ去る
忙しい足たちは
虫の声など聴こえない
リンリンちちち
リンリンちちち
もうすぐ冬がやって来る

2009・10.20
「軽い笑い」
一粒の雨
窓からの月光
そっと撫でる風
水の囁き
淡いものでいい
ささやかなものでいい
あかんぼのように
軽く軽く笑っていたい

2009・10・19
「捨てる」
使わないものを捨てる
使っているものも捨てる
どんどん捨てると
森林が草原になり
草原が海原になり
海原が砂漠になる
砂漠に一匹の駱駝が現れて
小さな点になり消えてゆく
そして
月の光とさらさら風だけ
いつまでもいつまでも
2009・10・18
「いちにいいちにい」
海があれば
海を渡る
山があれば
山を登る
道があれば
道を歩く
何処へ行くのか
僕は知らない
知っているのは
左右の足だけ
いちにい
いちにい
何処へ行くのか
僕は知らない
2009・10・17
「奇蹟の橋」
奇蹟の橋なんかないんだ
これまでも
これからも
空しい祈りを繰り返し
あきらめて
あきらめて
渡ったことのない橋
それなのにまた
今度こそはと
今度こそはと
奇蹟の橋を待っている

2009・10・16
「未来の夢」
描くたびに滲み
滲んで形を失っていく
未来の夢
黒いかたまりの夢

2009・10・15
「素直」
風も波も樹も
雲も光も影も
獣も人も虫も
みんなみんな素直
素直に満ちているこの世
僕だけが素直になれず
濁った水を飲んでいる

2009・10・14
「ストーカー」
美しくて哀しい
ストーカー
海の向こうに
母が浮いている
美しくて哀しい
母が浮いている

2009・10・13
「白夜の国」
良いのか悪いのか
秘密と闇が消えてゆき
白夜の国になっていく

2009・10・12
「人間の影」
ある日に
人間の影は
水のように
浮かび上がる
その影を引き摺り
光の中を歩き続ける
あるときは淡く
あるときは濃く
ある日に
人間の影は
霧のように消える
透明な草原が広がり
透明な風が吹き
人間の影は
永遠に戻ってこない
涙のように
雨が降り始めた

2009・10・11
「踏ん張っている蜘蛛」
巣の真ん中で
踏ん張っている蜘蛛
幾何学模様の中で
自由なようで
自由になれなずに
踏ん張っている蜘蛛

2009・10・10
「エトランゼ」
ふっと開放されて
揺られている電車
いつもの駅を降りても
自分に戻り切れずに
秋の夕暮れ道を
エトランゼのように
歩いている

2009・10・9
「幻」
幻を生み続け
その幻を
幼子のように
胸に抱いて
僕たちは
流れていく
流されていく

2009・10・8
「一匹の虫」
樹上へとひたすらに
這い上っていく
一匹の虫
樹のさらに上には
ただ眩しいだけの青空
風が吹いて
木漏れ日がちらちら
樹上へとひたすらに
這い上っていく
一匹の虫

2009・10・7
「それでいいんだ」」
それでいいんだ
それでいいんだ
僕につぶやく
それでいいんだ
それでいいんだ

2009・10・6
「明日に溶ける」
黄昏を歩く
自由の哀しさと
黄昏を歩く
ひとりになりたくて
街に背を向け
ひとりになりたくて
何処まで行っても
温もらない手
何処まで行っても
引き返して眠るがいい
明日に溶けるために
引き返して眠るがいい

2009・10・5
「浮かびくるもの」
じっと見る
じっと聴く
そして
待っている
遠い姿を
遠い声を
僕の中から
浮かびくるものを

2009・10・4
「成長」
三歳の孫が泣き止むまで
大人たちの慰めの言葉
五歳の孫が怯えなくなるまで
大人たちは傍にいる
会うたびに
ふたりの孫は
背が伸びている

2009・10・3
「剪定」
切っていく
張り出す枝
内側に向く枝
下を向く枝

2009・10・2
「蜘蛛になる」
部屋は散らかったまま
窓に一枚葉が散る
部屋は散らかったまま
ティシュの箱はてっぺんに
部屋は散らかったまま
キーボードに指が踊る
部屋は散らかったまま
壁には時計がひとつ
部屋は散らかったまま
卓上カレンダー
部屋は散らかったまま
蜘蛛になっている

2009・10・1
「秋」
万華鏡が回る秋
透明人間が歩く秋
囁きに囁き返す秋
山は海を見る秋
海は山を見る秋
淋しくはないけれど
寄り添いたくなる秋

2009・9・30
「見間違い」
海だと思ったら
水溜り
山だと思ったら
砂置き場
友と思ったら
モニュメント

2009・9・29
「過去」
花束は
香りを放ち
枯れていくだけ
破れた蜘蛛の巣に
蜘蛛はもういない
風に揺れるだけ

2009・9・28
「無為の秋」
季節が過ぎる
鳥が飛び立つ
病葉が落ちる
取り残された
残暑の光と影
白い階段を
目的も無く
上っている
時間が過ぎるのを
待つだけの秋の午後
時計のように
白い階段を上っている

2009・9・27
「ある会話」
残暑の自転車置き場で
見知らぬ人と交わす会話
擦れ違うだけのような
存在しなかったような
軽い軽い
独り言のような会話

2009・9・26
「秋の午後」
葉っぱが流れる
秋の午後を
触れながら
離れながら
水苔の
川石に絡まり
滝を滑り落ちて
大きく揺れたり
同じ形で流れたり
川下に川下に
行進する兵隊のように
秋の午後は表情も変えず
何処までも進んでいく

2009・9・25
「小さな町」
病院は小さな町
バスもタクシーも走り
郵便局
ファミリーマート
スターバックスコーヒー店
うどん屋
レストラン
・・・・
公園だってある
いつのまにか
住み慣れてしまった
病院という小さな町

2009・9・24
「雑記帳」
雑記帳の中で
バスに乗り
電車に乗り
自販機の
缶コーヒーを飲み
携帯メールを読み
ラーメンをすすり
雑記帳の中を
僕は出られない

2009・9・23
「ボールペンの先」
線を描く
ボールペンの先に
あなたがいる
僕がいる
時間そのもののように
あなたがいる
僕がいる

2009・9・22
「虫食いの穴」
齧っている
あちらこちら
時間の葉に
幾つもの
虫食いの穴

2009・9・21
「虫」
地下室で
虫が鳴いている
いつまでもいつまでも
鳴いている

2009・9・20
「時限爆弾の時計」
泣いている
芙蓉の花びら
君を想うとき
微かな風の感触
夏から秋へも
さやさや
さわさわ
君を想うとき
哀しみに弾けそうな
僕の指さき
秋の夜のどこかで
時限爆弾の
時計が動いている

2009・9・19
「僕の旅」
水蒸気になり
雨になり
沁みこみ
流れになり
川になり
海になる
水の旅のように
僕の旅もあるのだろうか
ゆっくり
ゆっくり
囁く声に耳を澄ませ
囁く声に従って
ゆっくり
ゆっくり
僕も歩いていこう

2009・9・18
「白昼夢」
コーヒーは冷めても
白昼夢は踊り続ける
哀しみを濃くしながら
諦めを窓辺の風に溶かして
遠い教会の十字架
夕暮れていく空
波寄せる海岸
ポケットには真珠
過去という影は
淡くなりながら
形を変えながら
潮風の中を
どこまでも
どこまでも
ついてくる

2009・9・17
「自然と人間」
街路樹は
季節のままに
新緑になり
紅葉になり
冬樹になる
電子音が響き
新聞紙が舞い
排気ガスは
ビルの風と
渦まいて這う
街を行く人たちは
いつも追いかける姿勢
硬い表情
万華鏡から
離せない視線
赤い月が出て
ひとつの星が輝いている
ネオン街の揺れる影たちは
肩を組み大声を出し
月と星には気づかない

2009・9・16
「秋の蚊」
知らない間に
秋の蚊に刺されている
手足や首に
痒み止めを塗って
本を読み進む
いらいらもせず
机上の明かりに包まれ
いつのまにか
秋の蚊も忘れている

2009・9・15
「孤独へ」
ゲームの中の
草原を
海を山を
村を
長い道を
夜を昼を
夕焼け朝焼けを
僕たちは走る
どこまでも
どこまでも
孤独へ
手を繋ぎ
抱きあい
どこまでも
どこまでも
孤独へ

2009・9・14
「秋の海」
秋の海の
漣の一日が過ぎる
砂浜には
まばらな人影
映像ではなく
一枚の絵のような
時間が流れて
秋の海の
漣の一日が過ぎる

2009・9・13
「樹の伝言」
しっかりと
水を飲んで
空を仰ごう
風に揺れよう
恐れることはない
恐れても良いんだ
闇の向こうに
光があり
光の向こうに
闇がある
しっかりと
水を飲んで
空を仰ごう
風に揺れよう

2009・9・12
「静かになれ」
静かになれ
海のように
静かになれ
静かになれ
空のように
静かになれ
静かになれ
樹のように
静かになれ

2009・9・11
「人間という階段」
人間という階段
いつまでも変わらない階段
平和は理想のままで
戦争は終わることが無い
人間という階段
いつまでも変わらない階段
変わらないまま
いつかは崩れていく階段

2009・9・10
「それだけの一日」
いろいろと動いたのに
満たされることなく
過ぎて行く今日
空蝉が枝に絡まり
落ちてゆく
乾いた音
洗う足に
痒みを増す
秋の蚊の刺しあと
それだけの一日

2009・9・9
「未完成な一日」
淋しさだけを残して
未完成な一日は
夕暮れの風と去ってゆく

2009・9・8
「遅い昼食」
遅い昼食は
晩夏の街の
裏通りの
中華店の
一杯の
ラーメン

2009・9・7
「毛虫と葉っぱ」」
休み休みに
葉を齧る毛虫
葉分けの風に
物想いから覚めて
葉を齧る毛虫
ゆっくりと
ギザギザになる
一枚の葉っぱ

2009・9・6
「静寂」
橋の上ですれ違う
見えなくなった人と
見えなくなった人
水面で魚が一度跳ねただけで
それからもずっと続く静寂

2009・9・5
「香辛料」
香辛料をかけ過ぎている
朝昼晩と
香辛料をかけ過ぎている

2009・9・4
「健忘」
思い出せない
時計の針は思い出せない
過ぎてしまった時間を
今日の僕のように
時計の針は思い出せない

2009・9・3
「遊園地の乗り物」
対岸の見えるところまで
歩いて行き帰る
口笛を吹いて帰る
夕焼けへ帰る
老いていることも忘れ
遊園地の乗り物のように
一日を終えている

2009・9・2
「繰り返される」
歴史は繰り返される
咲いて枯れ
枯れて咲き
咲いて枯れ
枯れて咲き
季節も繰り返される
咲いて枯れ
枯れて咲き
咲いて枯れ
枯れて咲き
人間も繰り返される
咲いて枯れ
枯れて咲き
咲いて枯れ
枯れて咲き
いつまでも
いつまでも
終わりが来るまで

2009・9・1
「希望」
若い政治家たちの目は輝いていた
明日を語る言葉は清流のようだった
いつまでもいつまでも
いつまでも失わないで欲しい
失わないことで幸せになる
失わないことで満たされる
そんな日本になって欲しい
若い政治家たちの目は輝いていた
明日を語る言葉は清流のようだった

2009・8・31
「液化」
液化する
君と僕
川になって
海になって
波になって
それから先は知らない

2009・8・30
「鏡の心」
ビッグバーンで
宇宙が生まれ
僕も生まれた
宇宙が広がれば
僕も広がる
ある日
僕が鏡であることを知った

2009・8・29
「△」
○△□
僕は△になりたい

2009・8・28
「宿命」
蔓草が伸びる
上へ上へ
限りなく伸びる
人間が求める
新しいもの新しいもの
限りなく求める
蔓草は枯れ
人間は倒れ
風が来て去り
雨が降り止み
真空の時間に包まれる

2009・8・27
「油蝉」
油蝉が庭の隅に転がっていた
からからの枯葉のように
かさかさと音を立てた
猛暑の空も忘れ
秋の風にも気づかず
油蝉が庭の隅に転がっていた

2009・8・26
「星座」
星から星へ線を引き
星から星へ線を引き
線の描く形から
星座を名づけた
心の中にも
いろいろの星座があり
首が痛くなるほどずっと
僕は見上げている

2009・8・25
「オアシス」
オアシスで暮らし
オアシスの水を飲み
オアシスで夢を描き
もう一歩も
オアシスから出られない
オアシスから出られない

2009・8・24
「浮き上る」
浮き上がる
時間の中で
関係の中で
浮き上がる
闇に蠢いている
触手が浮き上がる
手品の種のように
浮き上がる

2009・8・23
「歩いたら」
歩いたら点が線になる
歩いたら線が面になる
歩いたら面が体になる
歩いたら
自分が誰か見えてくる
貴方が誰か見えてくる

2009・8・22
「しゃぼん玉」
しゃぼん玉をつくる
黙ってしゃぼん玉をつくる
しゃぼん玉を見ている
黙ってしゃぼん玉を見ている
僕たちの一日は
無声映画のように
始まって終わる
しゃぼん玉は虹を描き
どこかの空で割れて消える
何もかもが存在しなかったように

2009・8・21
「恋ー3」
光の渦になることもあり
闇の渦になることもあり
そして
沈黙の水面になることもあり
冬野を吹き渡る風になることもある

2009・8・20
「恋ー2」
大切なものだから
抱きしめる
大切なものだから
毀したくなる

2009・8・19
「恋−1」
すりガラスの向こうに
輪郭の判らない
赤いものが動いている

2009・8・18
「時計」
時計の針は回る
同じに同じを重ねて
同じに同じを重ねて
同じに同じを重ねて
ある日
時計の針は止まる
永遠の同じを指して
永遠の同じを指して
永遠の同じを指して

2009・8・17
「残暑」
晴れた朝なのに
蝉は鳴いていない
風の声は低くなり
影に囁いて消える
油断して出た日向
逃げ場を失った肌を
追い詰める太陽光線
夏は食虫植物の花のように
原色のまま開いたまま

2009・8・16
「オンザロック」
深夜に飲むオンザロック
思慕を断ち切りたくて
酔いたくて
氷がグラスに触れる音
卓上ライトに照らされた
筆立て
時計
写真
メガネケース
カレンダー
深夜に飲むオンザロック
思慕を断ち切りたくて
酔いたくて

2009・8・15
「終戦記念日」
か細くなった蝉時雨
流れ雲と青空
高校球児の黙祷
飛び続けるアゲハチョウ
はしご酒の夜
無意味な自棄
夜のぽつぽつ雨
そして・・・
僕の終戦記念日

2009・8・14
「運命」
自動改札機に
吸い込まれる切符のように
すっと運命に
僕たちが吸い込まれることもある

2009・8・13
「蟻」
アスファルトの道で
蟻と蟻が出逢い
蟻と蟻が別れた
蟻の消えた
アスファルトの道は
真夏の真昼の太陽光線に
ギラギラと光っていた
蟻は巣穴に帰り
蟻は巣穴で想った
アスファルトの道の
誰も知らないひと時を
結び目のようなひと時を

2009・8・12
「アゲハチョウ」
八月の狭い庭に
真っ黒の影を踊らせて
やってきたアゲハチョウ
深い緑の草木に
鮮血色のハイビスカスに
戯れの言葉を投げ落とし
ふわっと立ち去っていった
アゲハチョウの消えた庭に
一瞬漂った秋の眼差し

2009・8・11
「哀しみ」
夕暮れの中の
哀しい道をゆく
仲間と歩いているのに
欠けた器のような哀しみ
深く酔っても
消えない哀しみ
ひとつのピースを失い
完成することのない
ジグソーパズルの哀しみ
街外れの
小さな立て看板の
淡い光の哀しみ
理由もなく漂い
すべてを包む哀しみ
溜息をつきながら
夕暮れの中の
哀しい道をゆく

2009・8・10
「恐さ」
自然災害の
自然の恐さ
原水爆の
人為の恐さ
人間の欲望の
底のない恐さ

2009・8・9
「見えない雨」
長崎は雨
いつも
いつも
見えない雨
静かな静かな
見えない雨

2009・8・8
「観覧車」
観覧車が頂上で止まった
同じ景色の中に閉じ込められ
何をするでもなく
ぼっと座っている

2009・8・7
「ひとつのもの」
心を満たす
ひとつのものがある
ひとつのものなのに
相反的に動くものがある
離れて見ると
ひとつのものが集まり
群集のように見える

2009・8・6
「祈り」
祈りが広がってゆく
小さな祈りが大きくなり
核よりも大きな力となり
人間の善なるものを
揺り動かし
目覚めさせ
祈りが広がってゆく
小さな祈りが大きくなり
核よりも大きな力となり・・・

2009・8・5
「残像」
人生が終わる
花火が終わる
残像だけを残して
深い夜に包まれる

2009・8・4
「パンドラの箱」
世界が所有している核弾頭は
推定二〇〇〇〇発
人間の愚かさの象徴
無機質に光る
パンドラの箱

2009・8・3
「願い」
残念ながらまだ
終わっていない
二十世紀の愚行
汚れた関係妄想
歪んだ視野狭窄
人間が存在する限り
それが続くとすれば
なんという悲劇だろう
植物も動物も
美しいリズムで
生きているのに
人間の醜い不均衡
機械が産むような
加速しか知らない
狂気のドライバーに
美しい緩急は無い
海洋を渡る鯨の群れ
その静けさを
いつか人間は
手に入れるのだろうか

2009・8・2
「忘れてはいけない」
しかたなしに
しかたなしに
しかたなしに
しかたなしに
みんな過去にしていった
8月6日
8月9日
忘れられない
忘れられない
忘れてはいけない
忘れてはいけない
生きているかぎり
生きているかぎり
叫ばねばならない
叫ばねばならない
人類の尊厳のために
人類の未来のために

2009・8・1
「いろいろの人」
雲のような人
風のような人
水のような人
油のような人
雷のような人
土のような人
雪のような人
樹のような人
夢のような人
神のような人
まだまだまだまだ
いろいろの人がいて
面白いこの世

2009・7・31
「幸せ」
両手が使える
両目が見える
それだけで
溢れくる幸せ
失わないと
気づかない
当たり前の
とびっきりの
僕たちの幸せ

2009・7・30
「おおいなる遊び」
どうして同じを求めるの
どうして曖昧は駄目なの
自然なものはばらばら
人間の世界だけにある
直線・正三角・正四角
人間の世界から消えてゆく
気ままなおおいなる遊び

2009・7・29
「待っている」
待っている
待っている
何を待つというのでなく
時が過ぎ行くことだけを
待っている
待っている

2009・7・28
「半人前」
眼の術後の制限で
顔も頭も洗えない
ただそれだけで
半人前になったようで
暗い顔で横たわっている

2009・7・27
「理解者」
疲れると横たわる
すぐ横のベッドは
唯一の理解者かもしれない

2009・7・26
「たまり水」
四十年以上の
医師として流れを
病気は止めてしまった
僕は今
病棟という澱みで
空を映すだけの
たまり水なのだろう

2009・7・25
「仮想の日常」
仮想の日常の中で
僕らしさに
少し戻っている
夢のように
明日は消え去る
ものだけれど

2009・7・24
「蜘蛛」
蜘蛛の巣は
大きく
破れている
蜘蛛は
何も気づかないで
夢ばかり見ている

2009・7・23
「喪失」
何も失くしていない
何も変わっていない
ただ
予定表が書けないだけ

2009・7・22
「抜け殻」
抜け殻になってゆく
そのままの形で
電池の切れた
おもちゃのように
そのままの形で
抜け殻になってゆく

2009・7・21
「見慣れた街」
見慣れた街に
忘れられてゆく
何も変わらないのに
異邦人になってゆく
無重力を歩くように
見慣れた街をゆく
ひとつ歯車が取れて
見慣れた街で
軋み音を立てている

2009・7・20
「ご夫婦そろって」
ご夫婦そろって
渋滞の道を会いに来てくれた
ご夫婦そろって
夢前川の鮎を持って来てくれた
ご夫婦そろって
淡い過去に帰っていった
ありがとう ありがとう

2009・7・19
「風」
風が好き
すぐに忘れる
すぐに忘れられる
風が好き

2009・7・18
「人間の悲劇」
スピードは出ても
ブレーキの効かない車
人間の悲劇は
いつもそこから
戦争・殺戮・難民・テロ
殺人・汚職・詐欺・暴行
新聞の一面と三面を蔽うものたち
宗教の違い
民族の違い
そして権力武力を
正義という愚か
スピードは出ても
ブレーキの効かない車
人間の悲劇は
いつもそこから

2009・7・17
「指先」
指先は掴もうとしないで
ただ触れようとするだけ
深海の海草のように
海の揺れに合わせて
踊るように揺れるだけ
時間だけが過ぎても
何も変わらない
指先は踊るように揺れるだけ

2009・7・16
「抗がん剤治療」
無差別攻撃のような
抗がん剤治療
何もかも噴き飛ばし
火炎放射で焼き尽くしても
悪性腫瘍細胞の
ゲリラ兵が潜んでいそうな塹壕
僕の両眼の裏側

2009・7・15
「雨の朝の映像」
激しい朝の雨に
透明な雨合羽で
三つの傘を差し
石の坂を上っていく
妻と幼い子供たち
遠い昔の映像
どこにでもある
ありふれた風景だけれど
なぜか苦しく
今も浮かんでくる
遠い雨の朝の映像

2009・7・14
「息子の誕生日」
今日は
息子の誕生日
メールもせずに
プレゼントもしなかった
普通の日のように
病室の一日が過ぎてゆく

2009・7・13
「蟻」
巣穴を出て
真夏の中を
蟻たちはどこへゆく
歩いて歩いて
歩いて歩いて
石を上り
枯れ枝を越えて
迷っているようで
迷ってないようで
何処で得たのか
自分より大きな獲を咥え
あるものは明るい間に
あるものは暗くなって
巣穴に戻る
あるものは途中で踏まれ
あるものは仲間と会い
あるものは流れに落ちる
蟻の世界を見ていると
人間の世界も見えてくる

2009・7・12
「ねがい」
たいくつなときや
さびしいときに
ふっとおもいだし
ふっとわすれてくだされば
うれしいのです

2009・7・11
「時計の影」
凸凹も
心の中で
やがて丸くなり
音も立てず
違和感も無く
時計の影に
吸い込まれてゆく

2009・7・10
「紫陽花」
夕暮れの山の斜面に
空の紺碧を奪った紫陽花
何かを語り合ったけれど
何も憶えていない
それなのに
この季節になると浮かんでくる
あの青い青い紫陽花

2009・7・9
「思い出」
思い出はいつも
若さから零れ出し
こころの湖に注ぐ
思い出はいつも
真夏の夜の花火
消えても浮かぶ残像
思い出はいつも
ラムネの硝子玉
飲もうとすると音がする

2009・7・8
「忘却の世界」
海の底に
休火山があり
海草が揺れ
擦り抜けてゆく
色とりどりの魚
そこは忘却の世界
そこでは誰も思い出せない
海の底に
休火山があり
海草が揺れ
擦り抜けてゆく
色とりどりの魚

2009・7・7
「七夕」
空の星から
物語を生んだ
大昔の人たち
きっとこころも
きらめく星空
だったのだろう

2009・7・6
「滝つぼに落ちる時間」」
病気に凭れて
うつらうつら
うつらうつら
滝つぼに落ちる
音を持たない時間を
僕は知らないで

2009・7・5
「子供たち」
孫が滑り台から降りてくる
そんなスピードで
子供たちは
成長するのだろう

2009・7・4
「糸の切れた凧」
糸の切れた凧のように
街を歩いている
糸の切れた凧のように
あなたを待っている

2009・7・3
「自宅療養」
自宅療養して
萎れていた手足がピンと
空に伸びている

2009・7・2
「誰もいない公園」
誰もいない公園
ブランコは
風に微かに揺れ
滑り台もジャングルジムも
曇天の下で無口
噴水は退屈して
欠伸を我慢している
僕はベンチで
悲しい夢ばかりを
ほろほろとほろほろと
そして
曇天のまま
夕方が近づいている

2009・7・1
「愛」
一瞬だけ
思いだしてくれたら
良いのですよ

2009・6・30
「僕の道」
僕の道は僕の道
間違っていても
美しくなくても
どこに出るか
誰も解らない
僕も解らない
僕の道は僕の道
間違っていても
美しくなくても

2009・6・29
「ナルチストの過去」
ナルチストの過去に
おつきあいするなんて
まっぴらごめん
小さな明日に
兎のように
ぴょんぴょんぴょん

2009・6・28
「獏よ」
悪夢を喰う獏よ
悪夢はたっぷりとある
あそこに
ここに
そこに
喰えるだけ
喰って眠るがいい
獏よ

2006・6・27
「仮退院」
柵のある野に放たれ
羊はきょとんとしている

2006・6・26
「無力」
どっちに転んでも
同じようなことと
頭の中では思っても
とっさになると
どっちに転ぶか
決まっているよ
頭で思うことなんて
結局は無力なんだろう

2009・6・25
「悲しみのタイムカプセル」
心の中に眠っている
悲しみのタイムカプセル
掘り起こして
カプセルを開ければ
悲しみは目覚める
深く深く埋めよう
埋めたことを忘れてしまうほど
深く深く埋めよう
悲しみのタイムカプセルは

2009・6・24
「生きる」
夜の海沖で
ぽつんとひとつ
青い光を放つ
生物がいる
あれは君かもしれない
僕かもしれない

2009・6・23
「遠い視線」
病棟のデイルームの窓から
ぼんやり独り
外を眺めている患者さん
長く入院していると
僕たちは遠い視線になってゆく

2009・6・22
「不思議なこと」
病棟には
26人の看護士さん
65歳の私には
みんな娘や孫みたい
でも
私を老人にするひと
私を父親にするひと
私を青年にするひと
私を小学生にするひと
私を園児にするひと
どうしてそうなるのか
とても
不思議なことである

2009・6・21
「父の日のプレゼント」
二組の息子夫婦から
父の日のプレゼント
綺麗な扇子セットと
電動歯ブラシ
まだ使わずに
ときどき開いて
眺めるだけの
父の日のプレゼント

2009・6・20
「過去色」
病院を出て
バスに乗ると
そこは日常の生活
病人も健康人も
生活者になる
慣れた駅に降り
慣れた道を歩き
慣れた店前を通る
それがはやばやと
過去色になっている
病院の中で
僕の時間は進み
慣れた街は眠り続けるのか
それとももしかすると
僕が浦島太郎になっているのか
過去色になっているのは
僕かも知れない

2009・6・19
「朝」
よく眠れましたかと卒業したての看護士さん
はい、天使の夢をなんどか見ました

2009・6・18
「蓑虫のように」
蓑虫のように
ぶら下がっている
蓑虫のように
揺れている
その前を知らない
これからを知らない
朝になり夕になり
蓑虫のように
揺れている

2009・6・17
「一輪の花」
一輪の花をあげよう
君に出逢ったときは
一輪の花をあげよう
友に出逢ったときは
一輪の花をあげよう
母に出逢ったときは
一輪の花をあげよう
父に出逢ったときは
一輪の花をあげよう
通りすがりのひとに
一輪の花は
小さな風にふれて
小さな微笑になる
花の精たちは
歌い始めても
声は聴こえず
きらきらきらきらと
雪のように消えていく
一輪の花をあげよう
言葉のように
消えてゆく
一輪の花をあげよう

2009・6・16
「恋の欠片」
小さな恋の欠片を
いっぱい集めると
白い花になる
そこにも落ちている
ここにも落ちている
あっちにも落ちている
気づかないだけ
小さな恋の欠片を
いっぱい集めると
白い花になる
初夏の風に揺れる
白い花になる

2009・6・15
「幸せ」
僕の物語を作り
やってくる人がいる
花が風に揺れるような
小さな優しさ
僕はいつも微笑して
晴れた日の山ようになっている

2009・6・14
「静かな呼吸」
二歳のときに
麻疹で高熱衰弱
医師から
死を宣告された
小学年の時
海の沖に出て
おぼれかかって
兄に救われた
中学三年の時
友人の自転車で
ダンプカーに轢かれた
山の病院の三叉路で
バスを待っていると
体を掠めて
乗用車が谷に転落した
死にそうな体験をして
恋をして
結婚をして
子に恵まれ
孫の顔も見れた
これ以上
何を望むことがあるだろう
いまある自分を咲かせばいい
それだけを思い
静かに呼吸している

2009・6・13
「僕の旅」
母を踏んでゆく
父を踏んでゆく
師を踏んでゆく
もう踏むものが無い
白い道の続く
僕の旅

2009・6・12
「黄昏の風」
梅雨晴れ間の
黄昏の風の中で
何を話したかなんて
憶えていない
君がいて
君の声を聴きながら
黄昏の風に
溶けていったのは僕

2009・6・11
「愛と憎しみ」
愛も憎しみも同じ
ひとつ心を
占め合っている
違うようだけれど
遠くから見れば
愛も憎しみも同じ

2009・6・10
「水の輪」
雨粒は見えないけれど
水面には
無数の雨粒のつくる輪
人間の命も
雨粒のつくる輪のようなもの
描いて消えて描いて消えて
僕が見ていないと
もっと孤独な水の輪たち
いつまでもいつまでも

2009・6・9
「優しい視線」
雨の日は病院を歩いて
優しい視線を拾いにいく
エレベーター
病棟の廊下
食堂売店・・・
すぐに一杯になり
部屋のベッドにごろん

2009・6・8
「ぽかーん」
シーツ交換後のベッドに
病気の体を横たえる
もう二ヶ月が過ぎる
すり減らすように
何か忘れてゆき
小さなベッドに
ぽかーんと
横になっている

2009・6・7
「水が美味しい」
水が美味しい
水だけが美味しい
愛のある言葉のように
水が美味しい
水だけが美味しい

2009・6・5
「何も残らない」
出逢って
別れるだけ
人生も恋も
何も残らない
出逢って
別れるだけ

2009・6・4
「病院に帰る」
門の前で手を振る
妻にカバンで応え
黄昏の道を
僕は病院に帰る
毎日通勤していた道を通り
友人と遊びに出た駅から
病院に帰る
さすらいの旅にでるように
馴染みの街から
病院に帰る

2009・6・3
「夕暮れ散歩」
夕暮れの
川沿いの道を
妻と歩いた
夾竹桃が咲き始めたね
桜の実を小鳥が食べているよ
あの実で果実酒を作るMさん
慌てているねと
たわいない会話
昔からある小さな橋を渡り
対岸を海に向かう
このように歩くのは
子育てを終えて始めてだろう
初めて本当の
夫婦になったような
そんな気持ちを抱きながら
僕は妻と並んで歩いていた

2009・6・2
「紫陽花」
忘れないでと
庭の隅で
紫陽花が咲き始めた
雨の季節が過ぎ
乾いた夏になると
恋人を失ったように
夢を失ったように
老いてゆく紫陽花
まるで人間のような紫陽花

2009・6・1
「影の無い世界」
夜明けの空気を
思う存分吸って
自動ドアから
暗い病棟に戻る
そこから
僕は炭鉱夫のように
影を失ってしまう

2009・5・31
「幸福」
ひとつの言葉
ふとした視線
何気ない指先
それらがボールのように弾み
初夏の噴水の輝きに
僕たちは噴水を浴びて
微笑み軽い声をあげている

2009・5・30
「いろいろの物語」
同じような病室の窓の景色
東西に延びる箕面の連山
正門付近に並ぶタクシー
ゆっくりと進むモノレール
中小のビルやマンション
いろいろの屋根と窓の民家
でも晴れの日曇りの日雨の日
いろんな車が走り来て去り
一日に数回僕の目の前で
モノレールも重なり擦れ違う
同じような病室の窓の景色
同じような病室の窓の中
その中は見えないけれど
いろんな物語があるのだろうな

2009・5・29
「ある生き方」
解らなくても解りたいと思う
聞き逃すまいと聴いている
村外れの石地蔵のように
いつも三叉路で笑って待っている
風がふたりにすっと吹いてくる
夕焼けの空が幻のよう

2009・5・28
「猫の引越し」
野良猫が物置で三匹子猫を産んだ
妻はおろおろ
犬はわんわん
孫たちがきゃっきゃっ
翌朝
親猫は子猫を咥えて大移動
妻はほっと淋しく
犬はだらりと昼ね
孫たちはまだ
猫の引越しを知らない

2009・5・27
「人間という動物」
病棟で暮らす人たちには
過去を語る人もいる
未来を語る人もいる
何も語らず
一人の病者としてだけ
過ごしている人もいる
僕はどちらにもなれず
曖昧な笑いの中で
看護士の抜く血を見ている

2009・5・26
「風を見ていたい」
風が好きだ
樹を揺する風が好きだ
草木を優しく撫でる風が好きだ
深呼吸すると慰めてくれる風が好きだ
君の髪を靡かせる風が好きだ
獣のように蹲り
風の中で君と
ずっと風を見ていたい

2009・5・25
「夜明けの風景」
仕事をしているとき
夜明けを
見ることは
ほとんどなかった
 
入院生活となり
十時の消灯に眠るようになり
早ければ四時に目覚める
病院の南には
木々が植えられ
池と遊歩道がある
点滴をコロコロと引きながら
歩いていると
眩しい太陽光が木々の隙間から
いきなり斜めに差してくる
樹木は枝先を揺らしても
まだ目覚め切ってはいない
そんな樹から樹へ
鳥は軽い囀りを残して
飛び交い
朝の訪れを告げている
池の鯉たちも
ゆっくりと隊列を組んで
泳ぎ始めている

2009・5・24
「総合待合室」
広い病院の総合待合室
沢山の椅子が並んでいる
このひとつひとつの椅子に
どんな病気の人が座り
どんな運命の人が凭れただろう
戻ってこなくなった人
今もときどき座る人
これからやって来る人
水が入れ替わるように
総合待合室の人々も
流れ来て留まり
留まって流れ去り
入れ替わっていくのだろう
誰も来ない
週末や祝祭日の椅子は
疲れ果て眠り続けているように見える

2009・5・23
「入院生活」
非日常をもう非日常と思わない
入院生活が日常になる不健康に
どっぷりと浸かり
同じように過ぎていく朝昼夕を
もくもくと歩いている

2009・5・22
「森田の出番」
まだ入院二ヶ月なのに
病院の日常が太り
いつもの日常が痩せていく
水は低い方へ流れ
人間は楽な方へ流れる
社会の規制から離れる快感は
人間をどのように変えるのだろう
癌という病気の悲壮感より
入院という自由に流されている
前向きの姿勢が折れて
生産活動への不安が過ぎる
そんなときこそ
森田の出番だろう
とにかく戻り
そこから始める
それしかないのだろう

2009・5・21
「散歩」
六時から
ホスピタルパークと名づけられた
病院南側にある中庭を散歩する
欅や楠や椚などのほか
名前の知らない樹木もある
少し高台のところから
水が流れて
庭の南にある池に注いでいる
鳥の囀り
樹木の枝から流れるひんやり
歩いていると
そのひんやりが体にも沁みる
昔の人たちはみんな目覚めて
この空気に触れたのだろう
一時間ほど歩くと
僕は人間でなく獣のようになり
病院の自動ドアから闘病生活に
ゆっくり戻ることになる

2009・5・20
「黒い川」
夕暮れると
病院のデイルームの
扇形の窓から
遠く大阪の街の
ネオンが見える
元気だったら
煌びやかな
その街を酔って
歩いているかもしれない
その日の張り付いた
体に残る疲れを
サラリーマンたちは
酒と取り留めのない話で
落としていくのだろう
ネオンから病院に続く闇に
くねくねと曲がった
黒い川が見えたのは
僕だけだろうか
ネオンの街は
ここからは
玩具の世界みたいである

2009・5・19
「前を見つめて」
木のベンチの
赤いペンキも色褪せ
駄菓子屋が消え
タバコ屋が消え
町並みも変わり
人間のこころも
忘れられ
脚色され
諦め続けて
形を変えてゆく
しかたがないことなんだ
しかたがないことなんだ
新しい流れを口に含み
魚は遡上していく
僕たちも
魚を追って
明日へ明日へ
未来へ遡上していこう
真っ直ぐ前を見つめて

2009・5・18
「オーロラ仲間」
手の先から
それぞれの色を出して
混じりあい深い色になる
オーロラ仲間の世界
ゆらゆらと
この世で揺れて
オーロラ仲間に
なっていこうね

2009・5・17
「波のように」
体の隅々まで吹き渡る
爽やかな風のように
僕の中に芽吹く力
何も求めないで
水栽培の球根のように
芽吹く力を待っている
空を見上げない
明日を思わない
僕は忘れていた
僕との対話を
波のように繰り返している

2009・5・16
「静かな直線」
約束の点に
線を引く
終わりのように
始まりのように
偶然のように
必然のように
幼児の描く
紙の破れるような
線でなく
細く消えそうな
静かな直線を引く
約束の点に

2009・5・15
「途切れた曲線」
お前は何をしているの
途切れた曲線を繋ごうとしているの
いつ途切れたの
知らない間に
どのように繋ぐのかい
遥かな記憶に身を沈めて
それから
それからはそれからのこと

2005・5・14
「100の命」
1日に100の命を頂くだろうか
空の命
地の命
海の命
100の命が100の命として
いやそれ以上の力として
僕を支えてくれるように
僕は100の命を咀嚼する
傲慢で不遜な僕を責めながら
叶わない贖罪をするように
病室に差す淡い光の中で
僕は100の命を咀嚼する

2009・5・13
「捉えられないもの」
見えないものの
聴こえないもの
触れられないもの
人間の捉えられないものがある
人間の捉えられないものは
存在しても存在しないもの
人間はそんな世界で生きて
泣いたり笑ったりしている

2009・5・12
「要るもの」
そう微風でいいのです
ときどき僕の葉を揺する
微風でいいのです
さらに望めるなら
僅かな土と水があれば
良いのです
僕の要るものは
それだけです

2009・5・11
「幻想」
風が吹くと
菫が揺れる
戯れる蝶のように
次の風が吹いたら
僕たちも
蝶になって
青空に昇っていこう
くすぐったくて
笑いあうように
青空に昇っていこう

2009・5・10
「深夜の病院の廊下」
深夜の病院の廊下は
海の底のよう
ときどき
白衣の魚がすっと
ときどき
薄緑のパジャマ魚がふわふわ
誰もいないと
静かな時間が積もってゆく

2009・5・9
「そよ風と雑草」
そよ風のように
家族がやってきて
そよ風のように
家族が去ってゆく
そして僕はまた
雑草に戻ってゆく

2009・5・8
「幸せ感」
ひょっこりと出てきた
失くしたと思っていたもの
どうでもいいものだけれど
それから僕は幸せ感を
膨らませている

2009・5・7
「贅沢」
働いていないけれど
お金を頂ける
食べたいものを
頂くことができる
なんという贅沢だろう

2009・5・6
「病院に帰る」
夜7時半に家を出る
JR夙川さくら駅から
JR茨木駅まで
ネオンの街を走る
茨木駅からタクシで10分
まだ明るい灯のつく
大学病院に着く
家族は病院に行ったというけれど
僕のこころではもう病院に帰るという
イメージになっている

2009・5・5
「幼い忍者」
昨日伊賀の忍者村へ
遊びに行った孫二人
黄と青の忍者スタイルで
走り回っている
二歳の孫は忍者が何かを
知らないままに
刀を振り回している

2009・5・4
「病院の時間」
同じ時間に寝て
同じ時間に起きて
同じ時間に食べて
同じ景色を眺めて
病院の時間が過ぎる
健康的で
不健康的でもある
病院の時間が過ぎる

2009・5・3
「青灰色の時間」
夜明けの青灰色の時間
太陽がまだ太陽にならない
言葉がまだ言葉にならない
そんな時間が好きだ
愛する人を想いながら
浮いて流れている
そんな時間が好きだ

2009・5・2
「恋人よ」
恋人よ
淡い緑の中に
虫のように入ってゆこう
淡い緑に染まっていって
あなたの笑顔も淡い緑色
恋人よ
ピーチのゼリーの海で
日暮れまで遊ぼうか
つるんつるんと転がって
夜が来たこと忘れそう
恋人よ
この霧の中で眠ろう
野の花のように何も求めず
たまたまそこにあり
そこに導かれるままに
呼吸して物思う
そんな心になるように

2009・5・1
「ハナミズキ」
大学病院の外来病棟の
正面玄関に咲いている
白とピンクのハナミズキ
病んだ人も
病みかけた人も
元気な人も
通りながら目に留めるのだろう
毎年この時期になると
満開になるのだろうか
無数の人間の運命が流れ
同じような日々が繰り返されても
ハナミズキは季節に応えて満開になり
季節の過ぎ行くままに
枯れ散ってゆく
無秩序な人間の世界に
緩やかな秩序を見せて咲く
ハナミズキは
何も知らないけれど

2009・4・30
「樹木は知っている」
樹木は知っている
窓辺に立っている
磁力を失っていく男のことを
男からポロポロと落ちるものがある
男は普通の鉄に戻っていく
樹木は知っている
男が自分たちの世界に
近づいていることを
錆びて朽ちるまで
そこにあることを
深く深く沈む世界に入ったことを

2009・4・29
「自由」
本当の自由なんてあるのだろうか
自由になるとはどのようなことだろうか
新緑の道を散歩しているとき
肌に気持ちのいい風を感じながら
野の花を愛でながらゆくとき
ふっと
これが自由かと思うことがある
いつだったろうか
遠い遠い昔の
まだ言葉を知らないとき
変化だけしか感じないことがあった
あのときは自由だったように感じる
そのころに

戻れるのだろうか
どうしたら戻れるのだろう

2009・4・28
「仮面」
いくつもの仮面を捨てて
最後に残る仮面は何だろう
その仮面の下にある
僕の素顔をどんなものなのだろう
見てみたいような
見たくないような

2009・4・27
「牧歌的時間」
体重測定
便通回数
酸素濃度
血圧測定
体温測定
尿量測定
食事摂取量のチェック
入院生活も忙しい
看護士さんも
時間に支配され
てんてこ舞い
高度医療にも欲しい
牧歌的時間

2009・4・26
「バースディーケーキ」
病院のディールームで
息子夫婦の持参したケーキで
一日遅れのバースディーパーティー
食べれそうに無いといっていたのに
ぺロッと一番早く食べたのは僕
食欲の無いはずの病人の僕

2009・4・25
「誕生日」
病室で迎える誕生日
初めてのこと
雨男だからやはり雨
生まれた日も
雨だったのではないだろうか
僕を抱いて
雨を見ている母を
想像している

2009・4・24
「病室の時間」
朝が来て
病室の窓のブラインドを上げる
今日は天気だ
今日は曇りだ
今日は雨だ
今日は何日の何曜日
そこから先に進まない
患者の手の中に
溢れるほどある
選択の許されない
選択の出来ない時間
病室の時間

2009・4・23
「速さの異なる時間」
今日も山の
稜線が美しい
朝の光を弾く自動車も
玩具のようなモノレールも
白い建物群も
新緑の森も
いつもと変わらない
病室の窓ガラスを境にして
流れている
速さの異なる時間

2009・4・22
「愛」
流れ漂う僕を
繋いでくれる
力強い腕手指
それが愛なんだろうと
言葉でないもので感じながら
流されないで僕は浮いている

2009・4・21
「ふたりだけの」
ふたりだけの約束
ふたりだけの秘密
ふたりだけの言葉
ふたりだけの・・
新緑となり
花が咲き乱れ
枯葉となり
雪が積もり
草木が萌え
季節の巡りに増えてゆく
ふたりだけのもの
ふたりだけの
喜びと哀しみ

2009・4・20
「ある不安」
手のひらに転がるのは
オパールのようなもの
何も見えない
淡く漂う淡い不安
夕暮れの風に
夜に向かって飛ぶ
タンポポの冠毛の不安

2009・4・19
「異質」
まだ朝靄に包まれている
山の稜線と木立たち
そこから南に
扇形に延びてゆく街並み
異質なふたつの広がりも
朝という時に輪郭を消され
静かに横たわっている
十階の病室の窓から
そんな朝を見ている僕は
朝から取り残されたように
鈍な輪郭を纏ったまま
気だるく立っている

2009・4・18
「僕に会う日」
桜が散って
新緑が輝き始めた
夏は葉の色を濃くし
秋は紅葉して
葉を落とす
樹木は季節のままに
姿を変えてゆく
そうなんだ
樹木のように
静かに待とう
眠り続けて
目覚めぬものの
微かに確かに
動き始める日を
僕の知らない
僕に出会う日を

2009・4・17
「雲と恋」
雲が流れるように
恋しさが流れてくる
眠る樹が夜明けの風に
目覚めるように
心の枝葉が揺れ始める
手を伸ばしても届かない
その微笑に
その声に
その視線に
夢の中より儚く
まぼろしと語り
まぼろしに触れる
どこまでもどこまでも
雲が流れる
どこまでもどこまでも
恋しさが流れてゆく

2009・4・16
「病院食」
病室の隣のYさんは
吐き気が起こり
食事がとれなくなった
それも
受けつけないのは
病院食だけ
「Yさん、今度、病院の料理長にあったら
あなたの所のものだけ受けつけないという人が
いると報告しておきますよ」
病院食だけは
どんな吐き気があっても食べれる
そんな病院に入院したいな

2009・4・15
「自由」
病気になって
四人部屋の隅っこで
生活を始めた。
慣れるとそれほど辛いものではない。
自由を奪うものは手枷足枷でなく
狭い空間でもない。
自由を奪うものは自分の心だと思う。
淋しいけれど
淋しく思う間は
まだ自由でないのだろう。

2009・4・14
「好きだから」
好きだから
磁石になってしまう
好きだから
蛇になってしまう
好きだから
紫煙になってしまう
好きだから
鏡になってしまう
好きだから
変幻自在になっている

2009・4・13
「春の一日」
春の一日が過ぎる
離れ離れを
柔らかに深くして
春の一日が過ぎる

2009・4・12
「花が散る」
花見客を置き去りに
花が散る
未練捨て去り
花が散る
この世のすべてを
うたかたにして
うたかたにして
花が散る

2009・4・11
「春の土手」
手をつなげば
そこは春の土手
草の花が笑い
そよ風が踊る
憂いは憂いのまま
手をつないで
僕たちは
子供のように
ただ走り出す

2009・4・10
「痛い検査」
体を残したまま
心を思い出の野に
解き放ち遊ばせる
遊び疲れて帰ったとき
痛い検査は終わっていた

2009・4・9
「命のままに」
葉っぱを齧る虫に
君はなるなよ
双葉でもいい
齧られる葉を増やす
草木になろう
空を見上げよう
地の水を吸おう
それが与えられたものだから
与えられたままに
与えられた命のままに
何かを求めるのでなく
与えられた命のままに

2009・4・8
「医大キャンパス」
風を感じながら歩く
医大キャンパス
校舎の日陰に点在する
野菊の黄
玄関脇の紫木蓮
坂道の角に
枝を下ろした
満開の桜
テニスをする学生の声
学生食堂の白いベランダの
若者たちの語らい
病室を抜け出して
明るいキャンパスを
今は異質になった
老いた僕が歩いている

2009・4・7
「春の別れ」
別れたばかりなのに
遠くに流れてゆく出逢い
夕暮れに埋もれてゆく出逢い
君を乗せたモノレールは
淡い春宵の夕靄に沈んでゆく
万博公園の満開の桜は
幾重にもつながり
僕たちを引き離してゆく

2009・4・6
「水のままに」
水になれば良い
さらさら
さらさら
水になれば良い
さらさら
さらさら
水のままに
さらさら
さらさら
水のままに
さらさら
さらさら
ただ水のままに

2009・4・5
「制限時間」
制限時間が来ても
慌てなくなり
でんでんむしのように
動いている
制限時間にも
慣れてきたのだろう

2009・4・4
「ふわふわ歩いている」
満開の桜を見ないで
ふわふわ歩いている
きっと不幸でなく
幸せなのだろう
何も考えず空っぽで
ふわふわ歩いている

2009・4・3
「夕暮れの道」」
昔は未来だけだった
今は過去だけになっている
明日を追うことをしないで
昨日にしがみついている
行き止まりの予感が膨らんで
道端の花を見ることも忘れ
臆病な野良犬のように
夕暮れの道を歩いている

2009・4・2
「思い出」
花が静かに枯れて
風が吹き過ぎ
思い出だけが揺れている
川の流れも地球の自転も
留まることはなく
永遠の流れに
思い出も薄まり薄まり
無色透明となり
存在しないのと
変わりはしない
新しい視線が生まれて
新しい存在が生まれて
やがて飛散してゆく

2009・4・1
「知らない人」
風が吹いているのを知らない
花が咲いているのを知らない
雨の雲が流れるのを知らない
まぼろしの夕焼けを知らない
地にしがみつく根を知らない
愛する哀しい視線を知らない
いろいろの愛の中でぬくぬくと
知らない人が夢中になっている

2009・3・31
「堅い箱」
伝わっているのに
形として残らない
桜が散ってしまう
酔いが覚めてしまう
僕たちの心には
風のよう水のように
流れ去るものがある
僕たちの心の中にある
掲示板に貼り付けよう
ピンで糊で貼り付けよう
比喩という堅い箱に
大切なものを容れておこう

2009・3・30
「想う」
花冷えの日に
想う
微かな痛みとともに
想う
揺れる花のように
想う
喜びと哀しみを溶かせて
想う

2009・3・29
「ふたつのもの」
ふたつのものがあるとき
対立を思う人がある
ふたつのものがあるとき
調和を思う人がある
不思議だね

2009・3・28
「悲劇」
地震を忘れていくように
感動も忘れていく
泣いたことも
笑ったことも
憎しみも
愛しさも
でも
波のように
繰り返し繰り返して
忘れられないことがある
人間が悪魔になってしまう戦争
殺戮をした人もされた人も
深い根の先から朽ちてゆく
忘れられなくて
倒れていく

2009・3・27
「生きること」
生きることを
単純化すると
摂食
睡眠
排泄
人間の欲望は
さらにどこまでも
伸びようとする
美しさも喜びも
醜さも悲しみも
そこから生まれてくる
摂食
睡眠
排泄
単純化された命を
忘れないで
暮らしていくこと
大切なんだろうな

2009・3・26
「見たことのない種」
僕の手の中にある
可能性の種
僕の見たことのない種
僕の手のひらに
根を下ろして
膨らんで芽を出し
葉っぱを出して
花を咲かせる種
僕の見たことのない種

2009・3・25
「微笑み」
ラオスの山奥の
少数民族のテレビ番組を観た
農耕や山の産物で生計を立てている
テレビも無く自動車も無い
そこにあるのは
日本人が失った
底抜けに明るい微笑みと
温かく深い人間関係
何も無いけれど
零れるほど溢れている
日本人が失った
とても大切なものたち

2009・3・24
「進化」
緩み固まり
緩み固まり
緩み固まり
同じような
繰り返しで
進化は始る

2009・3・23
「自宅療養」
元気な自宅療養には
学校を休んだのと
同じような時間が流れる
仕事をする訳にもいかず
遊び呆ける訳にもいかず
首を出したり縮めたり
沼底で動かない亀のように
一日を過ごしている

2009・3・22
「軍隊のように」
僕が病室を去るとき
僕を助けるものたちも去る
まるで軍隊のように
タオル、歯ブラシ、箸、茶碗
ティシュ、靴下、洋服、下着
携帯電話、パソコン、メガネ
石鹸、シャンプー、手帳、ボールペン
僕と行動を共にする
ありとあらゆるものが去る
あたりまえのことだけれど
なんか不思議な感じもする

2009・3・21
「力」
自然が力をくれる
大きく空気を吸い
美味しく命を頂き
清らかな水を飲み
体をスポンジのように
ほぐせばきっと
自然が力をくれる
祈りが力をくれる
スクラムを組むように
声を合わせるように
水の流れのように
祈りが力をくれる

2009・3・20
「捨てる」
ひとつ捨て
ふたつ捨て
みっつ捨て
病室のベッド
軽くなってゆく心
淋しくなってゆく心

2009・3・19
「いただく」
静かな病室で独り
ご飯をいただく
海で泳いでいた魚をいただく
根を下ろしていた野菜をいただく
温かいお茶をいただく
洗濯されたパジャマとシーツ
清潔なベッドで寝させていただく
じっくりと考えると
「いただく」ことに
包まれている
幼いときから老いた今まで

2009・3・18
「緩んだ靴紐」
靴紐が緩んだまま
歩いている
凸凹道を
歩いている
結び直しても
すぐに緩んで
ポコンポコンと
歩いている

2009・3・17
「どうしてどうして」
どうしてどうしての世界に
僕は歩いてゆく
どうしてどうしてと呟きながら
僕は歩いてゆく
もともと答えなどなかったのだろう
そう言い聞かせながら
気がつくと
どうしてどうしてと呟いている

2009・3・16
「逢えなくなる」
逢えなくなる
力よりも大きなものに
阻まれ裂かれて
声が届かない
触れられない
現実と夢の隔たりのように
逢えなくなる

2009・3・15
「マラソン」
時間とマラソンをする
いつも追い越され
いつも引き離され
今日も一日が終わろうとする

2009・3・14
「時間を食べる」
僕が眠ると
僕の手足も眠る
僕が眠ると
僕の部屋も眠る
読みかけの本
閉じられたパソコン
外された眼鏡
動いているのは
目覚まし時計と腕時計
僕が目覚めると
僕の手足も目覚め
僕が目覚めると
僕の部屋も目覚める
僕が眠っていても
僕が目覚めていても
世の中は動き続ける
眠りもせず
目覚めもしないで
貪欲に時間を食べている

2009・3・13
「ご褒美」
芸を仕込まれる犬のように
すこし痛みに耐えるだけで
ご褒美をくれるようだ
ご褒美だけを楽しみに
僕はお座りを続けている

2009・3・12
「小さな芽」
小さな芽が出ている
今のところ
気づいているのは
春の雨だけ

2009・3・11
「プロ」
プロとは言い訳をしない人と
聞いたことがある
また
プロとは自分を騙さない人と
聞いたこともある
自分にまつわる事実から逃げない
水のように
樹のように
火のように
プロはそのままの姿で
あるべきところにあるのだろう

2009・3・10
「言葉」
言葉が何の役に立つのだろう
言葉にどれだけの力があるのだろう
そう思いながらも話し続けている
ガラスの向こうの風のように
少女の長い髪を揺るがすこともない
言葉が何の役に立つのだろう
言葉にどれだけの力があるのだろう
そう思いながらも話し続けている

2009・3・9
「暴風警報」
僕から流れ出た悲しみは
僕に留まらずに
僕の周りに沁み込んでゆく
台風の目に風が無いように
僕は静かなのに
僕の周りでは
暴風警報が出ている

2009・3・8
「僕の道」
受け入れるしかない
もう受け入れている
僕を愛する人たちよ
もう僕は決めている
この道を進むことを
だからもう
笑って見ていておくれ
どんな道か解らないけれど
これが僕の道だから
笑って見ていておくれ

2009・3・7
「夕暮れの約束」
時計ばかり見ている
あなたのことばかり
思っている
僕の心を占領している
夕暮れの約束

2009・3・6
「写真の中の笑い」
写真の中で笑っている僕
肩を組んで笑っている
少し前のことなのに
遠く遠く感じる
写真の中で笑っている僕

2009・3・5
「待っている」
深い闇にいる
霧中にいる
じっと待っている
何処に僕はいるのか
解らないまま
呼吸を整えて
じっと待っている

2009・3・4
「祭り」
春の猫が鳴いている
青春のころ
僕も猫のように彷徨った
心というより
体の奥からの哀しみに
昼も夜も
独楽のように回転していた
青春が祭りなら
ここにあるのは
祭りの終った夜の黙
目を閉じて思い出す
映画のような哀しみ
笑っていても
思い出すと
すべて哀しみになる
この世の祭り

2009・3・3
「喜怒哀楽」
夢の中でも
喜怒哀楽
目覚めてからも
喜怒哀楽
人間は
喜怒哀楽の好きな
生き物なんだろうな

2009・3・2
「春の先取り」
暖かくなったり
肌寒くなったり
春を待ちくたびれそう
でも
みんなみんな
声も弾んで
もう春の先取りをしている

2009・3・1
「三月」
咲きそうな花の蕾のように
三月は光を頬張っている
ボタンを飛ばしそうなほど
僕たちの心も
膨らませようとしている

2009・2・28
「二月」
二月が終わる
淡い影のように
低く呟く
独り言のように
二月が終わる

2009・2・27
「浮遊」
息を吐くと
緊張が緩み
無重力の中に
浮き上がる
幸せと不幸せの間の
真空の隙間に
胎児のように
僕は浮いている

2009.2.26
「蝶」
菜の花畑で出逢い
菜の花畑で別れて
静かに忘れてゆき
それぞれの夜に
眠っている蝶
過ぎ去ったものは
夢となり
夢として消える
菜の花畑に風が吹き
菜の花畑は揺れて
飛び跳ねる光の中を
何もかも忘れて
蝶が舞っている

2009・2・25
「大道芸」
来る日も来る日も
僕たちは
同じ公園の隅っこで
大道芸をしているのだろう

2009・2・24
「かりそめ」
何処からか
何時からか
解らないけれど
何もかもが夢のように
かりそめになってゆく
ビーズの糸がプツプツと切れ
転がってゆくとりどりの色
それぞれに色あせてゆく色
意思のような
惰性のような
夢から醒めたいのに
夢から出られない
かりそめの世界に
閉じ込められている

2009・2・23
「風見鶏」
意思を持たないように
風見鶏は風任せ
春寒の空で
クルリクルリと風任せ
何もかも捨て
意思さえ捨てて
クルリクルリと風任せ

2009・2・22
「走ろう」
行き止まり
どの道も
行き止まり
ペダルを軽く踏んで
風を感じて走ろう
星を見上げて走ろう
この道を
豊かにして
走ろう走ろう

2009・2・21
「水になりたい」
清らかな水となり
君の手に触れたい
柔らかに掬われて
輝きとなり零れて
忘却に染みてゆく
儚い水になりたい

2009・2・20
「長い一週間」
長い一週間である
過ぎ去ることを願えば
のろのろとのろのろと
月火水木金土日
のろのろとのろのろと
月火水木金土日
壁の時計は同じ速さで
回っているのに
心の時計は
遅くなったり
速くなったり
長い一週間である
過ぎ去ることを願えば
のろのろとのろのろと
月火水木金土日
のろのろとのろのろと
月火水木金土日

2009・2・19
「ひとりぼっちのドライブ」
アクセルを踏んで
カーブを曲がる
ひとりぼっちのドライブ
狂ったナビゲーターは
意味の無い言葉を繰り返す
どこに向かっているのか
解らないまま
ハンドルを握り
アクセルを踏み
直進し曲がり
どこまでもどこまでも
ひとりぼっちのドライブ

2009・2・18
「夢遊病者」
どこを歩いているのか
判らなくなる
現実なのに
夢のような感覚になる
深い雪の原野を
歩き続けるように
終わりの無い錯覚
自分であって自分でない
どうでも良いようなのに
歩かなければと叫んで
夢遊病者のように
歩いている

2009・2・17
「この道」
足元だけを見て
この道を歩こう
この道どこに続くなんて
考えない
石がありば
少し座って休もう
そしてまた
この道を歩こう
神様が導く道だから
素直に歩こう
足元だけを見て
この道を歩こう

2009・2・16
「時計の針」
時計の針は
チクタクチクタク
いつも変わらす
チクタクチクタク
楽しみも
悲しみも
時計の針の先から
現れては消える
縄跳びをするように
僕たちは
時計の針を
跳んで跳んで
昨日から今日へ
今日から明日へ
跳んで跳んで跳んで

2009・2・15
「未来」
僕の手の中に未来は無い
犬の餌のように
置かれた未来を食べて
とぼとぼと歩くだけ

2009・2・14
「静かな別れ」
すれ違う電車に
君が乗っている
きっと来るだろう
そんな日がきっと
電車は走る続けて
夕暮れて夜になり
どうしょうもない別れを
埋めてしまうだろう
僕の感傷を
引き千切り捨て去り
すべては夢さながらに
形を留めることなく
風に消えてゆく

2009・2・13
「樹海」
樹海に居る
ここに来るまでは
喧騒の街に居た
樹海では
青い空と
空に伸びる樹木だけ
歩いても歩いても
自分の位置が定まらず
浮き上がってしまう
歩き疲れて歩き疲れて
樹海に眠る
真っ白になって
樹海に眠る

2009・2・12
「ある予感」
肉食動物のように
揺れる草の陰に
身を潜め
お前は音を立てず
鋭い視線を
僕から離さず
近づいて来るのか
逃げられない距離を
じりじりと詰めて
風下の方から
息の音もさせず
頭を低く低くして
そのとき
一陣の風が吹いた

2009・2・11
「ある風景」
万博公園を東から北に
弧を描くように
モノレールは走る
二月の公園のすべては
明るい光を受けながら
まだまどろんだように
動くものも
音を立てるものもない
モノレールだけが
枝を這う毛虫のように
ゆっくりと動いている
二月のそんな風景は
僕の心を癒す
偽薬のように
優しく広がっていた

2009・2・10
「願望」
この世の中で
新幹線
高速道と
僕たちは
飛ぶような
スピードを手に入れた
でも人生は
大地を踏んで歩くように
自転車で風を切るように
全身で感じて生きたい
ゆっくりでもいいから
時間を咀嚼して生きたい

2009・2・9
「浮いて流れて」
今 僕をとりまく
あらゆるものの愛を
ひしひしと感じる
僕はその関係の中で
僕として生きていたのだ
過ぎ去っていったもの
今ともにあるもの
明日新しく繋がるもの
僕はいろいろの関係の中に浮いて
これからも流れていくのだろう
僕がこの世に生きている限り

2009・2・8
「乳白色の世界」
乳白色の中で
生まれ
生きて来た
そして
乳白色の中で
老いて
目を閉じようとしている
ありがとう
僕を包んでくれた
乳白色の世界よ
僕を愛してくれた人たち

2009・2・7
「一片の雪」
一片の雪として生まれ
一片の雪として消える
ひらひらひら
ひらひらひら
空から大地へのひと時を
踊りながら落ちてゆく
ひらひらひら
ひらひらひら
一片の雪として生まれ
一片の雪として消える

2009・2・6
「シクラメン」
水も遣らずに
庭の隅に
ほったらかしにしていた
シクラメン
枯れないで
ピンクの花を
ひとつつけて
2月の光を受けていた

2009・2・5
「幸せ」
走った走った走った
間に合った
寒いのに
汗をかいていた

2009・2・4
「予想通りに」
コンパスで
円を描くように
何のハプニングもなく
予想通りに
予想通りに
何もかもが進んでゆく

2009・2・3
「炎」
マッチの炎の
一瞬の真実
何もいらない
それだけでいい

2009・2・2
「仕事」
テレビで
言っていた
仕事とは
自分を
偽らないこと
今日一日の僕を
振り返っている

2009・2・1
「霧の先」
充血した目で
何を見ている
霧の向こうに
待っているのは
くねくねくねの
細い崖道だろうか
下萌えの始まる
広い草原だろうか
それとも
平凡な会話の
山里だろうか

2009・1・31
「やじろべえ」
いつものほほん
いつものほほん
いつもばたばた
いつもばたばた
僕の人生やじろべえ

2009・1・30
「痛い眩しさ」
手術を終えた目に
光が眩しい
光が痛い
一四階から見下ろす
万博公園の太陽の塔
駐車場のさまざまな車
公園から続くビルの街
眩しく痛い眩しく痛い
目に入るものすべて

2009・1・29
「虚実」
劇のように
筋書きがあり
車椅子に乗っている僕
どこまでが劇で
どこまでが現実なのだろう

2009・1・28
「徒労」
同じ言葉を繰り返し
同じ動作を繰り返し
箱の中を動き回る虫のように
時間だけが過ぎ
何も変わらない

2009・1・27
「状況」
引くことも
進むことも
出来ない
歯車が動いて
近づいて来る
得体の知れないもの

2009・1・26
「冬樹」
楕円形の樹形の
そのすべての枝の先で
冬樹は待っている
春の訪れを
今日の僕は
どういうわけか
解るような気がする
黙っている冬樹の心を

2009・1・25
「どこまで行っても冬」
どこまで行っても冬
晴れたり曇ったり
人々と擦れ違って
信号を渡って
どこまで行っても冬
歩道の花を見ながら
暖簾の揺れる
ラーメン屋を素通りして
百円ショップの自転車を避け
どこまで行っても冬

2009・1・24
「冬の魚」
冬の魚のように
じっとしている
水は堅い音を立て
冷たくきらめいて流れる
冬の魚のように
じっとしている
何もかもから
取り残されるまま
じっとしている

2009・1・23
「ニヒルな階段」
酔っ払いが階段を下りてゆき
今日の一日が何となく終る
誰もいなくなった階段は
闇から闇に無感動に延び
ニヒルに明日を待っている

2009・1・22
「崩れ」
氷が崩れる
ひとつ
またひとつ
何かを忘れ
情熱を失い
枯れてゆくように

2009・1・21
「錯綜」
錯綜の中に
縺れた僕が蠢いている

2009・1・20
「腐っていく水」
ガラスの器で
腐っていく水
言葉を失い
透明を失い
未来を失い
ガラスの器を
斑に曇らせて
腐っていく水
始まりを忘れ
揺れることを忘れ
腐っていく水

2009・1・19
「冬の蟻」
今日の迷路へ
真っ直ぐな朝の道を
真っ直ぐと冬の蟻
今日の迷路は
セメント迷路
抜け出た時は
とっぷりと夜
冬の蟻は
黙って巣穴に
消えてゆく

2009・1・18
「薄っぺらな一日」
人込みを歩いて
人込みを抜けただけ
何も変わらない
汚れただけの靴
乾いた夜になり
時計の針から
かさかさと落ちる
薄っぺらな一日

2009・1・17
「夜の沈黙」
無数の独楽が回っている
鉄軸を中心に
無数の人間が立っている
欲望の渦を広げて
独楽はころころ転げ
渦はさらさらと消え
夜の沈黙が深くなる

2009・1・16
「すかすか」
すかすかのまま
すかすかのまま
歩いている
変えようともせず
変わろうともせず
すかすかのまま
すかすかのまま
歩いている

2009・1・15
「静かなものたち」
吹雪の止んだ山麓
針の動かない時計
ラッシュアワーの車内
深夜のネオンサイン
カチと締まるドアの鍵
無人の部屋のカーテン
無風の日に咲いた花
蜘蛛のいない蜘蛛の巣
ひとつだけ光る木守り柿
夜の海に流れる川・・・
私たちの回りにある
静かなものたち

2009・1・14
「大病院」
大病院は
工場のようです
病んだ人たちは
検査の
ベルトコンベヤーに乗って
修理の
ベルトコンベヤーに乗って
くるくるくるくる
工場の中を回っている

2009・1・13
「気づき」
何も変わらない
風化しているだけ
誰も気づかない
微動しているだけ
僕たちが気づくのは
いつも
取り返しのつかない
時と場所で突然

2009・1・12
「贅沢」
動物園の
夜行動物のように
引き篭っている
誰とも話さず
巣に眠るように
過ぎてゆく時間
それもまた
贅沢な幸せなもの
きっとそうだろう

2009・1・11
「綱引き」
綱から手を離せば
楽になるのに
綱を離さないで
汗を流し
血管を浮き上がらせている

2009・1・10
「誕生日」
テーブルにローソクの立つ
二つのバースデイケーキ
孫とばーちゃんの誕生日
プレゼントが開かれ
なんだかんだと騒いで
過ぎてゆくひととき
寒波がやってきて
凍った夜に
誕生会の窓の灯の
淡い温かい橙色

2009・1・9
「宵恵比寿」
宵恵比寿の宵闇道は暖かい
福笹の揺れる音
声を掛け合う親子連れ
手を繋ぐ恋人たち
並んだ夜店の淡い灯
僕たちは
僕たちに向って
歩いていた
ふたつの孤独に向って
歩いていた
宵恵比寿の賑わいを離れ
高速道の堅い黒い陰に沿い
夜の川の音を聴きながら
命の零れ落ちるままに
僕たちは歩き続けた
答えはない
結論もない
今という時間を
熱く熱く求めるだけ
宵恵比寿の夜店の灯のように

2009・1・8
「薄緑」
倒木の間から
薄緑が見える
小さな小さな希望
動くものはない
雪風巻く斜面で
微かに呼吸している
大地の温もりを
知らせようと
微笑している薄緑

2009・1・7
「壊れた玩具」
冬の川底で
魚は動かない
石の陰に
蹲っている
流れている
流れている
色彩を失った水
感動を失った水
朽ちていくもの
風化していくもの
窓ガラスの向こうに
そんな時間が流れている
壊れた玩具を抱いて
子供が佇んでいる
夕焼けも消えて
希望のような
絶望のような
深い深い闇の中で

2009・1・6
「海底の貝」
海底の海草まみれの
平たい石の下で
貝は生まれてから
ずっと棲んでいる
薄目を開けて
貝がらの間から
海を見ている
傷つき易い貝は
近づく影にも怯えて
瞬目のように閉じる
小さな闇の中で
息を凝らしている
海の底は
そんな貝たちが集まり
退屈な時間を作っている

2009・1・5
「追い詰められる」
人間の世に生きるから
人間の世に追い詰められる
表情を失っている
動物園の動物たち
ラッシュアワーの
箱に閉ざされた人たち
定刻に鳴るベル
ベルトコンベヤーの
エスカレーター
立ち止まらせる
さまざまな電子音
大きなハンコの押された
書類たち・・・
目の前に吊り下げられた
人参を追う馬
走っても走っても
人参に届かない
草原の馬は
なぜ走るのだろう
花や緑が風に揺れるから
太陽の光が零れるから
人間の世に生きるから
人間の世に追い詰められる
人間は人間になりえないのか

2009・1・4
「真っ白の地図」
何も見えない
この壁を
攀じ登らねば
誰も知らない
誰も教えてくれない
その向こうには
どんな世界があるのだろう
予言など
聞きたくはない
予言など
信じない
真っ白の地図を握って
それからのこと
それからのこと

2009・1・3
「水の詩集」
詩集を頂いた
それは水の詩集
どこを開いても
聴こえてくる
水の音
どこを開いても
目に優しい
水の輝き
心から心への
柔らかなせせらぎ

2009・1・2
「ひとりぼっちのマラソン」
マラソンをしている
競争じゃないマラソン
歩いても良い
腰かけても良い
雲を見ても良い
風と話しても良い
うつらと眠っても良い
幸せを感じながらに
幸せに向っていく
ひとりぼっちの
マラソンをしている

2009・1・1
「恋の雪」
雪のように
想いゆらゆら
暗い空から
想いゆらゆら
海の雪のように
積もることなく
現われて消え
現れては消え
名前をつけるなら
恋の雪
積もることなく
現われて消え
現れては消え