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第2回旅物語コンテスト 結果発表

  総評  
     
    この度は、第2回旅物語コンテストにご応募いただき、ありがとうございました。応募総数111作品に上る作品を厳正に審査した結果、上記の作品を選出いたしました。

 旅をテーマにした物語をコンセプトとした今回のコンテストには111作品の応募があった。男女別では6割を女性が占め、年齢別では20代、30代が半数を占めた。女性が多かったのは旅行に関しては女性のほうがアクティブなためかとも思われ、なるほどという印象もあったが、年齢層が若い世代に多かったのはやや意外な感じを受けた。旅行というと時間が自由になるシニア層が多いがこうした旅物語を書くことへの意欲は若い人も劣らずということだろうか。頼もしい限りである。
 しかし、内容的に言えば、やや不満が残る。全体的な印象としてはややレベル的に低調な感じである。旅というテーマには、様々な示唆も含まれるが、全体としてはやはり作者自身の旅行体験記といったものが多かった。時系列的に旅先での行動や経験したできごとを綴っているだけといった内容が多かったようだ。これでは書いた本人は満足であるのだが、一般読者に読ませるものとしては力不足になる可能性が大きい。
 正にその典型といえるのが、「花も嵐も」。内容は北海道や東北地方など各地をバイクでツーリングした経験を書き綴ったもので、文章もしっかりとしており、無難にまとまっている。内容的には興味深いエピソードもあって、もっと作者のキャラクターを前面に出して読者に訴求すればよいのに、どうしても自己満足の内容という域を超えていないため、残念ながら入選にとどまった。
 一方、旅に独自のテーマを設定して面白みが感じられたのが「ミャンマー13デイズ」、「上海DUST」、「旅は犬連れ 〜シャーリとのアシャッフェンブルグ留学記」の3作。「ミャンマー13デイズ」はミャンマーというなじみがない国に行ったという稀少さもポイントであるが、掲載される写真、イラストの情報量にも注目した。その反面、文章に弱さを感じた点は残念。「上海DUST」はやや珍道中的な内容で、コミカルに描いている点が興味深い。しかし、著者自身があまり楽しめなかったため、内容にも愛着が感じ取れなかった点が印象を弱めた。「旅は犬連れ」がドッグスクールのためにドイツに滞在するという著者の体験はなかなか貴重な情報となっている。犬の目線で書いた途中の文章も内容に変化をつけてアクセントになっているが、前半とのバランスが賛否をわけた。
 以上の作品が今回の入選作となったがそれぞれに一長一短あって、結局一席は該当なしとすることになった。テーマや切り口が面白くても文章力が弱いため選に漏れた作品などもあり、今後は旅物語の中でもやはり基本は文章力であることを認識して次の作品に期待したい。
 
     
  入選  
  [賞状、図書券3000円分]  
  「ミャンマー13デイズ」 江月 けい (台湾)  
   ミャンマーという日本人にあまり馴染みがない国を旅した思い出を綴った作品。ミャンマーという国は情報量が限定されているだけに、どこか神秘的なイメージがある。有名なゴールデンロックの不思議な光景もそうしたイメージを増幅しているのだろう。著者はできるだけ率直に見たままを綴っているので、そうした神秘的なイメージとは別の親しみやすい部分も読み取れる点は、本書の魅力といえる。
 文章自体は軽快で読みやすく、親しみやすい。しかし、イラストや写真の力の前に文章自体はかすんでしまいがち。もっと、写真、イラスト、文章のバランスを練って構成したほうがよい。内容的にはミャンマーという国の一面がよく伝わってくる点はよいが、どうしても表面的な印象がぬぐえない。文章による情報も少なく、それだけで一般読者に読ませるとなると厳しいものがあるかもしれない。
 
     
  「上海DUST」 かなや ちえ (東京都)  
   叔父の結婚式に参加するため、上海を訪れた著者が経験した珍道中。見知らぬ土地で、違う世代の同行者たちと一緒になって繰り広げるドラマが興味を覚える作品である。作者が上海という異国の地で新たな結婚生活を始める叔父に対して寄せる優しい目線が特に印象に残った。その意味では旅行記としてよりも、人間ドラマとして、たまたま上海を舞台にしたといったスタンスのほうが読者としては理解しやすいところかもしれない。
 上海に行くきっかけが著者の強い意思に基づいたものではないため、仕方がないところかもしれないが、全体的に上海に対しての愛着といった部分が希薄である。面白いエピソードもあるが、全体的に暗い雰囲気に終始してしまった。著者自身があまり楽しめなかった旅行記は読者が読んでも楽しめないのは当然である。しかし、そうしたマイナス面さも笑い飛ばすくらいのパワーがほしかった。
 
     
  「旅は犬連れ〜シャーリとのアシャッフェンブルグ留学記」 かわはら しづか (東京都)  
   犬を連れての犬学校へのドイツ留学という内容がユニーク。そのユニークな内容を犬の視点から体験記として描いている点が最大の面白みとなっている。著者の愛犬に対する愛情もひしひしと感じられる点も魅力といえるだろう。旅行記、滞在記としての魅力に加え、犬と一緒に海外旅行をするさいの留意点、手続きの問題などを知るうえでも貴重な実用書としても読める。
 内容は犬学校での様子が中心となっている。犬が物申せばかくもありや、といった趣は充分伝わってくるし、上品なユーモアも感じられる点など、全体的に過不足がない作品といえるだろう。著者の視点で書いた部分と犬の視点で書かれた部分の書き分けの基準がいまひとつ分かりにくい印象だが、全体的に好感度は高い。しかし、前半の実用書的な情報をもっと前面に出し、日本や海外の事情の違いによる、犬連れ旅行の悪戦苦闘振りなどの情報を増やしたほうがよかったように思う。
 
     
  「花も嵐も」 松本 和博 (三重県)  
   バイクにまたがっての一人旅。旅先で知り合う土地の人々や景色を織り交ぜて、著者の感動が生き生きと伝わってくる点は旅行記の王道的な作品と言ってよいだろう。しかし、実はそうした王道的な展開こそ、一般読者に読ませることが最も難しいといえる。著者としては旅先での思い、感動を率直に綴り、相当な満足感を得られたに違いない。そのこと自体は尊重しなければならないが、一般読者に読ませるとなると、著者の自己満足だけではすまされない、何かが必要となる。旅行先に関する貴重な情報といったものが必要になるわけだ。本作品が旅日記に終始しているため、一般的な内容に終わっている点が残念である。例えば、旅先で知り合った駐在署の巡査のエピソードなどは印象的な話になるが、全体のエピソードが満遍なく綴られていて、メリハリがなく埋没してしまった。悪いところはないが、特に山場となる部分もないところが惜しまれる。  
     
  2005年12月吉日
株式会社 碧天舎
第2回旅物語コンテスト選考委員会
 

 

 

     
 
応募要項 碧天舎