「
何彼」と書いて「なにか」と読む。
「何」は「わからないもの」を指す代名詞で、「彼」は漠然とモノを指す代名詞なんだそうだ。
で、「何彼」は「
いろいろの事物・事態をひっくるめて指し示す。あれやこれや。何やかや」ということだ。『大辞林』
*に寄れば。
辞書で調べて初めて知ったのだが、「何かと言えば」というフレーズは、実は「
何彼といえば」と書くのが正しいのだった。「
何かにつけ」も同様。
「何彼」自体はちょっと難しい単語の部類に入ると思うが、「何やかや」あたりは普通に使われる表現ではないか。「なんかかんか」「なんとかかんとか」「なんだかんだ」まで砕けてくれば知らない人はいないだろう。
秋田弁では「
なんだがかんだが」というのがある。
では逆に、「
なんだがかんだが」に相当する表現はどれだろう。
用例を考えてみよう。
「代りの部品ないかなぁ」
「うーん、俺の工具箱でも漁れば、なんかかんかあると思うんだけど…」
このケースでは「
なんだがかんだが」は使えない。「なんかかんか」ではない。
「お疲れ様。今日は荷物が多いから大変だったでしょう」
「まぁね。暇そうなのがいたから手伝ってもらって、なんとかかんとか終わったよ」
このケースでも「
なんだがかんだが」には置き換えられない。しかし、
「○○さんから言づてあったんでしょ!?」
「あぁ? そう言えば、なんとかかんとかっつってたなぁ」
「ちゃんと聞いといてよね」
ならば、
「○○さんがら言づであったんだべ!?」
「あぁ? そうせば、なんだがかんだがって言ったったなぁ」
「ちゃんと聞いどいでけねば」
これは OK。置き換え可能だ。
どうやら、「
なんだがかんだが」は人の台詞の代用として機能するようだ。
では、「なんだかんだ」はどうか。
「全くウチのカカァときたら、なんだかんだとうるさくてかなわねぇや」
なぜか江戸弁になってしまったが、ここには「
なんだがかんだが」は使えない。
話を整理しよう。
「
なんかかんか」は、「モノ」を指す表現である。
「
なんとかかんとか」は、何かの手段と、人の台詞の代用である。
「
なんだかんだ」は、人の台詞の代用ではあるが、内容は問わない。「ウチのカカァ…」の例文でも分かるように、焦点になっているのは「何かを言う」という事実であり、
「何を言ったか」は重要な問題ではない。「なんとかかんとか」は、忘れてしまっているとはいえ、焦点は言った内容にある。
別の言い方をすれば、「なんだかんだ」と表現した場合、聞かれない限りその内容を思い出す必要はないが、「なんとかかんとか」の場合は、原則的には内容を思い出すことが要求される。
一方、「
なんだがかんだが」は、「なんとかかんとか」と似ているが、人の台詞の代用としてしか機能しない。
ちょっと回り道をしたが、「
なんだがかんだが」と同じ働きを持つ表現は存在しないことが分かった。
「
なんだがかんだが」の代りに「なんとかかんとか」を使うことはできるが、「なんとかかんとか」を無条件に「
なんだがかんだが」に置き換えることはできない。
また、「な―か―」の形で、「なんかかんか」「なんだかんだ」に相当する表現は秋田弁には無い。
そっくりだけど違う、という話は「
丸い卵も切りよで四角」「
似て否なるもの」でも取り上げた。「『ふきのとう』のことを『
バッケ』と言います」いうような明らかな違いよりも、こっちの方が面白いと思う。