Ian Bostridge主演のDVD『Winterreise』に見られる解釈

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画面にはおよそ以下のようなアクションが現れる.

1. おやすみ

カメラが薄暗い部屋に入っていく.誰も見えない.やがて,部屋の隅にうづくまり,薄暗がりから目だけをギラギラ輝かせているBostridgeが現れる. 

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Was soll ich länger weilen,... の歌詞にさしかかって,やおら立ち上がり,壁伝いににじり進む.

2. 風見の旗

窓のカーテンを引き千切る.

3. 凍った涙

はじめは立っているが,歌い終わるところで崩れ落ちる.

4. 凍結

懐からナイフを取り出し,壁の羽目板をはずし,そこから枯れ枝を引き出す.

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その後,壁にもたれるようにして立ちあがり,枯れ枝を持って部屋の中央に移る.その際,ナイフを落とし,それは床に真っ直ぐに突き刺さる. 曲の終わりでは,椅子に座る.

5. 菩提樹

床に突き刺さったナイフを前にし,両手に枯れ枝を持ち,椅子に座っている. 1番が終わったところで,枯れ枝を床に落とす.

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「冷たい風が」が始まる前にまず枯れ枝を蹴飛ばし,次に椅子を蹴飛ばす. 曲の終わりで横たわる.


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6. 洪水

横になったまま歌う.

7. 流れの上で

焚き火が燃え,その後ろに座っている.

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やがてロウソクを持った女が入ってきて,窓からは男,さらには別のドアからは飲んだくれた男が入ってくる.Bostridgeはあたかも彼らが見えていないかのように振舞い,椅子に座りつづける.


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8. 回想

Bostridgeはピアノの横に座って歌っている. 前曲で現れた人物たちが窓から入ってくる雪のなかで歓談している.

9. 鬼火

ここからWhite out の状態で,背景はすべて白色になる. Bostridgeはまず後ろ向きに立っていて,振りかえってから歌い始める. 「Bin gewohnt...」から左を向いて歌い,「Durch des Bergstroms...」から右を向く. やがて,Bostridgeをアップで写し,その後,カメラは引いて行く.

10.憩い

焚き火の後の炭を前に座り込んで歌う.

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11.春の夢

白い壁を背に,そこに寄りかかって歌う. 「Und als die Häne ...」から下を向く. 「Doch an den Fenster...」から頭を上げる. そして,今度は座って壁によりかかる. 2番は座ったまま歌う.

12.孤独

横向きに少しずつ歩きながら歌う. 目は上目づかい.

13.郵便馬車

白い背景から走り出てくるようにして歌い始める. 2番は白い壁際に走り寄ってから歌い始める. 歌い始めで手前に歩きながら,炭で黒い線を引く. 歌い終わって,今度は背を向け,引き下がりながら一気に線を引き,炭を投げ捨て,うなだれる.

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14.白髪

目の前に掲げたナイフを見つめながら歌い始める. 「Doch bald ist er ...」でナイフを持った手をだらりと下げる. 2番が始まって,再びナイフを目の前に上げ,凝視する. 「Wer glaubt ...」でナイフを持った手をだらりと下げる.

15.カラス

上着のすそを左右に広げた形で,膝を立て,両手を後ろについて座っている.黒い服の様子をカラスに見たてている.

15-01


この状態で歌い,最後にはカメラが移動しBostridgeの姿は画面から消える.

16.最後の希望

まず,あたりをぐるりと見渡す.葉が風に飛ばされるところで,Bostridge自身が飛ばされて行く.

16-01

最後は,壁にもたれかかりながら崩れ落ち,床に完全にうつぶせの姿勢で死んだようになる.

17.村にて

足を手前にして横たわっている. 頭の方から,以前にも登場した5人が現れ,Bostridgeの方を探りながら近づいてくる.

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始めは上体を持ち上げて,彼らの方を伺っているが,やがてそれを無視して手前を向きながら歌いつづける. 「Ich bin zu Ende mit allen Träumen...」で人々はまた離れて行く.

18.嵐の朝

ピアニストと背中合わせの状態で歌う. Drakeはやや激しいアクションを見せる.

19.幻

ピアノの横で,横を向いて歌う.

20.道しるべ

膝を立てて座っている.

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「見つめる」という歌詞ではカメラは静止し,「行く」「道を行く」といった箇所ではカメラが移動する.

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21.宿屋

壁のくぼんだところに膝を抱えてうずくまっている. 歌の進行にしたがってカメラがしだいに近づく.

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「無慈悲な宿屋よ」の部分で最もアップになる. そして,再びカメラは引いて行く.

22.勇気

後ろ向きの状態で歌い出す. カメラが移動して顔を写すと,皮肉な笑いを浮かべている.

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やがて,椅子を持ち上げ,「愉快に外に出て行こう」の2回目の部分で椅子を窓ガラスに投げつけ,窓ガラスが割れる.

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23.三つの太陽

壁際に椅子を置き,その上に立ち手を後ろに広げて壁にへばりつくようにして歌っている.

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画面左側には大きな2面の窓がある. 歌の進行と共に,人物だけをアップにし,窓は視界から消える.

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それも,「最良の2つが消えてしまった」という歌詞を歌い終える瞬間に消える.

24.辻音楽師

壁際に立ち,終始その姿勢で歌う. 見えるのは横顔だけである. そして,壁にはその横顔の影がうつっている.

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最後にBostidge が立っている位置は,物語が始まったときにうずくまっていたコーナーであることがわかる.



いくつかの象徴

枯れ枝

枝は,未練を歌う4.「凍結」で取り出され,旅立ちを決意する5.「菩提樹」では途中まで手に握っている. その後,床に落とされやがては蹴散らされる. 未練を断ち切るための一種の儀式を表す7.「流れの上で」で,枯れ枝は燃やされ,10.「憩い」では炭となり,主人公がそれを眺めている. そして,恋人への未練を最終的に歌う13.「郵便馬車」ではその炭を使って往復の線を引き,最後に投げ捨てる. こうしたことから,〈枯れ枝・炭〉が〈失われた恋〉の象徴であることは明確である.

ナイフ

5.「菩提樹」では床に刺さったナイフを見つめている. 〈立ったもの〉という形で現れるモチーフは〈菩提樹〉〈道しるべ〉である.このナイフはそれを象徴している. また,14.「白髪」では,ナイフを〈死へと導く印〉として解釈すると,歌詞との対応で上げ下げする理由がわかる. 実際,20.「道しるべ」は次の21.「宿屋(墓場)」を指し示している.

椅子

5.「菩提樹」では,始め椅子に座っている.しかし,「冷たい風が」の箇所で蹴飛ばされる. 椅子はもう一度激しいアクションのところで現れる.つまり,22.「勇気」では,窓に投げつけられのである. 椅子が〈安らぎ〉ひいては〈死〉の象徴であると考えると,これはうまく説明がつく. 5.「菩提樹」では〈憩い〉を否定する風の場面で蹴飛ばされ,22.「勇気」では〈死〉を象徴する21.「宿屋」を否定する形で登場する.


「菩提樹」と全曲の関係

『冬の旅』の全体構想,での記述と一部重複するが,5.「菩提樹」に象徴されている内容をもう一度まとめておこう.

床に刺さったナイフに象徴される,立っている菩提樹 20.「道しるべ」
菩提樹が憩い(死)を誘う 21.「宿屋」
風が〈憩い〉を吹き飛ばす(椅子を蹴飛ばす) 22.「勇気」(椅子を投げつける)

さかさまな世界

15.「カラス」でBostridge自身がカラスの役を演じているのは非常にわかりやすい. この映像では,それと同様に,役割を逆転させているものが多い.

8.「回想」

歌詞では主人公が雪の中に出て行くが,村人が雪の中にいる.

15.「カラス」

Bostridgeがカラスに扮している.

16.「最後の希望」

前半は風に飛ばされる枯れ葉を演じ,最後は葬られる希望を演じている.

17.「村にて」

歌詞では,村人が眠りをむさぼっているが,ここでは立場を逆転させている.

20.「道しるべ」

Bostridge自身が見られる存在,つまり道しるべを演じている.そのことはカメラワークからも明らかである.

21.「宿屋」

Bostridgeが演じているのは無慈悲な宿屋の主人である.

23.「三つの太陽」

壁際の椅子の上に立った状態で,彼は三つのうちの一つの太陽を演じている.

24.「辻音楽師」 ここでは,Bostridgeが若者を演じているのか,辻音楽師を演じているのかは確定できない. つまり,影がそのどちらかを演じているからである. 若者が最後に出会う辻音楽師が自分の影である,というのは映像的に心憎いばかりの演出ではないか.