■ 大人の事情、子供の疑問。 ■

 

 「ねぇ、何で母さんはゼロスと結婚しないの?」 
 「!!っ」 
 フィリアは飲みかけの三時のお茶を吹き出しそうに成りながらも必死に飲み下した。 
 が、気管のおかしなところに入ってしまったらしく呼吸を乱しながら、目尻に涙をためたりしている。 
 そして傍らには自分も話題の人の筈なのに、表情を変えることなく余裕で茶など飲みながら、その背をさする獣神官。 
 「どこかで何か言われましたか?ヴァル君」 
 今だ気管の不調により、二の句が継げないフィリアに代わり、ゼロスが、質問を、質問で返す。 
 ヴァルが卵から孵って5年とちょっと。 
 その間ゼロスはひっきりなしにコプト家を訪れ、フィリアと犬もくわなそうなケンカなどしつつ、一家団欒っぽいことをし続けていたのである。 
 ヴァルもそんな状態を受け入れて居るように見えていたし(何せ彼が生まれてくる前から続いている光景だ)納得しているようにも見えていたので、今更このような質問が出ることがゼロスには不思議だった。 
 「うん。パン屋のおばちゃんに『あんたのママとあの神官様はどうゆう関係?』って聞かれた。」 
 ちなみに「パン屋のおばちゃん」とは町内に必ず一人は居るような『お見合いさせるのが趣味』といった人種である。 
 どうやらいつまで経っても独り身の、子持ちだが美人のフィリアとどこかの誰がしをくっつけて、自分の成功させたお見合い記録を伸ばそうと目論んだらしい。 
 「で、ヴァル君はなんて答えたんですか?」 
 「ラブラブって言っといた。」 
 無邪気な5歳児は笑顔で言った。 
 「何ですって!!!!!!!!!!」 
 呼吸困難から立ち直ったフィリアはモーニングスターを「びしっ!」とゼロスに突き出し。 
 「なんで私がこんな生ゴミ魔族と…ラ−−−−ラ−−−−ラ。」 
 反論するが、もつれる舌。 
 「ラブラブ」 
 真っ赤になって言いよどむフィリアの言葉をゼロスが代弁。 
 「ち、ち、違います!!!断じてそんなはずは有りません!!」 
 「やだな、フィリアさんそんなに照れなくても」 
 「照れてません!」 
 「でもオレ、ウソいって無いよ?母さんいつもチューとかしてるじゃん」 
 「あらら、見られてましたか?」 
 「ゼロス!!!!!!!!!!!!」 
 ぎっ!っと鋭い視線を向けるフィリア。 
 「まぁ、まぁ。純粋な子供の言うことですし」 
 そう青筋立てないでくださいよ、となだめに掛かるゼロス。 
 「しかし、それでいきなり『結婚』ですか?ヴァル君は僕がお父さんに成っても良いんですか?」 
 丸テーブル越しに、小さなヴァルに視線を合わせ問う。 
 表情には出さないが、内心は小さくガッツポーズ。 
 もう一押し。 
 数年越しのアプローチも功を奏さない今。子供の無邪気さをたてに無理矢理事を進行させるのも一つの手ですねぇ。 
 などと思っているゼロス。 
 「だって、パン屋のおばちゃんだけじゃないんだよ。他の人にも『あいつ何でお前んちに入り浸ってるんだ』って聞かれるんだもん『パパじゃないのにおかしい』とか言われるんだ、ゼロスのことそんな風に言われるの、なんかヤだ。」 
 多感な少年は、カップをぐっと握りしめながら不服を申し立てる。 
 その小さな身体からは、親しい者を否定された怒りが滲み出す。 
 そしてにじみ出た負の感情をちゃっかり味わいながら、ゼロスは『長年の苦労も水の泡って訳でも無かったようです』と、ヴァルが生まれてからの子守の日々などを回想したりする。 
 「これは僕も責任取らなきゃですねぇ」 
 「はい?」 
 「ヴァル君をここまで思い詰めさせたのは僕ですし、チューしてるところも見られちゃってますし」 
 「な、な、な………」 
 「僕のことお嫌いですか?」 
 「き、き、き………」 
 「嫌いじゃないよね、チューとかしてるもんね」 
 うるりと、純粋な瞳を向けるヴァル。 
 「チューとかしてますもんね」 
 ヴァルに習って「媚びっ」っとかわいらしく小首など傾げつつゼロス。 
 「してるんじゃありません!されてるんです!!!!!!いわばあれはセクハラです!!!!!」 
 「ですから、結婚しちゃえばセクハラでは無くなりますよ。ヴァル君もいわれのない恥辱を受けなくて済みますし、一件落着です。」 
 「貴方がここに入り浸らなければ良いんです!」 
 とかいつも否定の言葉を言うのだが、お茶の時間にはしっかりゼロス分のお茶菓子を用意するし、家にはゼロス専用の生活用品なんかも多々存在する。 
 子供の目から見ても。いや、大人の目から見てもこの二人は出来ている。と映る。 
 だから周りはいらん詮索をするし、ヴァルはこの宙ぶらりんな状況をもどかしく思う。 
 「え〜、嫌ですよ。僕はフィリアさんも、ヴァル君も好きですし」 
 「オレもゼロス結構好き」 
 「ヴァル!あんな生ゴミ魔族にそそのかされてはダメ!!」 
 ゼロスに笑顔を向けるヴァルを後ろから抱きしめ…と言うより羽交い締めにしゼロスをにらみつけるフィリア。 
 「そそのかされて無いよ」 
 「そそのかして無いですよ」 
 息もぴったりのゼロスとヴァル。 
 「いやあああぁぁぁ、ハモったりしないでぇぇぇ〜〜〜〜〜〜!!!!」 
 二人の息のあった攻撃に、フィリアは絶叫を残し二階へ目にも留まらぬ早さで駆け上がっていった。 
 
 
 
 
 

 ガチャガチャガチャ……………はぁぁぁ。 
 ふきふきふき…………ふぅぅ。 
 結局三時のお茶はフィリアの絶叫でお開きになった。 
 残された二人は溜息混じりで、カップなどの片づけをしていた。 
 「やっぱり、強引に話しを進めようとしたのが間違いでしたかね」 
 洗ったカップをヴァルに渡しつつゼロス。 
 相当の策士でもある獣神官であっても、ことフィリアに関しては狙い通りになかなか行かない。 
 「良い線行ってたと思うんだけどな…オレ。母さんだってまんざらじゃないよ。絶対」 
 受け取ったカップを拭きながら5歳児とは思えない、利発な意見。 
 「ええ、それは判ってるんですけどね、なんせフィリアさんは照れ屋さんですから素直になれないんでしょう」 
 そこが可愛いんですけどね。などと5歳児の前で惚気てみせる。 
 「まぁ、焦らずゆっくりやりますよ。何せ時間は僕に味方してくれますからね」 
 「魔族って結構有利だよね、でも時間掛けすぎてもどうかと思うよ、竜族だって一応年取るわけだし…」 
 人の一生と比べればまるで不老のような種族ではあるのだが、無尽蔵に在り続けられる魔族とはやはり違う。 
 「そしたらきっと可愛いお婆ちゃんになりますね、フィリアさんは」 
 どんなに時間が経とうと僕はフィリアさん一筋です。と言わんばかりだ。 

 結局何の進展もないこの二人。 
 二人はこの状態に満足しているようで、自分もそれはそれで結構だとも思うのだが、外野は放っておいてはくれない。 
 またこの二人の関係を他人に聞かれたら何と答えようか………… 
 「やっぱ、ラブラブって言うしか無いじゃん…」 
 本人達に聞く勇気の無い者達の質問の矛先は当分自分に向くのだろうと、ヴァルはそっと溜息するのであった。 
  
  
 完。 


2001/09/10 
これは書き殴りさんに投稿した物です。タイトルは改名しちゃいましたが。元は「ヴァル君の家庭の事情」ってなってました。 
書き出しは「ゼロフィリ〜ゼロフィリ〜」とか思っていたのに…思っていたのに……甘さのかけらも在りませんな(苦笑) 
誰か私にラブラブなゼロフィリを〜〜〜〜〜(涙) 
只今ゼロフィリ禁断症状中。 

戻る