■絶不調■




 今日はいわゆる厄日なのだろう。
 補足したはずのワイルドワンをロストしたり、自前のパームが動作不良を起したり。
 そんなだからいらつくのを通り越して、既に心は悟りの境地。
 などといえば聞こえはイイが要するに全てに「自暴自棄」
 だからここのところ俺の周りをうろちょろしているあのガキに声をかける気にもなったのかもしれない。

 「そこのお前、何か用なのか?」
 都庁前で首を絞め上げて以来このガキは俺の周りをうろちょろしている。
 始めはそれなりにこちらに気づかれないよう工夫しているようでもあったが、所詮は素人のストーキング、気づかないはずも無い。
 今日も飽きずに俺の後をちょろちょろ付いて回る。新宿中央公園も中ほどに来て、流石に我慢の限界。
 「あはは、バレてました?」
 言葉とは裏腹に、何処か見つけて欲しかった風がある声色で物陰から出てきた。
 やはり声を掛けなければ良かったかと、心の隅で一瞬の後悔。
 「ばれるも何も、そのオレンジのジャケットでは目立ちすぎるとか考えないのか?リ・ケンリョウ君」
 嫌味もこめてことさら名前のほうに力をいれて発音する。
 「ジェンリャです」
 狙い通り「ムッ」として訂正。
 こちらの調査では知的レベルの高い少年とのことだったが、やはり子供。
 思い通りの反応。
 「ヒトの名前を故意に間違えるのは、貴方が僕を故意に否定しているという事になりませんか」
 「少しは頭が回るようだな、その通りだテイマー」
 大体俺はガキが嫌いなのだ。
 厚かましく、無知。利己主義で、無神経。
 あんなものは百害あって一利無し。
 こいつがテイマーでなければ一生口など利かなくても済んだものを。
 今からでも遅くない、こいつとの不愉快な会話を終わらせるべく、視線を外し立ち去ろうとしたその時。
 「あんたは、全てに対してそうなんだな」
 背後から知った風な台詞が投げかけられた。
 振り返ると、何時の間にか花壇の端に乗り目線を同じ高さにした、李健良がこちらをまっすぐ睨んでいる。
 「なに」
 「貴方は何に対しても否定的だって言ってるんですよ」
 ズボンのポケットに両手を突っ込んだまま、花壇を伝って歩み寄る。
 猫のような運動神経だと思いながら、報告書の「趣味:カンフー」の文字を思い出していた。
 「テイマーに対しても、デジモンに対しても、貴方は真実を知ろうとする前に、偏見をもって僕たちを誤解したまま否定するんだ」
 俺の目の前までくるとぴたりと歩みを止め。
 「あんたは何でデジモンを殺すんだ」
 はっきりとした低い声。
 「今や、世界はネットワークで成り立っていると言っても過言ではない。そのネットワークを乱す可能性のあるものは悪だ。」
 「でもまだデジモンがネットワークを混乱させた事実は無い」
 「混乱させてからでは遅い」
 「はっきりとした確証も無いのに、可能性だけで生きているあの子達を殺すのか」
 「奴らはデータだ生きてなど居ない。もし生きていると言うのならそれはお前たちガキのファンタジーだ」
 「幻想ではなく事実あの子達は生きている。そんな色眼鏡越しでしか世界を見ていないから事実を見落とすんだ」
 「そんな子供の理論で私が啓蒙されると思っているのか。バカバカしい」
 いや、バカバカしいのは自分自身か。何を子供相手に真剣に議論をしているのか。
 俺の冷めた空気が伝わったのか、相手も視線を落とし溜息をつく。
 と、ぱっと顔を上げ、先ほどとは全く違った調子で。
 「ま、今回はこの辺にしておきます。今日はけんかしに来たわけじゃないし」
 などと言う。
 一体なんだというのだ。子供の変わり身の早さにはついていけない。
 「じゃ、何しに来た?って顔ですね」
 心まで読む。
 するとサングラス越しにでもよくわかる「華やかな笑顔」と言うのを披露して見せた。と、同時に視界が光でいっぱいになる。
 逆光に目がくらんでいる隙に何かが顔の前を通り過ぎ、そして軽い足音がジャンプする。
 「やっぱ、サングラス外した方が男前上がりますよ」
 花壇から着地すると、目にもとまらぬ早業で掠め取ったサングラスを自分自身に掛けて。
 「顔色が変わらないのは大人だからですか?いろんな表情見たいのに残念」
 「ふざけるのは辞めろ。私は忙しい」
 不愉快さと、慣れない陽の光に眉根が寄る。
 「あれ?怒りました?スキンシップはお互いを理解するのに有効な方法だと思うんですけど」
 「理解など不要だ」
 「またまた、じゃこれ貰って行きますね。やっぱりこれないほうがかっこいいですよ」
 それだけ言うと、ヒトの話も無視してサングラスを掛けたまま駆け足で去っていった・・・・・・・・・
 
 

 今日はいわゆる厄日だ。
 補足したはずのワイルドワンをロストしたり、自前のパームが動作不良を起したり。
 それに加えガキに遊ばれるとは。
 そんなだからいらつくのを通り越して、既に心は悟りの境地。
 出てくるのは溜息ばかり。
 「キスは若い女にしてもらいたいものだな・・・」
 ついこぼれた本音が夏の風に吹き消されていった。
 
 


あとがき
山木×健良の第2弾!!ってーかどうよ?書いてるこっちも意味わかんないよ(死)
山木は自分のことでいっぱいなので、健良にリードしてもらいましたが、健良はこの場合受ですのであしからず。
受けの場合の健良は「誘い受け」です(きっぱり)
大人と子供の本気じゃない恋愛っておもろいなーとか思ったもので。
健良にしても本気じゃないです、この場合。

デジモンがネットワークを混乱云々下りはてきとーです。
 
 

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