
読感03年02月
03/2/15読了『バーゼルより』
困難な中にあって、子供が本に接することができるようにしようという国際児童図書評議会
(IBBY)の使命について簡潔にかつ印象的に示されている。
詩の引用部分は特に印象的である。「生まれて何も知らぬ 吾が子の頬に 母よ 絶望の涙
を落とすな …」と詩を引用した後に、間をおいて「マイセン夫人」と呼びかけている部分は、文
章の上では穏やかであるけれども、間をとって朗読してみると劇的に響いて感じられる。とく
に、文末についている英文の方だと効果がわかりやすいと思われる。「●●夫人」というところ
を、日本語訳を読んだときにさらっと読んでしまったけれど、英語で読むとこれが呼びかけであ
ることが明瞭であるので、穏やかな詩の引用・朗読→決然とした呼びかけ、という劇的なスピー
チの流れを感じた。
※本屋で平積みになっているのをみて衝動買いしてしまいました。
03/2/19読了『国会学入門』
国会に関する説明が丁寧になされ、国会改革にむけた明確な視座を提示している良書であ
る。説明が丁寧なのは、内容が詳しいということよりも、議論の流れがわかりやすい点にある。
前提となる制度⇒目指すべき国会の目的・機能⇒現状の批判的分析および改革案の提示と、
議論の流れがすっきりしている。また、議会の種類や機能を分類しただけで終わるのではな
く、それらの分類がその後の議論に生かされているのが、好印象である。
最近は耳にしなくなったけれども、この本が出版された1997年頃は、民主党や新進党が国会
改革案を政治争点として提示していた。それらの提案の方向性を検証し、目指すべき国会像
とのずれを指摘している箇所もみられ、出版当時に読んでいたらもっと強い印象を受けたかも
しれない。
議論の内容が古くなっていないと感じるが、これは本がよいだけでなく、残念なことに国会改
革をめぐる政治状況が当時とあまり前進していないことも意味する。委員会審議を秘密会にす
ることの容易化の議論や議院待遇改善の方向性、国会法と議院の自律性の問題など、いまで
ももっと注目されてもよいと思われる内容と思われる。
※1997年度にとった授業のテキスト。せっかく本人に教えてもらっているのに、もったいない
…。
03/2/21読了『平成14年度版犯罪白書のあらまし』
昭和50年ごろは80%近かった検挙率が近年20%近くに落ち込んでいる点が興味深い。治
安は悪化しているのか?実感があまりないのだけれど、検挙率の落ち込みを数字で示される
とうなずかざるをえない。本の末文には、なにやら抽象的な提案がされているが、あまり心を惹
かれなかった。一方で、犯罪状況の分析は、さすがに「犯罪白書」だなあと思った(当たり前で
ある)。でも、相当に末期的(末期的という言葉は、どうしてそれが末期であるとわかるのか不
思議な表現である。この表現を利用しているは事象の全体像が見えていることになる。もちろ
ん、自分には全体像が見えていないので、勘で使用しただけである。)な状態であることがわ
かるだけで、やるせなくなるですね…。
03/2/22読了『工学部・水柿助教授の日常』
よい。ぱらぱら見直して、気に入ったフレーズを記しておきます。
「このように、教育にはあくまでも、力の差が必要だ。」
03/2/25読了『三万年の死の教え』
この手の文章は、書き手が自分の主観をもつか、取り上げる思想内容から離れた立場で語
るとき、非常にわかりやすいが皮相なものになる。一方で、自分の主観は脇へおいてその思
想と同じ立場の人間になりきって記述がされると、難解ではあるが深遠な内容の文章となる。
さて、この文章は3部からなっているが、一番難しいと感じたのは、1部「『死者の書』のある
風景」である。他の2部と違い、その思想をもつ人間の語り口でのみかかれている。非常に簡
潔な記述であるのにもかかわらず、納得できないところが多い。
2部では、1部でもでてくる「心の本性」の部分が難しい。そうしたものを、仮定して先に読み
進んでしまったが、これが理解できなければ結局、読んだことにはならないと考える。「心の本
性」の外形や遍歴は語られているが、それが何もののなのかが納得できでない。「心」が核心
であるところに「本性」がつくということは、相当な核心部分であることがわかるが、まわりを覆
っていた制限や組織を、たまねぎの皮ようにはがしていったときに、最後に何が残るのであろ
うか?
3部は思想内容の話ではないので、わかりやすかったし、よい考えであると思う。
「…、こうして自分の宗教的直観の『創造物』について、謙虚にも、『私はただ、遠い過去に埋
めて隠されてあったものを、取り出してきただけなのだ』、と語ることになるのである」「…さまざ
まな『創造』の場合でも、遠い過去に、人間の知性の及ぶ空間のなかに、誰かによって隠され
たものを、人類の仲間があらためて取り出してきているのにすぎないのだ、と考えても、あなが
ちナンセンスときめつけることはできないだろう」などという部分は常識的であるがとてもよい。
※2002年秋に、チベットを旅行したときに知り合った人3人で夜お酒を飲んだときに、中沢新
一氏の話になった。3人のうち2人が中沢新一氏の著書を読んでいるというシュチュエーション
になり、これはいけないとと思い帰国してから本を買ったしだい。

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