
03年12月
【2003/12/11産経 朝 15】
1面@
刑法改正方針の記事。「法律が被害者の心身の痛みを本当に受け止めたものになっている
か、という視点から適正な見直しを行いたい」というの法務省幹部の発言は肯定できる。
ただし、これを掲載した産経新聞の意図は、刑法に裁判の代理復讐機能の強化を求めてい
る点にあるのではないかと想像する。もし、そうなら法務省幹部の発言趣旨と異なるものと思
われる(もちろん、こんな短い文章から発言者の思想内容はうかがいしれないので、個人的な
思い込みで書いています)。
1面A
補助金削減の記事。この中で、国は教職員の退職手当・児童手当削減の方針を示してい
る。これは必要な人に必要な所得というマルクス的な発想からの離脱を示している。消費の方
向を、必要な人が必要なものを買うという形態から、買える人が買えるものを買う消費構造に
変化させる力を発揮すると考える。
【2003/12/13産経 朝 15】
1面
スウェーデン製タバコガム日本で試販の記事。「日本人をモルモット扱いしている」とのたばこ
問題情報センター代表のコメントは共感する。日本口腔衛生学会と日本口腔外科学会の認可
取り消し要請も留意する必要がある。また、財務省認可というのもなかなか乙である(ほめて
いるわけではない)。
【2003/12/17産経 朝 15】
1面
年金保険料率15.58%⇒18.35%(平成29年)に段階的に引き上げとの記事。
【2003/12/18産経 朝 15】
1面
与党税制改正大綱決定の記事。今回の税制改正は控除額の減少が中心か。個人住民税
の増税は、地方自治体への国からの税源移管がすすんでないことのツケならちょっと納得い
かない。
7面
イラク債務削減問題。アメリカは100%削減を求めているが、各国はそれに反対。アメリカ
は戦後のイラク利権を一手に握っており、さらにアメリカの保有債権は先進国債権のうち5%
(約22億ドル)である点から、アメリカの利益のためには各国に債権放棄させることが得策で
あるにきまっている。
アメリカは現在保有している利権に基づいて、これから莫大な債権を保有することになる。こ
うした債権がデフォルトにならないよう、旧来の債権を放棄させるなくては、ならないのである。
今回の新規発注金額は186億ドルでこのうち12%以上をアメリカで落札し、先進諸国に全て
の債権放棄をさせれば、軍事的だけでなくイラクの一般経済に対して影響力を扶植することが
できる(アメリカがどの程度受注できるかは、まったく手がかりがありませんけれど)。
一方で各国はこれからの取得債権はアメリカにより大幅に制限されざるを得なくなり、イラク
債権による収入は見込めなくなる中、せめて現有債権だけは弁済してほしいという意向はある
はずである。
今回の報道では、債務削減を今後の復興利権とリンクして、アメリカが独仏を取り込んだ形
になっている。アメリカ側はイラク復興利権は@膨大すぎてアメリカ一国では処理しきれないA
国際的な非難が生じる独占はイラク安定後は継続できないB国際問題であるイラク問題を主
要大国独仏抜きで行った場合、「国際世論の合意の元に行っている」との主張がしずらい、と
の判断があると思量する。一方で、独仏側は@アメリカが提示する利権が単なるおこぼれでは
ない(長期的に意義ある債権である)A国際問題に関与すべき大国であるとの面子の維持な
どがあるものと考える。
【2003/12/19産経 朝 15】
30面@
日本人旅行者の集団買収につき、新華社ネット版で顔写真掲載についての論評記事。記事
中の次の一文は妥当性判断が難しい。読者に何を伝えようとしているのか。「中国では人権意
識が低く、犯罪者などに非難を集中させることで社会不満をそらす手法がしばしばとられてき
た。」
この記事の疑問点は以下の通り。
1)国際手配された犯罪者の顔写真は、新聞記事やネットでは掲載されないのが報道の原則
となっているのか。つまり、こうした報道手法自体が問題だと考えているのか(犯罪者の顔写真
は掲載するべきでない)それとも、こうした手法が選択的に用いられている点が問題と考えて
いるのか(社会的に影響が重大と思われる犯罪者の写真を掲載することとし、それを新聞社
や政府の意図で掲載の有無を選択できることが問題)と考えているのか。
2)国際手配されている犯罪自体の成立になんらかの問題があると産経新聞社では考えてい
るのか。
3)こうした犯罪がおこったことの憎悪は、まず政府に向くべきであって犯人に行くべきでない
と産経新聞社では考えているのか。国内での犯罪報道との整合性をどのように考えるのか(産
経新聞社は、裁判を代理復讐機能とみなした報道が多い)。
30面A
宇治小学校児童傷害事件の記事。心神喪失者医療観察法のコスト面についての報道がな
い。入院コスト等は誰が負担するのか?
【2003/12/21産経 朝 15】
1面
平成16年度国家予算財務省原案の記事。年金や社会保障に対するコメントが多い。改革
を叫んでいたわりにあいまいなままであるとの評価を産経新聞社は下している。もうすこし、き
りこんでほしいということか?消費税増税とか年金支給額の減額とか?
【2003/12/25産経 朝 15】
1面@
アメリカで初のBSEの記事。
1面A
無保険船入港禁止の記事。この問題を北朝鮮問題と絡めて論評するのは慎重になるべきと
考える。ただ、産経新聞は以前と異なり、今回は過去の船舶事故にも言及して論評しており理
性的。これが、北朝鮮以外の船の座礁問題から派生したなら、問題解決に重い腰をようやく国
土交通省があげたという構図になり、国土交通省への批判記事として現れていたはずである。
最近の無保険船問題の産経新聞社の記事は、北朝鮮問題をアピールするため、行政に対す
る批判をあえて抑制させた形となっていると解釈している。
【2003/12/26産経 朝 15】
産経抄
太陽政策批判。「きれいごとの”太陽政策”が通用するはずがない」とのコメント。そう、きれ
いごとだけでは成り立たない。そしてそれは国際社会だけではない。しかし、きれいごとを尊重
しない関係を、いわいる「社会」とはいわないと考える。北朝鮮との間には通常の交際関係が
ないという前提が、「きれいごと」を排除させているわけである。通常の交際関係を構築しようと
する意思は、産経抄の筆者にはなく、イラクと同様に国際社会に不都合な体制は、力ずくで崩
壊させなければならないと考えているのである。
太陽政策と北風政策のどちらをとるかという場合、結局その政策によって達成しようとする目
的によって妥当性判断が異なると考える。北朝鮮の現体制の打破を目指す場合には、北風政
策をとっても政策目標は十分達成できる。一方、現体制を利用して時間をかけて融和させる
(現体制の崩壊まで考えていない)場合は、北風政策の採用は政策目標の達成を不可能をも
たらす可能性がある。
体制崩壊を最終目標として考えている産経新聞社としてのスタンスなら、太陽政策批判は当
然である。
1面
女帝を認める方向との中山衆院憲法調査会会長のインタビュー記事。記事中はっきりと「皇
位継承権をもつ男子皇族が秋篠宮さまの後は生まれていないこともあって、検討の必要性が
指摘されている」とあるので、憲法改正の意思が、男女平等をしめした憲法の趣旨にあわせる
ことではなく、天皇制存続のためのやむをえない対応との内容を全面に押し出した表現になっ
ている。男女平等の趣旨であるなら肯定できる面もあるが、あからさまに天皇制存続を叫ばれ
ると賛成しかねる。天皇制は、基本的人権の尊重よりも声高に叫ばなければならない制度な
のか。
「きれいごと」を尊重しない産経新聞社は、男女平等などよりも根源的に天皇制は日本の国
益に合致していると判断していると考える。はたして、産経新聞社は、なぜ天皇制が日本の国
益にかなっているのか、1面で記述することができるのか?結局「きれいごと」を重視したコメン
トしかのせられないのではないか?もし天皇制がなぜ日本の国益にかなっているかの論説を
載せれば、天皇制という構造を信頼してきた階層から大きな反発をまねくとともに、そうした構
造自体への猜疑心を呼び起こすという、矛盾に直面することになる。
結局は、産経新聞社といえども、自らの信念とするところについては太陽政策的な記事の記
述をしなければ成らくなる。
ちょっと抽象的でわかりにくいですね。天皇制が国益にかなっているという理由はここでは書
きません。産経新聞社もまさか、尊い血筋だからとか生まれながらの徳が備わっているとか、
それが日本人のこころだとか本気で信じているものではないと考えますが、どうでしょうね。
25面
圏央道土地収用裁判の記事。東京地裁で東京都等が敗訴したときと扱いがことなり、良識
的な掲載方針とみた。地裁での敗訴のときは、圏央道について都合のいい部分だけをとりだし
た論評を行う突出した記事だっただけに対照的。圏央道の計画概要がわかる地図つきで、今
回の土地収用裁判が、単に工事というだけに限ると影響が小さいこともわかるようになってい
る。もちろん、この裁判は地方公共団体等が行う道路行政における死活問題なので、工事規
模などは問題ではありませんけれど。
裁判を行った裁判官によって判決の傾向が異なるという「司法のぶれ」について、記者が意
欲的に取り組んでいるとの印象をうける。こうした「ぶれ」をありえることだ、と考えるのか、司法
にあってはならないことだと考えるかによって、記事の印象が異なるかもしれない。また、裁判
官の経歴やその裁判官に対する公人の評価を記載することなども、今度同様な論評手法が
浸透すると裁判に対する国民の認識もかわると思われる。
裁判官の顔が見えないという意見は、とくに最高裁判所判事の国民審査において提出される
ことが多いが、結局@裁判所が自己アピールするA国民が自分で調べる(第三者機関やNP
O、政党を含む)Bマスコミが報道する、くらいの解決策しかない。一番妥当なのはAとは思う
が、新聞がみずからなすべきことをなさずしてAを主張してきたら、ちょっと気分わるくするな、
自分は。@は一種の宣伝広告であって、することはいいとしても、その情報だけを信じるわけ
にはいかないでしょうね。つまり、裁判官研究センタ(民間の有志団体である必要がある。格付
会社のように複数存在することがのぞましい)見たいのが広報誌を大規模作成して安く頒布す
るのでなければ、マスコミが積極的に取り組むのしかない。でも、そんな記事はスペースの関
係で難しいでしょうね、新聞の営利企業ですから。きれいごとだけではないのですね(しつこい
か?)。

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