『法の支配』の価値をどうみるべきか

1.「法の支配」とは何か、イギリスの現代分析法理学者ラズの見解がまとめられている。

  ・法の支配の内容
   ⇒人間の尊厳の尊重につながる法内在的な消極的な価値であるとする。

2.「法の支配」の概念

 1)人々が法に従うためには、法は人々の行動を導くことができなければならない

 2)この法の最も基本的な規範機能に焦点をあてて考察する。

 3)形式的ではあるが重要な諸原理
    @非遡及・公共性・明瞭性
    A相対的安定性
    B特別法は公知の安定し明晰な一般的ルールによって制定される
    C司法の独立
    D自然的正義の諸原理の遵守
    E裁判所は他の諸原理の実現に関する審査権を持つべし
    F裁判所へのアクセスの容易さ
    G犯罪防止機関が法を曲げるために裁量を行使することは許されるべきではない

3.「法の支配」が奉仕する価値

  ・「法の支配」は法体系が保持すべき多くの価値のひとつに過ぎない。

 1)専断的権力の抑制

  ・権力行使は、その行使を正当化しうる目標に役立つか否かに無関心に行われたり、その
目標に役立たないであろうと考えて行われたりする場合、専断的である。

 2)個人的自由の保障

  ・個人的自由:生活様式を選択し、長期的目標を定め、自分の生活をそれに向けて実効的
に導いてゆく能力

  ・政治的自由:
   @個人的自由を妨げる一定の形態の行動の禁止
   A個人的自由の妨害をできるだけ少なくするために公的機関の権力に課せられた諸制
約。

  ・「法の支配」は、人権の甚だしい侵害とも両立する。

 3)人間の尊厳の尊重

  ・法が人間の尊厳を尊重しようとすれば、「法の支配」の遵守が不可欠である。

  ・人間の尊厳の尊重
   @人間を各々の将来を計画し想定しうる人格として扱う。
   A人間の自律性、各々の将来をコントロールする権利。
 ⇒「法律が不明確であったり広範な裁量が認められていたりするために、人々が将来の成り
行きの予測や確実な期待の形成ができず、不安定が生じたり、あるいは、遡及立法とか適切
な法執行の妨害のため、人々があてにしている安定性・確実性が掘り崩され、人々の期待が
裏切られたりするというふうに、「法の支配」が侵犯されるならば、専断的権力の機会が与えら
れ、人々の将来を計画する能力が制限されるにとどまらない」

4.法内在的な消極的価値
  ・いつも他の諸価値と比較衡量されなければならない。
  
  ・「法の支配」の遵守は、害悪を避けることによってしか善きものを生み出さないし、また、
回避される害悪も、法自体によってしか惹き起こされなかった害悪である。

 ・他の諸々の道具と同様、法は、その道具が用いられる目的に関しては中立的であるという
意味において、道徳的に中立的な独特な価値を持っている。

  ・「法の支配」は、法内在的価値ではあるが、道徳的価値自体ではない。

5.その他
  ・「法の支配」を、法の内面的道徳とする立場(フラー)と、その遵守を効率の問題に過ぎな
いとする立場(H.L.A・ハート)の法理学論争を踏まえた見解。

以上
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