「もう僕競馬から足を洗います!」と孫弟子Tが悲壮な決意で師匠に訴えた。
「なにどうした?なんかあったか」と師匠。
「また夫婦ゲンカだろ」と弟子S。
「あーたね、いちいちうるさいよ」と怒るT。
「新潟いっしょに行って仲直りすりゃいいじゃん」と一番弟子F。
「あのーそんな状況じゃないんですよ」とT。
「でもこのローカルの時期競馬でやられてやめるのも珍しいな。
こんな時期一生懸命競馬やってるなんて師匠ぐらいだぞ。
競馬ファンだって一流馬といっしょで夏は一休みして馬券は程々にするぞ」と弟子F。
「彼は今年からの新参者ですから元気なんですよ」とS。
「でもマジにローカルやると秋のGTまでもたんぞ」とF。
「ええ、その通りもちませんでしたね」とS。
「コノヤロー。ケンカ売っとんのか」とT。
「まあまあ、俺に任せておけ。金なら大丈夫だ。免許証もって無人君にいこう」と師匠。
「あのですね私これでも銀行員なんですから、お金はあるんですよ。
問題はべつのところなんですよ」とT。
「なに、金はある?。なら貸してくれ」と師匠。
「いや、あの…、えー。嫁さんに握られていてだめなんですよ」とT。
「じゃ、僕が奥さんに話してみましょう」とS。
「あんた、しばいたるぞー」とT
「冗談、冗談」
「ところで23日の札幌記念はエアグルーブが出てくるぞ」と師匠。
「えっ、そうでしたっけ。でも僕はもう足を洗うんです」
「秋になれば中山に戻って来るぞ。それでもやらんというのか」
「いや、あのー、GTレースだけはやろうと思うんですが」
「でもな、競馬はGTだけじゃ成りたたんのだぞ。その前の条件戦、
オープンなどの前哨戦を見てからこそGTを予想できるのだぞ。
GTだけ参戦するミーハーファンにお前を育てた覚えはないぞ」
「育てられた覚えも無いけどなあ」と小声でつぶやくT。
「なにか言ったか」
「いや、なにも言ってません」
「でも師匠いいこと言いますね。日々精進して予想に磨きをかけているんですね」と弟子F。
「あったりめえよ」
「でもいくらローカルたって、エアグルーブが出るんなら馬券はともかく、
しっかり見ておかなくてはなりませんね」とS。
「やっぱり少しは買って見ようかな」とT。
「そうだよ。今買っておかないと秋の天皇賞がつまらないよ」
「そうですかね。じゃヒモはなにを買えばいんですかね」と
さっき言っていたことなどすっかり忘れているT。
「エアは軸として、夏はやっぱり上がり馬ねらいだな。そうするとアラバンサ、
サクラエキスパート、スノーエンデバーあたりに流しておけばいいだろう」と師匠。
「ちょっと待ってください。確かにエアは強いのはわかっていますが、
武が最近走るほうに集中していないといっているのが気にかかります。
昨年の激走、鳴尾−宝塚のローテもこの馬にしては間隔がなかったのもきになりますし、
だからここは無謀かもしれませんが、◎にはスノーエンデバーをとろうと思います」と弟子S。
「あ、そう」と気にもとめない師匠。
「僕はだれがなんといおうとエアからはいりますよ」とT。
「そう、おれの予想通り買えば安心だ。そうだな、
暮れの有馬までに本弟子に昇格してやってもいいなあ」と師匠。
「いや、あの、その」
「あはは、そんな遠慮がらず期待していろ」
当然のことながら本弟子に昇格したくないTであった。