事件はどこで起こっているのかドラマ「白い巨塔」を見ると、田宮二郎を思い出す。あのころの映画には、力があった。原作と時代がマッチしていたのだろうか。 映画でしか見たことのない山崎豊子の作品を読んでみようと思い、書棚の前を歩いていると、御巣鷹山の名が目に入った。というわけで、5巻ものの『沈まぬ太陽』にチャレンジしてみた。 1・2巻がアフリカ篇、3巻が御巣鷹山篇、4・5巻が会長室篇である。読みはじめていきなり暗くなってしまった。救いというものがないのだ。 エリートコースまっしぐらだった恩地が、組合の委員長を引き受けた。これが人生の分かれ目で、けっきょく海外へ飛ばされてしまう。流れ着いたところがケニアのナイロビ。10年間の流浪の日々を描いたのがアフリカ篇である。 それにしても、なんで60年代の組合活動をしつこく描いたのだろう。その時代に対する作者の思い入れの深さの表れなのか。1・2巻は飛ばして、3巻目から読めばよかったかな。 御巣鷹山篇は、絶望の巻である。読みながら、ボイスレコーダーに録音された機長の声を思い出していた。それに遺族の遺骸へのこだわりも尋常ではない。事故で身内をなくしたことのない私には理解不能の世界だ。 4巻目は一転して企業小説となり、5巻目で政治小説へと変貌する。仮名で登場する政治家たちの描写から、テレビではわからない面を垣間見た気分である。 腐敗を暴くという作者の想いと、全篇にただようエリート臭に、どうにもやりきれなくなった。それでも最後まで読めたのは、作者の力量ゆえだろう。
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