宇多田ヒカルが対談してるぞ



 アルバムを800万枚近く売った宇多田ヒカルが、『アルジャーノンに花束を』の著者ダニエル・キイスと雑誌「文芸春秋」で対談している。16歳のヒカルが72歳のじいさんを相手に創作者として堂々と語り合っている。全般的にキイスさんがヒカルに質問する形になっていて、歌作りの秘密などファンにはうれしい話がいっぱいだ。

 この対談いい意味で期待を裏切ってくれた。ニューヨーカーとか帰国子女というイメージを持っていた私には、志賀直哉とか武者小路実篤なんていう名前が彼女の口から出てくるのが意外に感じられた。それにテレビでSMAPとおしゃべりしていた彼女と、対談している彼女が、同一人物に思えないほど大人に感じられる。この二人、小説と音楽というジャンルの違いはあっても、創作の難しさを知っているもの同士、通じ合うものがあるようだ。

 今ここで対談を要約してしまうのには、ためらいを感じる。興味ある人には、直接読んでもらいたいのだ。少し長いので立ち読みではちょっとつらいかもしれないが、一見の価値あり。

 『アルジャーノンに花束を』はかなり前に翻訳されたが、90年代に入ってから売れはじめたという。バブル崩壊に伴い、人々の関心が自分の内面に向きはじめたからではないだろうか。私はとくに女性に人気があるんじゃないかと想像する。こんな異色の対談を企画した編集者の眼力に、脱帽。
  • もうひとりの私 宇多田ヒカルvs.ダニエル・キイス 文芸春秋2000年1月号に所収
(1999-12-20)