たまには肉だって食べたい



 ニューヨークでビルが崩壊したころ、私の関心事は狂牛病にあった。それなのにテレビはニューヨークの話題ばかり。業を煮やして図書館へ駆けつけた。なにかうっかり見落としていたものがあるような気がしたのだ。しかし古い本ばかりで役に立たなかった。

 世間が狂牛病で大騒ぎしているとき、私は冷凍庫にある牛肉を食べていた。もう何年も食べてしまったものを、いまさら何を大騒ぎしているんだ。日本に住んでいるだけでリスキーだというのに。自分だけ安全なものを食べたい。それは究極のエゴイズムだろうに。

 気をつけていても口に入ってしまう。だから困るのが食の問題なのだ。テレビでは「異常な蛋白質が脳にたまって、..それが感染して、..」と解説していた。これを聞いて背筋が寒くなった。それなのにレポーターは平気な顔をしている。自分が何をいっているのかちっとも分かっていない。あなたは大学まで出て何を勉強してきたの?

 やっと手ごろな解説本が出たので、さっそく読んでみた。『早く肉をやめないか?』では、狂牛病の概略を時間軸に沿って整理している。

 発端は1985年のイギリス。はじめて狂牛病が報告され、翌年には牛スポンジ状脳症(BSE)と命名された。それに対するイギリス政府の対応は、次のようなものであった。
1988牛・羊の死体を動物性飼料に加工および使用することを禁止した。
1996牛肉を食べることで狂牛病が人間に感染する可能性があることを認めた。
 その後パニックはおさまり、1999年にEUは狂牛病の終息を宣言した。これで安心かと思いきや、2000年の秋にはフランスなど欧州各地で狂牛病が発生した。1996年にEUはイギリスに対して牛肉の全面禁輸を命じていたのに、まったく効果がなかったのだ。

 この本を読むと、いかに日本政府の対応が遅れたかよく分かる。先にイギリスで発生しその対応のまずさをつぶさに見ているのだから、当時の厚生省や農水省は知っていたはず。それなのにEU並みの対応をとっていない。

 その間に肉骨粉は相当量が日本に輸入され、牛などの飼料として使われた。狂牛病の潜伏期間は、ほぼ4-5年である。そして当然のことながら日本でも狂牛病が発生した。ここまでは誰だって予想できただろう。

 しかし私が心配したのは、そんなことではない。この本を読んでみたら、やはり予感は的中していた。細菌でもウイルスでもないのに、種の壁を越えて感染する得体の知れないもの。それが狂牛病だったのだ。それだけでなく羊の奇病スクレイピー、アルツハイマー病、ヒト乾燥硬膜の移植によるヤコブ病が、ひとつながりのものであることも分かった。

 狂牛病を食の観点からとらえているのが本書の特色である。第8章以降は玄米正食のすすめになっているので、そこは好みによりけり。でもスパゲッティやギョーザをやり玉に挙げるなんて、こんなにおいしいものを食べないで長生きしたって、ちっとも楽しくない。
(2001-12-07)
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