先見性は持てるのか



 人間未来を予測することはできない。しかし、仕事によっては先見力が必要になる。私もかつてそのような仕事をしていた時期がある。そんな時でも半年先のことは想像できるが、1年先はよく見えなかった。

 でも世の中には先の見える人がいるものだ。梅棹忠夫の「未来社会と生きがい」(『私の生きがい論』に所収)という小論を読んだ。

 みずから老子に影響を受けたという著者は、「我は愚人の心なるかな、混沌たり」という句を引用している。これを「みんな気張って一生懸命かんがえてがんばっとるわい。わしゃアホでっせ」と解釈し、これこそが人間らしい生活だと言っている。そして、生きがいみたいなものは、忘れてしまったほうが人間らしい、と。

 また、小説などの芸術や技術家の作る機械は、作り手が自己満足できればいいので、役に立ってはいけないと言う。役に立ったら、人さまに、いい意味でもわるい意味でも影響をおよぼすから。

 もうひとつ「ピーターの法則」という本を紹介し、無能を演出することをすすめている。たとえば、あるポストに就いたら、そこであまり能力を発揮せずに、無能のふりをしてそれ以上昇進しないようにする。そうすれば能力以上の仕事の重圧で苦しまずに幸せな人生が送れる。まあこんな趣旨のことだ。あいにく、私はこの実践に失敗した。

 その他にも、臓器移植、クローン人間、エネルギー問題、熱帯雨林の減少などを取り上げている。ごみ処理の問題にからめて、ものをつくりださないことの重要性を再度指摘している。30年近くたった今でも、静脈産業の社会的地位の低さは変わっていない。そしてゴミ問題はますます緊急性を帯びてきた。

 これらの問題をオイルショックの3年も前にまとめて提出している。時代の一歩先を見ていた人だ。そしてゴミに限らずここで取り上げられている問題は、いまだに解決できないでいる。まさに追いつめられてやっと動き出したのが、今という時代なのだ。

  • 私の生きがい論 人生に目的はあるか 梅棹忠夫 1985 講談社文庫
     1970年に朝日新聞社が主催したセミナーの速記録をまとめたもの
(1998-09-14)
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