ミラーを拭く男



「ミラーを拭く男」(2003)は、なかなか楽しい映画だ。設定のばかばかしさが、主役の深刻さとマッチして、おかしみがにじみ出ている。緒形拳がしゃべらないところがいい。

そもそも、日本中のカーブミラーを拭くのは不可能だし、夏の北海道を自転車で回るなんて、若者でもつらい。ツーリングなぞしたことがないであろう60近いおっさんにできるわけがない。オホーツク海に面した直線道路を脚立などのせて走ったら、日陰がないので熱射病になる。冬は冬で、テント泊じゃ凍えてしまう。

とはいえ、着替え程度しか持たずに稚内まで一気に北上し、自転車を手に入れ、脚立がのるように細工してもらうあたりのテンポのよさが心地よい。自転車をこぐときにかかる千住明の音楽を聞いていると、フェリーニ作品かと錯覚してしまう。

それにくらべると家族の描き方がうまく整理されていない。安易に熟年離婚を持ち出さないところがいいのだけど、なんでああいうラストシーンになるのかよくわからん。せっかく栗原小巻を投入したのに、家族の機微というものが描ききれていない。岡本喜八に監督してほしかったというのが正直な感想。

監督・脚本は梶田征則。キャリアは長いが、劇場版ははじめて。エンディングの「空と風のワルツ」は美輪明宏が歌っていた。高齢者受けをねらってか。

(2007-05-13)