音楽のルーツを求めて



 先日、「山下洋輔クルド音楽紀行」の再放送があった。山下洋輔が6年前に作った「クルディッシュダンス」(クルド人の踊りという意味)という曲をライブで演奏したときに、聞いていたクルド人に「クルド人の魂を感じる」と言われた。そこで音楽のルーツ、9拍子のリズムを求めてトルコへやってくる。

 行き先は、トルコの東部ドーバヤジット。もう少し東に行けばイラン、という国境に近い町だ。近くにそびえる山は、ノアの方舟が漂着したという伝説があるアララット山。作家の村上春樹が車で旅行しているときに、道に迷ったのもこのあたりだ。結局ルーツとなる音楽にはたどり着かずに、イスタンブールでトルコ人と「クルディッシュダンス」をライブ演奏するところで終わる。

 このジャムセッションは、たどたどしさがあったが、すばらしかった。同じ曲を山下洋輔のバンドが演奏したのを聞いたことがあるが、トルコの楽器(メイ、バーラマ、カヴァル、リズムサズ)と西洋の楽器では音色がずいぶん違う。

 トルコ、このことばを初めて意識したのは、向田邦子原作のドラマ「阿修羅のごとく」でだった。その主題曲に使われたのが、トルコ軍楽「メフテル」だ。このあとしばらく、この音楽が耳から離れなかった。

 しかし、その後に見たトルコはひどい扱いを受けていた。映画「アラビアのロレンス」では、主人公を犯そうとする将校が登場し、映画「ミッドナイトエキスプレス」では、トルコが民主主義とは縁のない恐ろしい国のように描かれていた。アメリカや特にヨーロッパの人は、トルコ人に対する潜在的な畏れを感じているかのようだ。しばらく前まで×××浴場のことを何と呼んでいたかを考えれば、日本だって大きな顔はできない。

 すっかり忘れていたトルコを思い出させてくれたのが、観光名所であるカッパドキアの奇岩群だった。その写真は、この世のものとも思われない景色だった。カッパドキアが見たい! はじめてトルコが具体的な場所になった。

 「阿修羅のごとく」の出演者を見ると、加藤治子、八千草薫、いしだあゆみ、風吹ジュンの4姉妹に、父親の佐分利信、娘婿の緒形拳などなどすごいメンバーばかりそろえている。八千草薫は、当時「前略おふくろ様」や「岸辺のアルバム」などで母親役の定番みたいな人、今は入れ歯世代のアイドル。風吹ジュンは、同じく「前略おふくろ様2」でどこか影のある役、今は「ピュア」などでのお母さん役が多い。

 そんな役者をネタにして向田邦子は、家庭とか愛情というものについて根源的な問いを、見ている者に投げかけてくる。そして、同性でありながら、女の人の持つすさまじさのようなものを、阿修羅ということばで切りとってみせた。やっぱり、橋田壽賀子とはレベルが違うのだ。
  • 絨毯屋が飛んできた トルコの社会誌 内藤正典 筑摩書房 1998 ちくまプリマーブックス116 1100円
     歴史ものや紀行文を読むよりもトルコがイメージしやすい

  • トルコのもう一つの顔 小島剛一 中央公論社 1991 中公新書1009
     トルコにもこういう一面があることを教えてくれる辛口の本

  • エツコとハリメ 新藤悦子 情報センター出版局 1988 NDC916
     若い日本人女性がカッパドキアで絨毯織りや染めを習うセミドキュメンタリ

  • ギョレメ村でじゅうたんを織る 新藤悦子写真・文 西山晶絵 福音館書店 1998
     『エツコとハリメ』の内容を児童向けに編集したもの

  • 雨天炎天 チャイと兵隊と羊 21日間トルコ一周 村上春樹 新潮社 1990 NDC915.6
     ギリシャ編もあり
(1998-07-06)