センスのない番組作りにヘドが出た



 ゴールデンウィークのころ、立花隆と筑紫哲也をメインキャスターにして「ヒトの旅、ヒトへの旅」というスペシャル番組をやっていた。広末涼子も出ていたので見た人も多いのではないかと思う。

 最初はロボットなどが出てきて楽しんで見ていた。しかし臓器移植など生命操作に話題が進むと、嫌悪感が出てきてついにスイッチを切った。何というグロテスク。立花の言うがままに番組を作った制作者に腹が立った。

 私は、立花のセンスのもととなるオカルト趣味が気に入らないのだと思う。それはともかく、インタビュアーとしての資質、本としてまとめあげる力は、やはりすごい。

 そういう力を見せつけてくれる本を読んだ。『精神と物質』という科学哲学の本かと思えるタイトルがついている。1987年度のノーベル生理学・医学賞を受賞した利根川氏に、1988頃に立花がインタビューして、その内容をまとめた本である。

 一般の人にも分かるようにたくさんの解説を立花が加えている。その解説が邪魔になってかえって読みにくいのだけど。この本を忠実に読めば、なぜ利根川氏がノーベル賞をとったかがよく分かる。けれど私が読んだところは、少し違うのだ。

 ひとことで言ってしまおう。この本は研究者の卵にとっての必読文献である。利根川氏は、これまでの経験に照らして「実験は失敗の連続である」と言い、「何が本質的で重要なのか見分けをつける」ことが大切だと述べている。さらに、サイエンスでは自分自身を確信させることが一番大切で、自分自身を確信させることができれば、他人を確信させるのは簡単だとも言っている。また、研究テーマを安易に決めるなと助言している。人間は限られた時間しか持たないので、何をやらないかをよく考えろとまで言っている。

 キェルケゴールの「哲学的断片」からの引用があった。
真理は外から与えられるものではない、もともとその人間の内部にあるものを自分で発見するだけだ
 私もそう思う。ただ、それを真理と言うのはおおげさな気がする。
  • 精神と物質 分子生物学はどこまで生命の謎を解けるか 立花隆 利根川進 文芸春秋 1990 NDC460.4
     タイトルと中身が違うけど、第4回新潮学芸賞を受賞
(1999-06-21)