転機は忘れたころにやってくるあるときテレビで、刺青をした女性の背中を見た。ところがその人は、どう見ても刺青が似つかわしくないのだ。端正なスーツ姿に、知的な雰囲気。職業は弁護士で、しかも非行少年の更生に努めて日夜奔走している。そして、番組の中で語られる彼女の過去を聞いて仰天した。そう、彼女は極道の妻だったのである。 その後、弁護士になるまでの半生をつづった『だから、あなたも生きぬいて』は、大ベストセラーとなった。 1965年に生まれまさに、出版社が飛びつきそうな経歴である。大平さんのドキュメンタリー番組を作った小島美穂は、次のように語っている。 私の心に残ったのは、彼女の「変わった経歴」ではない。むしろ、消したくなるような過去と、時に笑みを浮かべながら向き合う「今の姿」だった。大平さんの過去を知らなくとも、現在の弁護活動はりっぱだとは思う。しかしこの本を企画した人、彼女に講演を依頼してしまう教育関係者、ふだんは本など読まないのにこの本を買った人、そんな人たちに大平さんの想いがほんとうに伝わっているのだろうか。なぜか手放しで喜べない。さわやかな読後感からはほどとおい。
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