ケンカはほどほどに



巨匠井筒和幸監督の「パッチギ!」(05年)を観た。1968年の京都が舞台の映画だ。日朝の高校生のバトルを主軸にして、フォーク・クルセダーズの「イムジン河」をからめたラブストーリーになっている。「ガキ帝国」「岸和田少年愚連隊」と合わせて3部作となる。

メジャーデビュー作の「ガキ帝国」(81年)が、いちばん好きだ。それはストーリーとか完成度とかではなく、作品全体にみなぎるパワーゆえ。売れっ子の島田紳助たちが、もうやりたくてしかたないかのように演技している。映画館を出てきたところで会話を交わす場面があるのだが、映画史に残るワンシーンだ。

「岸和田少年愚連隊」は駄作。途中で見るのやめてしまった。

「パッチギ!」は、音楽とからめたこと、沢尻エリカの投入により、完成度の高いものになった。そうでなければ「チング」や「けんかえれじい」の二番煎じになっていただろう。

沢尻が過剰に演技してないのもいい。つきあってくれと言われて、「もし結婚することになったら、朝鮮人になれる?」と聞き返すところがある。たった1つのセリフにすべてがつまっている。

葬式のとき、日本人のお前なんかにはわからないと追い出されてしまう。つまり日に対する朝からの拒絶だ。一方、朝とつきあう日の側の葛藤がほとんど描かれていない。酔っ払って自宅まで送ってもらったときの母親の反応だけだ。

設定を変えてみよう。マスクをかけたこわそうな女子高生(真木よう子)が出てくる。もしその子が日の男の子に「つきあってくれ」と言ったらどうなるか。まったく別の映画になっていく。なんで朝とつきあうんだと友だちから突き上げられ、ますますケンカに火をそそぐ。

これではリアルすぎて映画にならないか。2つの共同体の対立をよそに、相手の共同体に半ば入ってしまったので、自分の属する日の側での葛藤がなくなっているわけだ。

「あの素晴らしい愛をもう一度」も好きな曲。「音楽・夢くらぶ」で加藤和彦と坂崎幸之助が歌っていた。ちなみにオダギリジョーが演じるヒッピーになってしまう酒屋の主人の役名も坂崎だ。

「イムジン河」をこの映画ではじめて知った人は、日本人がつくった歌だとは思わないかもしれない。「エーデルワイス」をアルプスの歌だと思ってしまうように。

1日、「ガキ帝国」で暴れまわっていた松本竜助が亡くなった。49歳。

(2006-04-03)