私たちはどこから来たのか



 海外を旅行していると、最初のうちは日本人の見分けがすぐにつく。しかし、次第にその自信が揺らいでくる。日本人かと思ったら韓国人だったり、台湾人を日本人と間違えたり。顔だけ見ていると、民族の判別がしにくいようだ。実際には、雰囲気、しぐさ、服装、歩き方で判別しているに違いない。アメリカ人が抱く日本人のイメージは、めがね、カメラ、出っ歯だそうだが、私が思うに旅行中の日本人は、帽子、ウエストポーチ、カメラ、貧相な歩き方が目印だ。

 さて、最近読んだ『私たちはどこから来たのか』は、日本人の起源についていろんな説が紹介されている。メインになっているのが、埴原和郎氏の二重構造モデル論だ。日本列島には、東南アジア系の縄文人が住んでいて、後から北東アジア系の人々が渡来し、混血して弥生人になった。そして現在も混血が進行しているという説である。記者が学者に取材して書いたものなので、読みやすくかつ面白い。縄文語で歌う「北国の春」という項もある。

 この本では紹介されていない人たちの研究も参考になる。たとえば松本秀雄氏は、遺伝子の解析に基づき東バイカル湖畔のブリヤート人が日本人のルーツであると主張している。また、佐藤洋一郎氏などが研究しているDNAから見た稲作文明の解明や三内丸山遺跡などの考古学的な研究も、日本人のルーツを考えるのに役立ちそうだ。

 網野善彦氏は「日本は孤立した島国でも、均質な民族でもない」と指摘している。自分のルーツを知りたいというのは、わりと自然な欲求だと思う。しかし、人種という概念は幻想であり、これからの自分たちの世界を住みやすくするのには、じゃまな考え方かもしれない。

  • 私たちはどこから来たのか 日本人を科学する 隅元浩彦 毎日新聞社 1998 NDC469 \1400+tax
     サンデー毎日の連載(97/03-97/10)に加筆した本。参考文献リストが便利。
(1998-08-10)