ロックの教科書



 『スプリット』は、歌手のカルメン・マキ、武術家の甲野善紀、精神科医の名越康文の鼎談本である。この異色の組み合わせを実現したのは、出版社ではなく甲野善紀だ。そのために、本書が完成するまでに3年もかかっている。

 3人の発言を補うための脚注がたくさんついている。そのおかげでロックを知らない人にとっては、ロックの教科書となる。

 マキの解説は、
実はロックが生まれるまでには長い歴史があって、音楽的にいえばまず最初に長い間ブルースというものがあって、50年代初頭に、そのブルースを起点としたロックンロールという画期的な音楽が誕生するわけで、これが音楽界に革命をもたらせたわけですね。(p63)
 という概論から入る。

 1970年にジミ・ヘンドリックスとジャニス・ジョプリン、そして翌年にはジム・モリソンが死ぬ。この3人の死がロック界に与えた影響は大きかったらしい。こんなぐあいに、ロックを知らない私でも知っている名前がぞろぞろと出てくる。

 名越とマキは、レッテルが邪魔をして人と出会えない、という点で意見が一致する。
古くからの固定ファンは別として、初めて私の歌を聴いてもらう人には、カルメン・マキという名前を知らずに聴いてほしい。そしてそこで何を、どう観じたか、これが重要だと思うんです。私とリスナーとの本当の出会いは、そこから始まるような気がするんです。(p95)
 もう少し音楽に詳しい人向けの話もある。29才で亡くなったサックス奏者について名越は語る。
阿部薫は観客を拒否するために観客を必要としたんじゃないかと思うんです。つまり観客を突き放すためには、その突き放すべき観客が要りますから。(p220)
 マニアックな3人ゆえ、話は音楽に限らず、あっちこっちへ飛び回る。あとは読んでのお楽しみ。あえて欠点をあげれば、3人がほめあってばかりいるところかな。
  • スプリット 存在をめぐるまなざし カルメン・マキ、名越康文、甲野善紀 新曜社 1998

(2004-12-22)
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