遠い世界にニューヨークでビルが崩壊したとき、「イマジン」が放送自粛になったと聞いた。何で?どこがいけないの?べつに「世の中みな壊れてしまえ」なんて歌じゃないのに。 『放送禁止歌』の背表紙を見るたびに、そのときのことを思い出した。フォークの本を読んだのがきっかけとなり、やっと扉を開くことができた。読んでみたら、著者はドキュメンタリー「放送禁止歌」の制作者でもあったのだ。 本書は、4つのパートからできている。企画を立ててからドキュメンタリー制作までの取材過程をまとめた第1章。番組が放送されるまでの放送局とのやり取りをまとめた第2章。ここでは民放連の内規についてふれている。第3章のデーブ・スペクターとの対談では、日米の事情を対比して語っている。ラップとかPC運動の話が出てくる。そして第4章では「竹田の子守唄」のルーツを訪ね、紙ふうせんの後藤悦治郎への電話取材で終わっている。 メインとなる第1章の結論は、とても単純明快である。しかし単純だからといって、実行するのがやさしいわけではない。 「他人の意見への同調ではなく、自分の頭とことばで考えること」文字にすればたったこれだけのことが、メディアに携わる人間にはできなかった。ことばでいくら概念化しても、体にしみついた習慣になっていないかぎり、単なるスローガンで終わってしまう。 著者と一緒に謎を解き明かしていくうちに、これまで放送禁止だと思っていた歌が、じつは単なる思い込みだったことに気づく。そういう意味で、この本は良質のミステリーでもある。 (2003-07-06) |