老人介護問題発言



 『老人介護問題発言』は、三好春樹という介護の世界ではスターのような人の本だ。この人もっと年寄りかと思っていたら、1950年生まれでけっこう若い。老人問題は、いつか読もうと思っていたが、ずっと後回しになっていたテーマだ。その1冊目が、いきなり介護という核心部というのも、どことなくおかしさを感じる。

 介護の専門家の三好氏は、老病死なんてどんなに科学が進歩しても諦めるしかない、「誰もが安心して過ごせる老後を」なんてありえないと断言し、多くの人は政府に対して錬金術的なものを求めていると厳しく批判している。

 この本の中で、いろんな人の発言、文章、詩が引用されている。
 あるホスピスの院長は、「(人間の尊厳は)結局、自分の頭にとまったハエは自分で追うのが人間でしょう」と言い、谷川俊太郎は「おじいちゃん」、「母を売りに」、「小母さんの日記」を朗読している。

 三好氏は、老人にとって自分が自然に感じられるような関わり方をめざしている。そのためか看護婦などの専門職に対しての舌鋒は鋭い。看護の世界は、「管理主義、権威主義、科学コンプレックス」の3Kに浸りきっているとバッサリ。「官製ケアプランが良いか悪いか、やってみなければ分からないではないか、まずやってみてから」という意見に対しては、「人殺しはやってみなくても悪いに決まってる」と切り返している。長年現場を見続けてきた人の発言だけに重みがある。

 彼が目ざすところはただ一つ。人格や倫理を経由しないケアである。最近は、宅老所なんていう言葉もよく耳にする。この本には「民間デイサービスの作り方マニュアル」もついているので、宅老所を始めたいと思っている人には参考になるだろう。
  • 老人介護問題発言 黙ってはいられない 三好春樹 雲母書房 1998 NDC369.2 \2000+tax
     これまでの発言集で、谷川俊太郎との対談もあり。
(1999-09-27)