和風の歴史を振り返ってみると



 野口雨情、本間長世、中山晋平という名前は知らなくとも、十五夜お月さん、七つの子、赤い靴、しゃぼん玉などの歌なら知っている人も多いだろう。そんな童謡の話から筆を起こしているのが『日本流』である。著者は、編集工学で有名な松岡正剛だ。

 この本を読んでいるとたくさんのキーワードが出てくる。見立て、目利き、超部分などなど。どれをとっても語るのにたくさんのページが必要となる。さらに、寄物陳思、不立文字、スモールサイズ感覚、祖霊信仰などが続く。これだけ並べれば、興味のある人はこの本を手に取るだろう。そう『日本流』は、日本文化の入門書でもあるわけだ。ただし、外国人向けに書くのとは違い、著者の思い入れや嗜好がもろに出ている。

 昔は、本を書く人なんて天に住んでいるかと思うくらい遠い存在であり、偉大な人に思えた。しかし、少し本を読むようになるとそれは単なる思い違いであり、たいしたことのない人が偉そうに本などを書いていることに気づいた。それと同時に、私などの思いもよらないハイレベルの人がいることも分かった。そんなすごい人のひとりが、松岡正剛である。私が不得手とすることを、難なく理解し、まとめあげ、本に書いてしまう。その手さばきは、名人芸である。

 それはこの本を読むと分かる。自分の比較的詳しい分野について書かれたところを読んでみるといい。ごく簡潔に書かれた文章の背後に、相当な量の知識が隠れていることが実感できるだろう。

 初めて外国を旅行して日本のことを説明するときに、自分が知らぬ間に愛国者になっていることに気づいた。ふだんは悪口を言っている日本の社会について、外国の人に語るときには、しっかり弁護してしまうのだ。でもそれをナショナリズムと呼ぶのにはためらいがある。そんなモヤモヤをうまく言葉で言い表わす自信がない。

 そんな日本文化の底流に流れていて、どこか自分と連続性のある、なにものかについて人に語りたいときに、この本を示せばいい。おぼろげながら私の言いたいことが伝わるはずだ。
  • 日本流 なぜカナリヤは歌を忘れたか 松岡正剛 朝日新聞社 2000 NDC914.6 \2000+tax
(2000-08-11)
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