綴り方のお勉強



 ホームページを作りはじめるときに、文章の書き方なんていう本はあえて読まなかった。よけいなことが気になって書くのにさしつかえると思ったからだ。もうそろそろいいかなと手にしたのが、桑原武夫の『文章作法』だ。

 この本は、1979年に行われた現代風俗研究会の文章教室での講義と、他の講師も出席した合評会の速記録をもとに作られている。その講師というのが、鶴見俊輔、橋本峰雄、多田道太郎という豪華メンバー。一方受講生は、いろんな職業の20代から70代までの多様な15名。なんともラッキーな人たちだ。

 まずひととおり基本を説明した後、例文を示しながら講評を加えていく。なかでも、梅棹忠夫の『文明の生態史観』の分析はとても参考になった。桑原氏の説明の要旨を、いくつか目次からひろってみる。
自分で考えたことを書く
できるだけシンプルに書く
独り言になってはいけない
パンチをきかせて書く
密度の濃い文章を書く
あいまいなことは書かない
 私も、このレベルのことは書いているうちに気づいた。でもそのように書けているかどうか自分ではわからない。アマチュアとプロでは文章のレベルが違うので、プロのまねをしようとは思わない。でも将棋でいうなら、アマ初段レベルでありたいと願っている。あまりひどい文章を書いてしまうと、自分でホームページを読むのがいやになってしまうので。

 江川問題とピンクレディーを題材とした受講生の作文例は、へただし、退屈だし、読むのに疲れる。私はこういうエッセイの類いが体質的にだめだなのだ。ところが合評会で取り上げられる作文は、かなりレベルが高い。とくに主婦の方が書いた「スペインの影」はすばらしく、多田氏もほめている。
スペイン案内といった本を何冊か読みましたけれども、これだけ書けている文章は少ない。ふしぎにへたなのが多いんです。スペインを対象とすると、なぜかひどい文章を書く。これは、かなりいいと思いますよ。
 800字程度のコラムやエッセイを書きたい人、人の心に残る文章を書きたい人には、とても参考になる。本自体は、行間もすかすかだし、本文は200ページ弱しかない。でもテキストとしてはお買い得だ。菊地信義の装丁は、落ち着いた雰囲気を持っていて、文机に置くのにふさわしい。

 最後にコラムのサンプルとして、丸谷才一の『どこ吹く風』をあげておく。
  • 文章作法 桑原武夫 潮出版社 1999 潮ライブラリー NDC816 \1200+tax
     1980年刊行の本に、多田道太郎の解説を加えたもの

  • どこ吹く風 丸谷才一 講談社 1997 NDC914.6
     「現代」の連載(90/1-96/12)に、書き下ろしを加えた。
(2000-09-08)