カードを持って銀行へ走れ



 『遺言状を書いてみる』は、実用の書である。第1章では、サンプルとして著名人の遺言状が紹介されている。福島瑞穂、清水義範、石坂啓、中道風迅洞、土屋賢司の5名分。もちろん遺言状の種類とか税金の話などオーソドックスな話が多い。

 その他「自分が死にそうになったら、カードを持って銀行へ走れ」のような具体的なアドバイスもある。時代を反映してか、猫に年金をつける、散骨する、むだな延命治療を避ける、のような現代的な課題にも対処している。

 しかし本書のポイントは、あくまでも遺言状を「書く」ことにある。忙しさにまぎれて先延ばしにしがちなことを、どうやって書けるようにしむけるか。作家のように、人里はなれた温泉宿にこもるのもいいかもしれない。

 そして遺言状を書くことは、自分の死に際を自分で選ぶことにもつながる。そういった意味で、本書は木村弁護士ならではの本に仕上がっている。

遺言を書くというからには、自分の死ということと正面からむきあっている。だからだろうか、今まで忘れていた出来事、人との出会い、これらが正に走馬灯のように浮かんできた。これは一種崇高な体験だったといえる。自分史を遺言に残すことは法的には何の意味もないのだが、ぜひやってみて頂きたいことの一つである。
 しかしなぜ彼がこういう本を書いたのか。その動機は『僕の考えた死の準備』に詳しく書いてある。これを読むと「遺言が愛する家族への大切なメッセージである」という主張がひしひしと伝わってくる。
  • 遺言状を書いてみる 木村晋介 筑摩書房 2001 ちくま新書282 NDC324.7 \680+tax

  • 僕の考えた死の準備 自分らしい遺言、死に方、お葬式 木村晋介 法研 1996
     キムラ式遺言状という書き込み式フォーマットつき
(2003-06-14)
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