村上龍まであと一歩



 『GO』は、団塊世代とその子どもたちが主役の小説である。でもこの作品を、在日朝鮮人問題を正面から取り上げた意欲作、だなんてコメントしないでほしい。

 「僕」は、高校3年生。元全日本チャンピョンを父に持つ不良である。開校以来のバカだった僕は、開校以来の秀才だった正一と友だちになり、開高健の『流亡記』なんかを借りて読んでいる。ガールフレンドとのデートでは、本屋、CDショップ、レンタルビデオ屋にでかけて「カッコいい」ものの発掘を楽しむ。そんなありえないような設定である。

 金城という姓から推測するに、これは私小説だろう。たしかに民族問題が重くのしかかる作品ではあるけど、それは作者にとっては日常でしかないはずだ。自分にとって一番切実だったことを書いた。ただそれだけのような気がする。

 作者は映画が好きらしく、「勝手にしやがれ」、「大人は判ってくれない」、「カッコーの巣の上で」などの作品名がたくさん登場する。読んでいて、井筒和幸監督の「ガキ帝国」を思い出した。「けんかえれじい」みたいに、やたら暴れ回る映画だ。けんかのシーンではなく、映画館のロビーでのやりとりが印象に残っている。

 ところでこの作品、直木賞を受賞している。これで賞がもらえるのか。あと一歩だと思うのだが。
  • GO 金城一紀 講談社 2000 \1400+tax
(2003-09-01)
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