愛ラブ日本語



金川欣二『おいしい日本語』は、タイトルゆえに読むのが遅くなった。書棚を前にしても、思わず避けて通る題名だ。「大人のための言語学入門」というサブタイトルもいただけない。いいアイデアもないのだけど、せめて『おかしな日本語』とでもしとけばよかったものを。なぜなら、本書は日本語の誤用事例集であり、日本語を材料にしたジョーク集でもあるからだ。この本が「間違いだらけの日本語」と解釈されても、「おもしろすぎる日本語」と解釈されても、困ることはない。

さて、「言葉は曖昧で、一概には語れない」というのが本書のエッセンスなわけだが、「誤解は破壊ではなくて、創造なのである」と言いつつも、「誤解されないように日頃から気配り」しようねと注意をうながす。著者は、いたって親切な人なのである。
言語学者としては、どの言語もそれぞれに同じ価値があると言わなければならないが、その中でも日本語はすごい。
繰り返すが、今、日本人に必要なのは日本語力なのである。日本語の読解力なしに英語力がつくことはありえない。(p237)
そして日本語がいかにおもしろい言語であるか、味わいのある言語であるか、たくさんの例をあげて実証している。国立富山商船高専教養学科教授という肩書きからわかるように、富山から日本語に愛をこめて。
これからの社会は協調性よりも社交性が大切だ。感性が他人と違うからといって、違う日にゴミを出していいということにはならない。大切なのは、最低限のチャンネルを開けておかなければならないということだ。絶対主義も歴史主義も相対主義も世界を救えない。時間がかかってもお互いの言い分をいえるチャンネルを担保しておかなければならない。話し合いのためのプロトコル(礼儀、約束事)が大切なのだ。社交的になろう。(p247)
バカの壁とか言って投げ出さないところが、高専の先生らしい。熱血教育者の片鱗を垣間見るようだ。

一般向けに書かれたことばの本は、低レベルか、主張が偏っているかのどちらかになりやすい。その点、本書はバランスといい、多様性への目配りといい、じつによくできている。これがベストセラーにならないのは、日本語ブームの浅薄さゆえか。もし新聞が書評で取り上げていないのなら、それは愛がないからだ。 (2007-06-03)