ともに暮らす



 『サイレントビート』は、全寮制の中学・高校を舞台にした小説である。ジャンルとしては、ヤングアダルトになるのかな。朝の読書タイムにぴったりの本だ。

 主要な登場人物が数人いるけど、みな中学生。セリフがリアルで、大人が書いたとは思えない。たぶんあの学校をモデルにしたんだろう、と想像しつつ読んだ。あとがきで、作者がかつて全寮制の学校の教師だったことがわかった。

 学校である事件が起こる。だけど『シキュロスの剣』ほど息苦しい作品ではない。事件の真相について、複数の登場人物の視点から描いていく。手法としては、黒沢明の「羅生門」に似ている。

 男の子と女の子が会話を交わすというような単純な場面でも、視点を変えると別の物語になってしまう。とくに思春期前期の子にとっては、相手の立場で考えるという想像力が持ちにくい。こういう本を読むことで、いつもヘラヘラしているあいつにも内面というのがあるのだ、と気づくきっかけになるかも。

 ふりがなはついているけど、かなり分量がある。小手先で仕上げた感じはまったくしない。自分の青春時代の体験を振り返りつつ綴った渾身の一作だ。
(2005-10-26)